白坂和哉 デイ ウォッチ

逃亡したカルロス・ゴーン!~分断国家レバノンと物笑いになった日本の司法

Introduction:突如として日本からの脱出を試み、まんまとレバノンへの逃亡に成功した元日産自動車会長、カルロス・ゴーン氏。

彼は不公正で腐敗した日本の司法から逃れるために、日本から離脱したと主張しています。

ちなみに、ゴーン氏が潜伏したレバノンは不思議な分断国家です。当面彼はこの地を拠点とし、日本に対し逆襲の機会を伺うでしょう。彼には日本の司法制度を告発する映画の構想もあるとか・・・。

もはや日本の司法は世界の物笑いとなっていますが、”物語” はまだ始まったばかりです。今後のゴーン氏の動きに目が離せません!

ゴーン氏が逃亡するのも当然だ

もはや私は有罪が前提とされ、差別がまん延し、基本的な人権が無視されている不正な日本の司法制度の人質ではない。
日本の司法制度は、国際法や条約のもとで守らなくてはならない法的な義務を、目に余るほど無視している。
私は正義から逃げたわけではない。不公正と政治的迫害から逃れたのだ。
いま私はようやくメディアと自由にコミュニケーションできるようになった。
来週から始めるのを楽しみにしている。

逃亡の際に発信したカルロス・ゴーン氏の声明文

金融取引法違反などの罪に問われ、現在は被告人として保釈中の身であった元日産自動車会長、カルロス・ゴーン氏が昨年の大晦日に発信した声明文は、日本のみならず瞬く間に世界中を駆け巡りました。まさに年末年始の ”大遁走劇” です。

彼は日本の司法、そして検察のみならず、立法と行政の統治機構の全てを「全否定」しているかのようです。

確かに、ゴーン氏は日本の企業に在籍し、日本で企業活動をして利益と財産を得ていたのにも関わらず、最後には ”法治国家” である日本から逃亡したわけです。もし、課せられた罪状に不満があるのなら、日本の法に従い、日本の司法の欠陥を堂々と訴えるべきであったのではないか?――そのように考える人も少なからずいることでしょう。

しかし、日本は国際標準レベルを満たすほどの「法治国家」と言えるでしょうか?

一人の個人など、警察や検察といった巨大な国家権力に対してはひとたまりもないのにも関わらず、 刑事訴訟法では被告人の取り調べに対し、当然の権利であるはずの弁護士の同伴すら日本では認められておりません。

そして、刑事事件で起訴でもされようものなら99%が有罪となります。
民事で国を訴えても、やはり99%が敗訴する。
――それが日本の不公正で腐敗した司法の現実です。

仮に犯罪を犯したとしても、まともに司法が機能していなければ、人権すらまともに保証されていない。そんな国に拘束され、そんな国の裁判を受けるいわれはありません。今回のカルロス・ゴーン氏による日本からの離脱は、至極真っ当な決断だった思われます。

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レバノンという分断モザイク国家

そんなカルロス・ゴーン氏が逃亡先へと選んだのがレバノン。彼の祖父が暮らし、ゴーン氏も少年時代を過ごしたとされる国ですが、このレバノンという国、実に不思議で複雑な権力構造を有しています。

レバノンは共和国体制を謳っておきながら、その実態は私たちが考えるような民主主権国家とは全く異なります。この国は1943年の独立以来、「宗派主義」という特殊な制度のもと、「多極共存型民主主義体制」が敷かれ現在に至っています。

つまり、「キリスト教諸派」「イスラム教スンニ派」「イスラム教シーア派」を公認宗派と認定し、この3つの宗派が国家を分割統治している実態が「宗派主義」であり、それらの人口比により国家の主要ポストを各宗派に割り当てているのです。

もちろん、それぞれの宗派に属する国民は、国家よりも宗派の結束を最優先することになり、彼らを拘束するのは国家の憲法や法というよりも、むしろ宗派の教義となります。

レバノンの公認宗派の人口比

イスラム教スンニ派24%
シーア派35%
ドゥルーズ派5%
アラウィ派1%
キリスト教マロン派21%
ギリシャ正教7%
ギリシャ・カトリック4%
アルメニア正教3%

具体的には、「キリスト教マロン派」「イスラム教スンニ派」「イスラム教シーア派」にそれぞれ「大統領」「首相」「国民議会議長」が割り当てられることが慣例化しています。

そして、これらのポストは日本のように、議会制民主主義に基づいた役割分担があるわけではありません。大統領、首相、国民議会議長の誰もが大きな国家権力を持ち、常に権力闘争を展開しているようなところがあります。

ちなみに、カルロス・ゴーン氏はキリスト教徒なので、キリスト教マロン派のミシェル・アウン大統領の庇護を受け、大統領サイドは今後ともゴーン氏を守ってゆくことになります。

◆ 出典記事 ◆
『レバノン政府の関与濃厚に アウン大統領、ゴーン被告保護を約束』

~2020.1.2 jiji.com~

つまり、報道にもあるように、今回のゴーン氏による日本からの逃亡劇の背後にはレバノン大統領が控えており、レバノン政府がゴーン氏の身柄を日本に引き渡すことなど到底考えられず(そもそも日本とレバノンとの間には犯罪人引渡し条約が結ばれていない)、ゴーン氏が日本を訪れることも二度とない、ということです。

日本への逆襲を誓ったカルロス・ゴーン

そもそもゴーン氏の罪状とされる金融取引法違反や特別背任罪などは、調べてみればかなりグレーな部分も多く、しかも逮捕、拘留、別件逮捕、拘留を繰り返す非人道的な日本独自の人質司法の煮え湯を、ゴーン氏は嫌というほど飲まされてきています。

よって、ゴーン氏の日本に対する恨みは半端なものではないと察するに余りあり、そんなゴーン氏は逃亡前の昨年12月の下旬、 アメリカ・ハリウッドの映画プロデューサー、ジョン・レッシャー氏と東京都内の制限住居で面会していたことが分かっています。

◆ 出典記事 ◆
『Carlos Ghosn Flirted With Hollywood, Then Delivered a Plot Twist』

~2020.1.2 New York Times~

その場で話し合われたのは、日本の司法を告発する映画の構想であるとされています。ジョン・レッシャー氏と言えば2014年に公開された映画『バードマン』をプロデュースし、アカデミー作品賞を受賞したことで知られています。

この映画のテーマは「償い」
そして、悪役となるのは日本の「司法制度」です。

この話し合いは暫定的なものであり、大きな構想へとは至らなかったようですが、さて、どうでしょうか?
この映画構想について興味深いのは、ゴーン氏がアメリカの動画配信大手『ネットフリックス(Netflix)』と独占契約を結んだと、フランスの『ルモンド』紙が1月3日に報じたことです。

このことは後になってネットフリックスの日本の広報が否定しましたが、いずれにしても、カルロス・ゴーン氏は日本の司法に対して、大規模な告発を検討しているものと思われ、日本の社会へ与える影響は甚大になるものと考えられます。

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