Introduction:世間からは ”新右翼” と評され、代表・木村三浩氏を中心としたユニークな活動で知られる「一水会」
その一水会の機関紙『月刊 レコンキスタ』(令和元年9月1日号)に興味深い記事が掲載されました。
記事は8月8日、東京の高田馬場で開催された「第204回 一水会フォーラム」にて、ノンフィクション作家の森功(もり いさお)氏による講演の内容を講演録として綴られたものです。
タイトルは「官邸官僚 ――安倍一強を支えた側近政治の罪」
今や ”官邸官僚” と揶揄される安倍首相の側近らに着目し、彼らの生々しい素顔を炙り出しています。
今回は『月刊 レコンキスタ』より、記事の要旨を紹介いたします。
”官邸官僚” とは何か!?
”官邸官僚” とは、森功氏がつくった造語で政権運営を行う上で安倍首相、菅官房長官の手足となり働き、そして暗躍する「首相秘書官」「首相補佐官」「官房副長官」「官房副長官補」らを指し、今では朝日新聞でも使われるほど世の中に定着しているフレーズです。
官邸官僚は各省庁から首相官邸へ出向してきた者たちですが、「政治主導」の名のもとに省庁の垣根を超え、事務次官をも動かすほどに ”スーパー官僚” 化するなど、権力の源泉として機能しています。
官邸官僚は2つのグループに分けられる
一つは「経産省派」、もう一つは「菅派」です。
「経産省派」の中心人物は経済産業省出身の今井尚哉(いまい たかや)首相秘書官で、一方、「菅派」の中心人物は国土交通省出身の和泉洋人(いずみ ひろと)首相補佐官です。
ちなみに、「菅派」の「菅」とは、むろん菅官房長官を指しています。
現在の菅官房長官は安倍政権下で絶大な権力を誇っており、先般、小泉進次郎氏も結婚を口実に菅氏に接近しましたし、自民党の長老である古賀誠氏も、自分の孫を菅氏に抱かせたポスターをつくったというから驚きです。
菅氏本人は、まるでその気がないような態度を装っていますが、永田町では「菅氏以外にポスト安倍はいない」と噂されています。
【経産省派】今井尚哉 首相秘書官
今井尚哉(いまい たかや)氏は東大法学部卒業後、通商産業省(現在の経済産業省)に入省、第一次安倍政権時から安倍首相に仕えており、現在にいたっては安倍首相の政策のほとんどは今井氏が企画立案していると言われています。
例えば、「アベノミクス」がそうですし、「一億総活躍社会」も今井氏の手によるものでした。
ただ、それらがことごとく失敗に終わり、その後は海外への原発輸出に手を染め、また、中国・習近平が唱える「一帯一路」政策に対しは、これまでの外務省が定めていた方針をくつがえし、積極参加に転換させたのも、実は今井氏なわけです。
外務省に頼らず、自ら外交を行うといったように、今井氏は極めて優秀、頭脳明晰と言われており、安倍首相は個人的にも彼を信頼し切っていますが、安倍首相が彼を寵愛するのはそれだけの理由に留まりません。
第一次政権では、安倍首相は ”お腹がイタイ” といって(潰瘍性大腸炎)所信表明演説後に政権を投げ出すといった無様な醜態をさらしましたが、誰もが「安倍は終わった」と見なしていた中、そんな安倍氏に手を差し伸べたのが今井氏だったと言われています。
今井氏は安倍氏を励まし、「捲土重来を期して健康づくりをしましょう」と、高尾山登山に誘ったといいます。
安倍氏にとっては最も苦しい時に見捨てなかったということで、今井氏に対しては益々信頼度が上がりました。
さらには、今井氏の叔父である今井善衛氏(元通産次官)が、岸信介が商工大臣だった当時、その下で商工次官を務めていたことも大きいでしょう。
今では「首相の分身」「総理の化身」とまで言われています。
【菅派】和泉洋人 首相補佐官
秋田県出身の菅官房長官は、高校卒業後に集団就職で上京。その後、苦学しながら法政大を卒業した後、政治家を志し政治家秘書となります。
初当選は1987年の横浜市議会選でしたが、和泉洋人(いずみ ひろと)氏とはその頃からの親交となります。
和泉氏は東大工学部卒業後、建設省(現在の国土交通省)に入省しました。建設省では傍系とされていた住宅局に配属されましたが、出世コースから完全に外れていたはずの和泉氏が注目されたのが、小泉政権下での構造改革特区制度でした。
彼は官邸内で「特区のスペシャリスト」として名を馳せ、省内では局長クラスであったにも関わらず、官邸内部から事務次官をも動かす ”下剋上” を起こしたわけです。
その後も、耐震偽装の「姉歯事件」でも国交省の制度見直しで注目を集め、民主党政権を泳ぎ抜き、第二次安倍政権で菅官房長官に抜擢され首相補佐官に就いたのです。
また、和泉氏はアウンサン・スーチー氏とのパイプを持ち、ミャンマー外交の窓口としても機能しています。
現在では沖縄・辺野古基地問題に、菅官房長官の ”ミッション” を果たすべく、深く絡んでいます。
国家を私物化する者たち
今回は代表的な ”官邸官僚” として、今井・和泉の両者を取り上げましたが、『レコンキスタ』による森功氏の講演録では、その他にも警察庁出身の杉田和博・官房副長官や、北村滋・内閣情報官らも登場します。
こういった ”官邸官僚” に見られる特徴の一つとして興味深いのは、彼らが何らかの ”ルサンチマン” (強者に対して仕返しを欲する鬱血とした弱者の心)を抱えているだろう、ということです。
彼らは出世コースから外れたり、左遷させられたりと、一度はメインストリームから弾かれた経験を持ちますが、安倍首相のインナーサークルに拾われることによって息を吹き返した者たちです。
とはいえ、彼らは皆一様に優秀ですし、実行力も備わっていることには間違いありません。
それでも森功氏は、彼らの動機が国家への忠誠心や、社会を良くするという思いから生まれているようにはとても思えないと言っています。
つまり、安倍政権の目指すところが、本当に国益に適うものなのか疑問と言う他なく、”官邸の住人” の ”私益” なのではないかと、森氏は糾弾しているのです。
そして、森氏は「官邸官僚が暴走した時にチェックする機関がないことが一番の問題だ」と指摘しています。
なるほど、それがまさに「今」であることを、私たちは痛感せずにはいられません。