Introduction:東京の上空を飛行する『ブルーインパルス』の雄姿は実に美しく、感動的ではありましたが「なぜ、それが医療従事者への感謝に繋がるのか?」と、疑問を感じませんでしたか?
実は、このセレモニーには ”お手本” が存在しているだけでなく、安倍政権はさらに踏み込んで、極めて狡猾な戦略を『ブルーインパルス』に込めていたのです。
しかし、今となっては「人々の感動に水を差すな!」といった声も上がり、このことに対して疑問を呈することができない空気が、既に醸成されてしまったのです。
なぜ『ブルーインパルス』なのか?
埼玉県の航空自衛隊・入間基地を離陸した6機(正確には7機。最後の1機はおそらく撮影機)のT-4(愛称ドルフィン)は、午後12時40分ごろから東京都心上空約1千メートルを20分もの間飛行。白い6本のスモークラインを青空いっぱいに引いて見せました。
5月29日。新型コロナウイルスに向き合う医療従事者に感謝と敬意を伝えようと、航空自衛隊の『ブルーインパルス』が東京都心の上空で編隊飛行を行いました。東京駅や東京タワー、そして東京都庁のそばなど、ブルーインパルスが都心部を飛行したのはこれが初めてです。
この模様は、テレビや新聞を始めとする数多くのメディアで大きく取り上げられ、評判も上々のようです。
しかし、疑問の声も一部では上がっています。医療従事者に対する感謝の気持ちが揺らぐことはないが、「なぜ、ブルーインパルスなのか?」
そして、今は日本全国どこの医療機関も新型コロナで疲弊しているのに、なぜ東京の都心部だけなのか、といった疑問もあるでしょう。
Operation America Strong は雄大だ!
実は、今回のブルーインパルスによる都心部上空の編隊飛行については、明確な「お手本」があります。
──それは、アメリカで展開されている ”Operation America Strong” です。
「オペレーション・アメリカ・ストロング (Operation America Strong)」と名付けられた展示飛行は、外出規制が敷かれる中、国を支えるために勤務せざるを得ない医療従事者をはじめ、各産業に従事する全ての人に感謝を示し、この危機を乗り越え、全ての人たちが一緒にいることを示すために実施されました。
FLy Team 「ブルーズ、オペレーション・アメリカ・ストロングのコクピット動画を公開」
実は4月28日、ニューヨークの医療従事者に感謝の意を伝えるため、アメリカ空軍と海軍の飛行隊がニューヨーク上空でアクロバット飛行を披露していたのです。
これに参加するのは、アメリカ空軍からは『サンダーバーズ(Thunderbirds)』、海軍からは『ブルーエンジェルス(Blue Angels)』です。
サンダーバーズは6機のF-16戦闘機ファイティング・ファルコン (Fighting Falcon)、ブルーエンジェルスは6機のF-18戦闘機ホーネット(Hornet)で編成され、約40分にわたり展示飛行を行いました。
Video by :NBC News ”Navy Blue Angels, Air Force Thunderbirds Salute COVID-19 Responders With Flyover | NBC Nightly News”
しかし、ここで重要なのは「オペレーション・アメリカ・ストロング」が対象としているのは、何も医療従事者だけに限ったことではないということです。
新型コロナ禍により外出が厳しく制限されているアメリカ社会の中で、それでも「国を支えるため勤務せざるを得ない、全ての人々に感謝する」というのが、この活動の基本コンセプトです。
そして、このコンセプトのもとで行われている『サンダーバーズ』や『ブルーエンジェルス』による飛行はもちろん、ニューヨークに限定しているわけでもありません。4月28日にはニューヨークでの飛行後、フィラデルフィアでも同様の飛行が行われました。
また、5月2日には首都ワシントンを始め、ボルティモアやアトランタでも飛行が行われるといったように、今後『サンダーバーズ』と『ブルーエンジェルス』の両チームは全米各地に展開し、各地で「オペレーション・アメリカ・ストロング」を通じ、新型コロナの最前線の人々を激励しようとしています。
