Introduction:韓国は8月22日、日本と結んでいる軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄すると発表しました。
これを受け、日本国内はインターネットを中心に騒然としていますが、その大部分は、安倍首相や河野外相の外交失敗を批判する声です。
河野外相は経済問題に安全保障問題で対抗するのは「次元が違う」と遺憾の意を表していますが、であるならば、私企業に関する元徴用工訴訟の問題に日本政府が絡み、韓国へ経済制裁したのもまた「次元が違う」と言わざるを得ません。
両国とも、まるで子供の喧嘩のような外交を展開していますが、それでも安倍首相にしてみれば、今回の韓国によるGSOMIA破棄は大変喜ばしいこととして受け止めているに違いありません。
それは一体なぜなのでしょうか?
イージス・アショア配備の根拠が明確となり、改憲が現実化する
現在、物議を醸している「イージス・アショア」は「秋田県秋田市の陸自新屋演習場」と「山口県萩市の陸自むつみ演習場」に配備される予定になっています。
上図は、それぞれの演習場を中心に、半径1000㎞の円を描いたものですが、政府や防衛相は、この半径1000㎞の範囲を迎撃できる配備を想定していると言われています。そして、この範囲には朝鮮半島が完全に含まれているのです。
そういった状況を踏まえ、安倍首相は今、何を考えているのでしょう?
安倍首相のロジックですから、中身は極めてシンプルです。
①韓国がGSOMIAを破棄した今、韓国から北朝鮮のミサイルや飛翔体の情報が得られなくなった。
②よって、日本本土防衛のため、「イージス・アショア」による北朝鮮の備えは ”待ったなし” となった。
③もし、本当に不測の事態が起こった場合、イージス・アショアを運用し、北朝鮮からの攻撃を迎撃するのは自衛隊なわけだから、憲法にも「自衛隊の存在を明記する」必要がある。
安倍首相の最も優先度の高い政策は「憲法改正」以外にありません。
日本国憲法を改正し、政治家としての総決算を行い ”歴史に名を残す” ことです。
よって、今回の韓国によるGSOMIA破棄は、安倍首相にとって「憲法改正」がより現実になるという意味において、願ったり叶ったりなわけなのです。
小泉政権まで遡る ”GSOMIA”
GSOMIA については、実は、第一次安倍政権時の2007年、既にアメリカと締結しているわけですから、情報はアメリカから貰えれば良いと安倍首相は考えています(韓国との締結は2016年)
さらに、アメリカとの GSOMIA については、2003年12月に小泉政権下で閣議決定された、アメリカのミサイル防衛システムの導入まで話が遡ります。
そもそもミサイル防衛システムは、弾道ミサイルの発射を衛星で探索するアメリカからの情報がなければ全く使いものになりません。ただ、この敵国からのミサイル発射情報は高度な軍事機密に属するため、情報を授受する国家間においては情報をガードするための、何らかの措置が必要となります。
よって、2003年の閣議決定から約2年を経た2005年10月、アメリカと日本の自衛隊との米軍再編中間報告に、「共有された秘密情報を保護するために必要な追加措置をとる」との文面が明記されました。
その後、さらに約2年の期間を経た2007年8月、「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)」の締結にいたったわけなのです。
日本人の知らない ”GSOMIA”
それまでの日米間の軍事秘密の保護対象は、1954年に締結された「日米相互防衛援助協定(MDA)」に基づき、アメリカから導入した武器、技術に限定されていました。
しかし、GSOMIA はそうではありません。
作戦計画、武器技術は言うまでもなく、文書、写真、録音、手紙、メモ、スケッチ、そして口頭にいたるまで、要するに伝達手段すべてに対して情報漏洩に縛りをかけるものです。
当然のことながら GSOMIA をめぐっては国会でも議論が交わされています。
1988年5月、岡本行夫・外務省安全保障課長が衆議院内閣委員会において、「この協定を結ぶつもりも意図もまったくない」と、協定締結を明確に否定しています。
また、2007年5月には当時の久間章生(きゅうま ふみお)・防衛相が、国内法の整備は必要なしとの判断を示しました。
しかし、当時の安倍首相はその3ヶ月後には GSOMIA を締結し、さらには「秘密保全制の在り方に関する検討チーム」を発足させ、それが民主党政権でも引き継がれる格好となりました。これが「秘密保全法制に関する有識者会議」の原形です。
当時の安倍首相は、何を考えていたのでしょう?
安倍首相のロジックですから、中身は極めてシンプルです。
①軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結した。
② ”GSOMIA” の受け皿となる「日本版NSC」の設立は必須である。
③日本版NSC を担保する「特定秘密保護法」の制定も当然である。
つまり、「GSOMIA」⇒「日本版NSC」⇒「特定秘密保護法」といったように GSOMIA を起点として、安倍政権により日本の安全保障政策が歪められ、恣意的に取り決められていったわけです。
軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の本質とは、まさにここにあるわけで、今回の韓国による破棄の問題は、何ら本質的な問題とはなりません。