白坂和哉デイウォッチ

2019参院選 「特定枠」とは何ですか?

Introduction:2019年、今夏の参院選。安倍首相は改憲を声高に叫んでいますが、それと裏腹に全体としてはこれといった争点が見いだせない選挙と言われています。

その中で異彩を放っているのが、山本太郎・参議院議員率いる「れいわ新選組」です。

彼らは、昨年から導入された「特定枠」といった制度を活用し、重度の障碍を持つ候補者を擁立するなど、確実に支持を拡大しています。

ところで、この「特定枠」なる制度。つくられたばかりで一般には浸透していませんが、はたしてどのような制度なのでしょうか?

「特定枠」は制約だらけ!

「特定枠」は、2018年7月の公職選挙法の改正で導入された制度で、特定枠が直接関連するのは、今回の参院選で言えば比例代表の方となります。

【例】
 候補者5人を擁立した政党が、選挙の結果、3議席を獲得した場合。

2018年の公職選挙法の改正では、比例代表に「特定枠」という、あらかじめ政党の決めた順位に従って当選者が決まる仕組みが導入されます。法案を提出した自民党は、「合区」された「鳥取県と島根県」「徳島県と高知県」の選挙区で候補を擁立できない県からも、この特定枠を活用して確実に議員を出せるようにしたい考えです。

NHK選挙WEB ” 「特定枠」と「合区」の関係は? ”
※上記画像含む

つまり、優先的に当選する候補者をあらかじめ決定しておく方式で、1票の格差是正のために設けられた「合区」の救済措置といった意味合いがありますが、同時に大きな問題を抱えているのも、また事実です。

先ず、特定枠の候補者は基本的に選挙活動ができません。

以上のように、候補者でありながら、自分のための選挙活動ができないのです。

ただし、他の候補者を応援するために街頭や集会で応援演説をしたり、インターネットを使った活動は認められています。

「特定枠」は違憲・違法ではないのか?

候補者でありながら、なぜゆえに特定枠の場合はこうも制約があるのでしょうか?
実は、どのような経緯でこの摩訶不思議な制度がつくられたのか、よく分かっていないのです。

総務省選挙課の事務官は、新聞の取材にこのように答えています。
「特定枠は議員立法でできました。先生方(政治家)が議論されたものなので、条文にある内容以上のことについては答えられません。たしかに、こうした形で運動を制限することは過去にはなかったと思います。」

このことから分かるのは、合区となった選挙区で「候補者を擁立できなかった県からも候補者を出せるように」と謳っておきながら、 1票の格差是正に名を借りた自民党の ”焼け太り制度” だったということ。

つまり、「特定枠」とは ”自民党の自民党による自民党のための” 制度なのです。

しかも、候補者の選挙活動を ”がんじがらめ” に制限し、得票がある水準に達すれば自動的に当選が決まることなど、選挙の公平性を保証する憲法にも抵触する可能性は否定できず、少なくとも民主主義の精神からは逸脱する制度であることは間違いありません。

独裁的な自民党らしいと言えば、らしい制度です。

山本太郎は「特定枠」を逆手にとった

ふなご やすひこ氏
木村英子氏

そのような中、特定枠を逆手に取るような候補者が現れました。
――山本太郎・参院選議員です。

今回の参院選では山本氏率いる「れいわ新選組」から、2人の候補者が特定枠を利用して立候補しました。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の「ふなご やすひこ」氏。そして、重度障碍者の木村英子氏です。

山本氏は、特定枠を利用したのは障碍のある当事者を国会に送るためとし、自民党の都合でつくられた特定枠を逆手にとったと説明しています。

これにより、ふなご・木村両氏が比例名簿の1,2位となり、山本氏は3位に位置することになりました。

つまり、現職の参議院議員である山本氏が再び当選するためには、少なくとも300万票の得票が必要なるわけです。
山本氏は政治家として大きな賭けに出ています。

違法の可能性すらある「特定枠」制度ですが、「れいわ新選組」のように、必要な人材を当選させるためという趣旨であれば、それは本来の活用の仕方と言えましょう。

争点が見えにくいとされる今回の参院選ですが、「特定枠」をめぐる選挙の行方に目が離せません。

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