なるほど、こういう活動であれば、理解することができます。
アメリカ各地に歴史のある飛行隊がやって来ては、現地で頑張っている人々の労をねぎらうのは、とても雄大でアメリカらしいキャンペーンです。
筋の悪いアメリカの猿真似だった・・・
そして、今回の東京上空で行われた『ブルーインパルス』によるエキシビション飛行は、「オペレーション・アメリカ・ストロング」を真似たものと考えられます。とはいえ、真似をすること自体は、それはそれで全く構わないと思います。良いことは遠慮なくどんどん模倣すれば良いのです。
今回、日本がやらかしたアメリカからの模倣における最大の問題点は、「オペレーション・アメリカ・ストロング」の基本コンセプトをまるで理解できず、安易にジェット機を首都圏上空に飛ばしてしまったということです。
これは ”最悪” のやり方であって、これこそ ”猿真似” というやつです。
こんな事をすれば、『医療従事者の皆さんには大変感謝してるけど、なんでブルーインパルスなの?』といった疑問が当然わいてくることになりますし、政府もこれに明確に回答できないに違いありません。
かくして『ブルーインパルス』の東京飛行は、なんだかよく意味が分からないまま、それでも妙に感動した中で幕を閉じるわけです。これも日本におけるいつもの風景ですが・・・
「オペレーション・アメリカ・ストロング」ではロゴの製作から始まり、軍の大々的な協力のもとに既存メディアやインターネット・メディアを通じて、活発で組織的なプロモーション活動がなされています。そして、感謝の対象者も医療従事者を始め国を支える全ての人々とし、全米各地で軍の飛行隊が感謝の飛行を展開しているのです。ここまでして初めて、本当の意味での感謝の気持ちが伝わるのではないでしょうか。
一方、日本がやっているのは安倍政権の自己満足でしかなく、政権による ”感謝という演出” を国民に披露しているに過ぎないのです。本来であれば、安倍政権はもっと周知活動を行い、東京だけでなく大阪、名古屋、福岡、仙台、札幌といった日本の主要都市でも行うべきであり、”兵器の爆買い” などしている暇があったら、こういった活動に防衛予算の一部を使っても良いはずなのです。
『ブルーインパルス』を使った安倍政権は狡猾だ
Video by :一月万冊『【政府は天才?!】ブルーインパルスと賭け麻雀黒川元検事長は繋がっている?その理由を話します。今回の飛行はメディアの踏み絵イベント。一月万冊清水有高。』
東京上空の『ブルーインパルス』による飛行は、コロナと闘う医療従事者へ感謝の気持ちを表すものでしたが、これに興味深い視点を与えてくれるのが『ビ・ハイア株式会社』の代表取締役、清水有高(しみず ゆうこう)氏です。
清水氏も、東京の上空を飛行するブルーインパルスの姿は確かに感動的であることを認めつつも、「なぜ、それが医療従事者への感謝に繋がるのか?」と疑問を感じた一人です。
清水氏に言わせれば、今回の『ブルーインパルス』を飛ばす意味は、次の2点に集約されます。
- メディアへの ”踏み絵” イベントだった
- メディアを使って国民をコントロールできるかのチェックだった
最初に指摘したいのが、医療従事者として必ず登場した上の写真の人々です。
これは、世田谷にある『自衛隊中央病院』で撮影されたものです。そして、ほとんど全てのメディアでこの模様が報道されたということは、全ての主要新聞、全てのテレビ局の取材クルーが自衛隊中央病院の屋上に来ていたということ。当然、無許可で病院の取材などできませんので、事前に準備が進められていたということです。
つまり、前々から自衛隊中央病院には多くの取材陣が大挙して押し寄せることが決まっており、そのことは病院スタッフにも周知されていた。そして、ブルーインパルスが上空を通過する頃合いを見図り「手の空いた者は屋上に行き、ブルーインパルスに手を振りましょう!」といった命令が下ったものと思われます。何といっても ”身内” のジェット機が東京の大空を飛ぶのですから。
