白坂和哉デイウォッチ

「香港デモ」 何も変わらず消耗するしかない若者に処方箋はあるのか?

Introduction:この事件は中国政府による ”最後通告” ではないでしょうか?

若者を銃撃した警官は「殺してやろう」と思って銃を発砲した。状況がそう物語っています。

しかも、中国が建国70周年を迎えたその日に、警官がついに実弾を打ち込んだ意味は、極めて象徴的であると言えます。

他に類を見ない大規模、かつ長期的なデモは現在進行形ですが、それでも香港の若者は状況を何一つとして変えられないでしょう。

果たして、彼らに対する処方箋はあるのでしょうか?

中国の意思を示した香港の銃撃事件

10月1日に発生したこの事件は、Twitterを始めとするSNSで瞬く間に広がり、そして、日本でも翌日の新聞各紙が一斉に取り上げるなど、類を見ない速度で拡散しているように思われます。

ツイートした内の一人である周庭(しゅう てい 英名:アグネス・チョウ)氏による動画は、おそらく今回の事件で最も多く拡散された動画の一つで、日本の新聞でもここからの映像が紙面に掲載されました。

撃たれたのは18歳の高校生で、胸のあたりを撃たれた彼は一命はとりとめたものの重傷を負いました。香港での一連の抗議活動で、参加者が実弾で撃たれたのは今回が初めてとみられています。

冒頭でも触れたように、今回の銃撃事件は中国の建国70周年を迎えた日に起こったという意味において極めて象徴的であると同時に、中国の揺るぎない意志を感じざるを得ません。

それは、若者たちがどのような抵抗をしようと、これ以上何一つとして体制は変えさせないという揺るぎない国家として意思です。そして、このことは香港の若者たちにとって残念なことですが、全くその通りになるでしょう。

なぜならば、香港のデモには致命的なな弱点があるからです。

リーダーが存在しないリキッド(流動的)なデモ集団

結論から言えば、香港デモの致命的な弱点とは「リーダー」が存在しないことです。

先に紹介した周庭氏は黄之鋒(こう しほう 英名:ジョシュア・ウォン)氏と共に日本では香港デモのリーダーとして知られていますが、彼らは本当の意味のリーダーではありません。

戦国時代に例えて言うなら、彼らは複数存在する「武将クラス」であって、頂点の戦国大名(親方様)ではないのです。周氏も黄氏もデモ隊を扇動したり、ある方向へと導くことはできるかもしれませんが、デモの全体を統括し意思決定をする存在ではないのです。

その証拠に、彼らがいなくとも、また逮捕された場合でも、デモは粛々と続けられています。
そもそも香港デモでは、中心となって意思決定するような者は一人も存在せず、流動的にデモは繰り広げられています。

つまり、デモは労働組合のような団体の動員ではなく、個人の緩やかな繋がりによって構成されているということです。おそらく、そこには右・左といったイデオロギーの差異もないでしょう。
そしてこのことは何も香港の独自性を示す事象でもないのです。

フランスの「黄色いベストデモ」との類似点

同じようなことは、フランスで起こった燃料価格の上昇に端を発する「黄色いベストデモ」でも見受けられます。

マクロン大統領による、緊縮的で富裕層を優遇する税制政策に断固反対の意を唱える彼らは、ここでも右(保守系)、左(社会主義系)といった政治思想による団体の動員ではなく、すべてのイデオロギーが交錯する ”一般庶民” という階級の緩やかな集団で構成されています。

それが故に、デモといった社会活動を体系的に学び実践してきた有識者(高学歴者)が少なく、デモを体系的に運営する知識や組織力に欠けていることから内輪揉めが頻発しているとも言われています。

つまり、ここでも組織全体を統括する確固としたリーダーが不在で、香港のような「武将クラス」が点在しているだけに過ぎません。
これは、肝心の政府との交渉役が定まっていないことを意味し、一方のフランス政府としても、抗議活動を展開するデモと対話ができず、対応に苦慮するということも起きました。

香港デモが長期化し展望が見えない理由とは?

