白坂和哉デイウォッチ

「NHKから国民を守る党」大躍進のヒミツ

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Introduction:7月21日に投開票された参院選で当選者を出し、しかも政党要件まで満たした「NHKから国民を守る党」(通称:N国)

政党名で約84万票、代表の立花孝志氏個人で約13万票、さらには選挙区では約152万票、合計約250万票獲得するなど、今春の統一地方選(当選者26名)に引き続いての大躍進です。

なぜ今、「NHKから国民を守る党」が大ブレイクするのでしょうか?
今回は「N国」躍進の秘密を探ります。

そもそも詐欺まがいのNHK商法

筆者はテレビを所有していないので、もちろんNHKの受信料は払っていません。それでもNHKの集金人と言い争いをしたことが何度かあり、そのたびに非常に嫌な思いをしてきました。

なにもこれは筆者に限らず、NHK集金人の訪問時のトラブルや、威圧的な態度をされて不快な思いをしたケースなどは枚挙に暇がありません。

そもそもNHKの受信料の在り方が、根本的におかしいと感じます。

なぜ、テレビを所有しただけで「公共の福祉」の名のもとに受信料の支払い義務が発生するのか? に始まり、ワンセグ対応のスマホやカーナビのテレビも課金対象になるのは到底納得できません。

しかし、これらの問題の解決方法は実にシンプルです。
N国が主張するように、「WOWWOW」や「スカパー!」などが採用している「スクランブル放送」にすれば良いだけの話です。つまり、契約者だけが放送を見ることができる、実に真っ当な方式です。

ところが、NHKはスクランブル放送を導入するつもりなど全くなく、理由として次のように説明しています。

・NHKは、広く視聴者に負担していただく受信料を財源とする公共放送として、特定の利益や視聴率に左右されず、社会生活の基本となる確かな情報や、豊かな文化を育む多様な番組を、いつでも、どこでも、誰にでも分けへだてなく提供する役割を担っています。

・緊急災害時には大幅に番組編成を変更し、正確な情報を迅速に提供するほか、教育番組や福祉番組、古典芸能番組など、視聴率だけでは計ることの出来ない番組も数多く放送しています。

・スクランブルをかけ、受信料を支払わない方に放送番組を視聴できないようにするという方法は一見合理的に見えますが、NHKが担っている役割と矛盾するため、公共放送としては問題があると考えます。

・また、スクランブルを導入した場合、どうしても「よく見られる」番組に偏り、内容が画一化していく懸念があり、結果として、視聴者にとって、番組視聴の選択肢が狭まって、放送法がうたう「健全な民主主義の発達」の上でも問題があると考えます。

これらは、果たして回答になっているでしょうか?
特に太文字で記した後半2つの回答には矛盾があり、回答としての説得力を欠いています。

また、前半2つの回答については、NHKのスローガンを述べたものに過ぎず、回答にすらなっていないのです。

以上のことから、かなりの数の人々が、NHKの受信料に対して疑問や不満をもっていると考えられます。

「N国」を考える上で興味深い動画

「NHKから国民を守る党」の代表、立花孝志氏は ”YouTuber 政治家” を自称するだけあって、YouTubeへの動画配信も積極的に行っています。

その中で「柏市議会議員選挙中に選挙妨害があり妨害者が逃亡を企てたので現行犯逮捕して柏警察に引き渡しました。」は、N国を考える上で、極めて興味深い動画となっています。

動画の[15分40秒]から問題のシーンが展開されます。
立花氏の演説の途中で、聴衆から「嘘つき!」の声が浴びせられます。
すると立花氏は「だれや!」「オイ!だれが嘘つき言うたんや!」と、まるでヤクザのように聴衆の中に割り込み、発言をした男性を吊るし上げるのです。

立花氏は「選挙妨害」を動画の中で訴えていますが、この程度では選挙妨害には当たりません。

この動画にはいくつかの意味を見出すことが可能です。
つまり、「我々にヤジでも飛ばそうものなら、ただではおかないぞ!」といった事前警告、恫喝的な意味です。この動画をみれば、さすがにN国に対しヤジを飛ばす気持ちは失せるでしょう。

安倍首相に対する「安倍辞めろ!」コールがたびたび話題となった昨今において、今回の立花氏の強圧的な態度は、聴衆のヤジに対しての強力な抑止力になるでしょう。

また、この動画で ”吊るし上げられた” 一般の男性は、ごく普通の真面目そうな、もしかしたら大手企業のそれなりの地位の方、いわゆる ”エリート” かもしれません。

今回のように、エリートとおぼしき一般人を吊るし上げることは、多くの人々が嫌悪感や反感を覚えますが、と同時に、これを喝采し留飲を下げる人々もまた、数多く存在するのも事実と言わざるを得ません。

グローバル経済が社会の隅々まで浸透し、格差社会が現在進行形で突き進む中で、そんな社会の底辺から抜け出せず、社会に対し復讐すら儘ならない多くの人々の、立花氏は代弁者・代行者になっているかもしれないということです。

「政治的非常識層」の台頭なのか?

その一方で、文筆家の古谷経衡(ふるや つねひら)氏が、Newsweek日本版に寄稿した「『NHKから国民を守る党』はなぜ議席を得たのか?」は一考に値すると感じます。

古谷氏はこの中で、かつては色モノのように扱われ、”泡沫候補” でしかなかった「マック赤坂氏」を引き合いに出し、これまでの「政治的常識」が崩壊し、馬鹿な真似や思い白いことを言う人に対して、本当に票を投じる人が増えたのではないかと指摘しています。

つまり「政治的常識」が存在しない、思想もなく、主義もなく、主張もなく、思慮もなく、そして知性も教養もない、漠然とした「政治的非常識層」が、N国支持者のもう半分だと考えると、この国全体の、統計でも、データでも、試験でも測ることのできない、どうしよもなく後戻りのできない不可逆的な常識の溶融が進んでいると考えるよりほかない。
~ Newsweek日本版「『NHKから国民を守る党』はなぜ議席を得たのか?」~

つまり、古谷氏はN国に投票した約半数ぐらいは「政治的常識」が欠落し、愉快犯的に投票する類の人々だろうと見ているのです。

確かに、それはそれで鋭い指摘でありますが、ここまで内容を総括すると、今回のN国躍進の理由としては、次の3点が挙げられるだろうと考えます。

①NHKの受信料の在り方や、徴収の仕方に不満や反感を持つ人々の怒りが、沸点に到達しつつあること。

②格差社会で底辺に甘んじている人々が、立花孝志氏を代弁者のように見なし、言動に喝采を浴びせていること。

③政治的な主義・主張が希薄な「政治的常識」のない人々が、面白いという理由でN国に投票していること。

こうしてみると、「NHKから国民を守る党」は、あたかも日本のダークサイドを体現しているかのように思われます。
そして、そのことは現在の日本が置かれている現実をありのままに映し出す「鏡」なのかもしれません。

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