これを ”やらせ” 言うのは野暮でしょう。しかし、明らかに ”演出めいていた” ことは否めません。
メディアへの ”踏み絵” イベントだった
先の黒川検事長による麻雀賭博事件は、「検察(官僚)&メディア」のズブズブの関係が白日の下に晒されたことでも知られています。と同時に、この事件はメディアからのリークによって発覚したこともあり、メディアを統制したい安倍政権としては不安に駆られていたと考えられます。
そこで安倍政権はブルーインパルスを飛ばすといった ”セレモニー” を発案し、この ”大本営発表” に対してのメディアを動向をチェックしたわけです。
蓋を開けてみれば、安倍政権にとって上々の結果でした。
ブルーインパルスの東京飛行については、主要紙やテレビはもちろんのこと、あらゆる既存メディアがこれを ”非常に好意的” に報道しており、これに異論を差しはさむ既存メディアはほとんど見当たらなかったのです。
つまり、安倍政権はメディアに対し ”踏み絵” を迫ったわけです。
「これからも、政府が不利になることは書くなよ」といった踏み絵です。
既存のメディアは見事にこれに応えました。
メディアを使って国民をコントロールできるかのチェックだった
東京の大空をブルーインパルスが飛ぶ姿は感動的です。それが医療従事者への感謝を込めて!という趣旨であれば、このコロナ禍にあって胸が熱くなってきます。
しかし、冷静に考えれば「なぜ、ブルーインパルスなのだろう?」となりますし、メディアがそのように報道すれば「やっぱり、何だか変だよね!?」という声が高まるのは必至です。
ところが、実際にはそうはなりませんでした。既存のメディアは気持ち悪いほどブルーインパルスへの礼賛一色だったわけですから・・・
そして、ここにも安倍政権の意図を垣間見ることができます。
──それは、”国民の分断” です。つまり、メディアを使った国民のコントロールがきちんとできるのかをチェックするという意味においてです。
感動した一般人の中からは「人々の感動に水を差すな!」といった声も上がり、このセレモニーに対して疑問を呈することができない空気が、既に醸成されています。
清水氏が指摘した「メディアへの ”踏み絵”」で安倍政権は満足する結果を得ることができ、「メディアを使った国民のコントロール」もチェックすることができました。『ブルーインパルス』を飛ばしたことは安倍政権にとって大成功だったのです。
黒川麻雀賭博問題が ”パッと” 消えた!?
今回紹介した動画の中で、最後に清水氏はとても重要なことを言っています。
それは「”ブルーインパルスなんておかしい、と思っている人こそおかしい” と指摘する人の中には、先の検察庁法改正案に反対していた人が確実に含まれているだろう」といった指摘です。
これは、安倍政権が狙った ”国民の分断” 以上に深刻な問題を孕んでいます。
なぜなら、あれほど検察庁法改正案に反対していた人々が、いとも容易くブルーインパルスに感動し「人々の感動に水を差すな!」と言っているかもしれないからです。
もしかしたら、ブルーインパルスをきっかけに、「黒川麻雀賭博問題」への国民の関心が消し飛んでしまったかもしれません。
政権を揺るがすようなスキャンダルが表沙汰になった時、必ず人気芸能人が麻薬で逮捕されることで世間の関心をそらすといった手法、いわゆる ”スピンコントロール” です。
「プロセスはどうでもいい」として、ブルーインパルスの飛行に至った経緯を明らかにしようとしない河野太郎・防衛大臣ですが、「#みてくれ太郎」といったハッシュタグを自らつくり Twitter ではしゃいでいたところを見れば、今回のブルーインパルス飛行の発案者は河野防衛相であろうと何となく察しがつきます。
アメリカの「オペレーション・アメリカ・ストロング」を見て、日本でこれをやればスピンコントロール以上の効果が期待できると踏んだのであれば、河野防衛相は侮れません。
「国民の不安はパッと消えますよ」といってアベノマスクを発案した思慮の浅い佐伯耕三・首相秘書官とは違い、”黒川問題をパッと消した” という意味において、河野防衛相は政権内部で大いに株を上げたかもしれません。