特定の集団に属さない人々が緩やかに、そしてイデオロギーの垣根を超えて繋がることは、とても「現代的」な風景として受け止められるでしょう。

しかし、それがデモともなると話は違ってきます。
フランスの「黄色いベストデモ」では、政府側がデモに屈した形で当初の燃料税増税を延期しましたが、デモは次第に輪郭を失い、手を変え品を変え、実は現在も継続しています。

これは、香港デモも同様です。
デモの当初の目的は、犯罪容疑者の中国本土への引き渡しを認める「逃亡犯条例」の改正案に反対するものでした。

この「逃亡犯条例改正」については、今年の9月に香港の行政長官である林鄭月娥(りんてい げつが)氏が正式撤回を表明するも、デモ隊側は他に要求していた「民主選挙」が実現されていないとし、活動の矛先を収めなかったのは周知の通りです。

本来であれば、リーダーが行政と ”手打ち” をし、デモ隊を収束させるポイントがあるとすれば、まさにこの時点です。

しかし、リーダー不在の香港デモでは、そうなりませんでした。
「民主選挙」を盾に活動を継続するのは現在の香港において究極的ですし、端的に言えば、若者らが中心となるデモ隊の敗北パターンとなります。

確固たるリーダーという中心を持たず、緩やかに連帯する現代のデモは、リキッドな(流動的な)繋がりという意味において、例えるならアメーバのようなものです。よって、どのような攻撃を加えても、攻撃個所はへっこみはするものの、全体的な体制にあまり影響を与えません。

香港デモでは5つの要求がありました。

 ①逃亡犯条例改正案の完全撤回
 ②市民活動を「暴動」とする政府見解撤回
 ③デモ参加者の逮捕・起訴の中止
 ④警察の暴力的制圧の責任追及と
  外部調査実施
 ⑤民主的選挙実現

今回は「①逃亡犯条例改正案」が撤回されたわけですが、仮に、残りすべての要求が認められたら果たしてデモは収束するのでしょうか?

筆者は「デモは収束しない」と考えます。

「なぜ香港デモが長期化し展望が見えないか?」
――それは、緩やかな連帯による ”アメーバ” のような現代におけるデモは、どのような妥協案を提示しても要求のレベルが都度変わり、デモが永続してしまうからです。

香港デモの参加者が行政当局と ”手打ち” するタイミングを見誤り、不毛な ”消耗戦” に突入してしまったことを、果たしてどれ程の人間が気づいているでしょうか?

香港デモはどのように収束するか?

それでもデモの収束の仕方を強いて上げるのならば、次の2パターンしかありません。

①香港行政府による強制的排除
②天変地異による継続の不能

①は今回の高校生に対する銃撃事件のように、行政当局が武器を使った強制排除に乗り出すことです。一歩間違えれば「天安門事件」の再来となります。

②は巨大地震やハリケーン、豪雨による洪水などにより、デモ継続が困難になる場合です。ただし、日本とは違い、香港ではそのような天変地異はあまり聞きません。

フランス革命という流血沙汰で絶対王政を打ち破り、「法の下に平等」の「共に和」をなす「共和国」をつくった歴史があるからこそ、フランスの「黄色いベストデモ」はフランス市民から一定の理解を得られ、現在も活動を継続できるのですが、香港の場合は国家体制が180度異なります。

歴史上一度も選挙によって国のリーダーを選んだことのない、共産党一党独裁の中国を上に戴く香港では、市民によるデモに対し中国当局がどれほど耐えられるかは全く分かりません。

中国政府当局は、既に「①香港行政府による強制的排除」を視野に入れているように思われます。

願わくば、今回の銃撃事件により自然収束的にデモが収まれば良いのですが、実際にそうなるかは全くのところ不透明です。

筆者は、あと半年はデモが継続すると予想しています。

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