白坂和哉デイウォッチ

アメリカ国務省、安倍首相に対しては淡々と

モーガン・オルタガス / Morgan Ortagus アメリカ国務省報道官
Photo by : アメリカ国務省HP

Introduction:安倍首相による今回のイラン訪問については、最高指導者・ハメネイ氏の強烈なまでの反米意識を再確認した、ということ以外の成果は何もなく、それは結果として安倍首相の外交敗北と言わざるを得ません。

また、これに対するトランプ大統領は、安倍首相に感謝しつつも、冷めた反応を示しています。

国家間の外交というよりはむしろ、トランプ大統領のメッセンジャーで終わった今回のイラン訪問となりましたが、そもそもアメリカ外交を担う国務省はどのように安倍首相を見ていたのでしょうか?

”行かされ感” 満載のイラン訪問

安倍首相は、自らの外交姿勢を「地球儀俯瞰外交」と自称し、「外交の安倍」が安倍首相の売り文句となっています。

当初、核開発をめぐり、関係が最悪となったアメリカとイランとの仲介を果たすかのように報道されていましたが、それが本当であれば安倍首相の外交手腕もなかなかのものでしょう。

ただ、アメリカとイランの関係悪化はここ最近に始まったものではなく、70年代後半起きた、「イラン革命」や「イランアメリカ大使館人質事件」の頃から根強く続いており、安倍首相がどうにかできるものではないことは、誰の眼にも明らかでした。

結局、今回のイラン訪問については安倍首相の自発的なものではなく、背景にはアメリカ・トランプ大統領から強い要請があったことが分かっています。つまり、トランプ大統領に ”行かされた” イラン訪問です。

安倍首相に仲介などできない理由

日本のメディアが安倍首相をもてはやす一方で、アメリカ国務省は至極冷静でした。
6月10日の国務省の定例ブリーフィングの場において、モーガン・オルタガス報道官は、記者団に対して次のように説明しています。

ドイツのヘイコ・マース外相はテヘランにいます。日本の安倍首相も今週現地へ向かう予定です。 イランの核兵器の入手を認めないことについては、 我々と同盟国の間に何の隔たりもありません。我々はイランの弾道ミサイル計画、テロ活動、そして人権侵害の脅威についても一致しています。

Germany’s Foreign Minister Heiko Maas is in Tehran. Japan’s Prime Minister Abe will be there this week as well. There is no daylight between us and our allies on the objective of denying Iran the ability to ever acquire a nuclear weapon. We also agree about the threat of Iran’s ballistic missile program, its terrorist activities, and human rights abuses.
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Department Press Briefing – June 10, 2019

ここで言う同盟国とはもちろん日本のことですし、既に現地入りしたドイツの外相についてさらりと言及したことから、イラン核合意をめぐって溝ができているとはいえ、当然のことながらドイツも含まれています。

つまり、日本も含めたアメリカ同盟国は、イランに対する認識面において「完全一致してますよ」と、明確にしているわけです。
これは、アメリカにしてみれば至極もっともですし、イラン政府当局もそのように認識したでしょう。

よって、日本のメディアが忖度してどんなに安倍首相を持ち上げようとも、アメリカは代弁者として日本の首相をイランに送っているとメッセージを発信しているので、このような中で中立的な仲介など安倍首相にできるはずもないのです。

アメリカは安倍首相だけを支持しているわけではない

安倍首相のイラン訪問については、例えば、産経新聞などが『安倍首相の取り組み「すべて支持」 米国務省報道官』といったように、ことさら安倍首相の活動を大きく見せようとしていますが、これは ”脚色” とも言える表現です。

このことについては6月12日、オルタガス報道官が定例ブリーフィングの場で次のように説明しています。

ですから、日本の首相ができることは何でも、それが誰であっても、もちろん我々は支持します。

So as – whatever the Japanese prime minister is able to do, we of course are supportive of anyone
/ Department Press Briefing – June 12, 2019

この話には前後関係があって、オルタガス報道官曰く、「アメリカとその同盟国は、イランの安定化とイランの悪意ある活動を辞めさせる。そういったメッセージをイランに送りたいと願っている」と。

そして、「そういうことができるのであれば、だれでも(どの同盟国でも)支持しますよ」と、ごく当たり前のことを言っているに過ぎないのです。

ちなみに、その後に「ドイツの外相がそのメッセージを伝えたと確信しているし、安倍首相もそうするだろう」と続けているように、取り立てて安倍首相のことを言っているわけではなく、むしろドイツに気を遣っているのではないかとすら思われるのです。

こうしてみると、日本のメディアとアメリカ政府当局の温度差に、相当な隔たりがあるのが分かります。

トランプを失望させた安倍首相

「安倍総理が、アヤトラ・アリ・ハメネイとの会談のために、イランまで行ってくれたことにはとても感謝しているが、私個人の感想では、交渉については時期早尚だろうと思う。彼らは準備ができていないし、我々も同様だ。

トランプ大統領のTwitterを読む限り、彼は今回の安倍首相のイラン訪問に対し、あまり満足していないと思われます。

「彼らは準備ができてないし、我々も同じ」なんて言われたら身も蓋もありません。安倍首相はトランプ大統領の観測気球代わりに使われたのではないでしょうか。

それでも、安倍首相は運が良かったと言うべきでしょう。なぜなら、外交の成果を検証する暇もなく、日本が関わるタンカーがホルムズ海峡付近で攻撃されるショッキングな事件が飛び込んできたからです。

日本は、しばらくこのニュースで持ち切りになることは間違いなさそうです。

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