Introduction:安倍首相は2月4日、来日しているドイツのメルケル首相と首相官邸で会談し、情報保護協定を締結することに大筋合意しました。これは秘密情報を交換した際、情報漏洩を互いに防ぐことを目的としたものです。
今回のメルケル首相の来日は5回目となりますが、2015年3月に7年ぶりに来日した際、面白いやり取りが二人の間で交わされました。
安倍首相が、
「中国には何度も行っているのに、どうして日本には来てくれないのですか?」
と言ったら、
「日本の首相は毎年のようにコロコロ変わるから、来日しても仕方がないと思ったのよ」
とあっさり切り返されてしまいました。
実際問題、ドイツは中国重視の政策をとっており、これまでにメルケル首相が中国を訪れたのは10回以上。これに対して日本を訪れたのは上述の通り、今回の5回に留まっています。
そのようなことを忘れずにいたのか、今回の安倍首相はメルケル首相に対し「日本のため”だけ”に、遠路はるばるお越しいただいたことを大変嬉しく思います」と皮肉たっぷりにメルケル首相に言い放ったわけなのです。
安倍首相の執念深さもなかなかのものですが、そんな執念深さを労働政策に対しても発揮していただきたいものです。
ちょっとした風邪ぐらいでも休みましょうよ
さて、労働政策と言えば、2月5日の毎日新聞に興味深い記事が掲載されました。
精神科医・香山リカ氏の『香山リカのココロの万華鏡』では、ドイツに留学中の医師によるSNSへの投稿を紹介しています。
ドイツに来てカゼを引かなくなった。こちらでは体調が悪いとすぐに休み、カゼの人が会社や電車にいないから、うつることがない。
2018年2月5日 毎日新聞朝刊 東京面 『香山リカのココロの万華鏡』
この投稿を読んで香山氏はハッとしたと語っています。
確かに、風邪をひいた人が積極的に休んでくれれば学校や職場で感染が広がることはないし、結果社会全体で風邪をひいている人は減るのではないかと、香山氏は思ったわけです。
一方、私たちの日本社会はどうでしょうか?
インフルエンザに対する認識は以前と比較し、格段に高くなってはきています。インフルエンザ罹患が判明した時点で、会社から休養命令が下ることも今では珍しいことではありません。
その反面、ちょっとした風邪ぐらいでは、休む人はむしろ稀だと思われます。咳や鼻水を出しながら、万全とは言えない体調で仕事にいそしむ多くの方を見かけます。
この状況を踏まえ、体調がすぐれない人が気兼ねなく休めるよう、香山氏は、テレビタレントが体調不良を理由に番組休むことを積極的に推進することを提案しています。
テレビに影響されやすい日本国民としてみれば、ちょとした風邪でも仕事は休めるんだとの空気を醸成するのに、テレビタレントは文字通り一役買うことができそうです。休むことへのハードルを下げるための、これはなかなか面白い発想だと思います。
仕事が終わらなくとも定時で帰りましょうよ
どうやらドイツという国は、体調管理面では日本と違った考えを持っているようです。
では、労働に関してはどうなのでしょうか?
実は、ドイツの労働に関しても、興味深い話に接したことがあります。
話の主は、東京都議会議員の滝田やすひこ氏です。
滝田氏は2017年7月東京都議会議員選挙で初当選(都民ファースト)した新人議員で、都議会では都市整備委員・議会改革委員を務められています。
滝田氏は東京大学を卒業後は東京大学大学院に進学し、大学院卒業後は三井物産に入社しました。三井物産では食料部門で穀物・製菓・乳製品を担当し、海外研修員として約2年間、ドイツに留学・駐在の経歴を持ちます。
・滝田やすひこ公式サイト:https://www.yasuhiko-takita.com/
そこで目の当たりにしたのが、ドイツの「働き方」だったというわけです。
つまり、ドイツ人は残業というものをほとんどしないというのです。
仕事が途中でも定時になれば仕事を終えて帰宅する。仕事を時間で切って、翌日に仕事の続きをする。
残業をするのは、残業をするだけの緊急性が生じたときのみだそうです(それすら頻発はしない模様)
当たり前と言えば、まったく当たり前の光景がドイツでは展開されているように思われます。
「仕事する。定時で帰る。翌日続きの仕事する。急な事が起きたら残業しようね。」
たったこれだけ。実に自然で当たり前だと思いませんか?
では、日本ではどうでしょうか?
毎日毎日、きりきりまいの状態で残業してませんか?
あるいは、毎日毎日、だらだらと残業してませんか?
なぜ、日本では当たり前のことができないのでしょうか?
なぜ、日本では当たり前に働けないのでしょうか?
理屈倒れの”働き方改革”
「そんなこと言われても、毎日の仕事をこなすので精いっぱいだ!」
そんな声が聞こえてきそうです。
生活残業を目的としたダラダラ残業はともかく、多くの仕事を抱え過ぎたことによる過重残業は、職場環境や仕事そのものの構造的な問題が原因であると考えられます。
例えば、IT関連の企業だと、俗人化したシステムを運営しているような場合、それを運用・保守する担当者の仕事も俗人化する傾向にありますし、その仕事量は増えることはあっても、決して減ることはありません。
本来はシステムを抜本的に見直し、大規模な改修・改変、あるいは新システムへの移行が必要なのですが、昨今はどこの企業も予算不足でそのような余裕はなく、結果、現場作業員に大きな負荷が掛かることになります。
このように、個々のキャパシティー以上の仕事が与えられ、結果として残業過多に喘いでいる様は何も上述したIT企業に限らず、日本のあらゆる分野の業態に見られる悪しき状況です。
本来であれば、このような状況に手を打てない企業には籍を置くべきではなく、すぐにでも退職すべきと考えますが、現実にはそうもいかない事情があるかと思います。
さすがに政府もこの状況については薄々危機感を募らせていたようで、そんな中で登場したスローガンが「働き方改革」なわけです。
元々は労働人口の減少に歯止めが掛からず、政府としても何らかの対応を迫られたのが発端です。というのも、労働人口(生産年齢人口)は1995年(平成7年)の8000万人をピークに急激な減少の一途を辿り、2060年(平成72年)には4000万人まで減少すると推定されるからです。
働き方改革の骨子は下記の3点に集約されます。
1.労働者を増やす(女性や高齢者)
2.出生率を上げる
3.労働の生産性を上げる
この働き方改革の基本コンセプトには、何ら違和感はありません。今後少子高齢化社会に突入するのは自明の理であり、そのためには当然の事として女性や高齢者に労働の門戸を開く必要があり、出生率も上げなくてはなりません。
そして、限られた少ない労働人口で国内産業を取りまわすには、生産性を上げる必要があるのも言うまでもないことです。
また、これらの働き方改革を推進する上で、「長時間労働」「正社員と非正規の格差」「労働人口不足」といった課題が俎上にのることも当然の事と言えます。以上の点から、あくまでも「働き方改革」の観点からすれば、政府の現状認識は正しい方向を示していると言って差し支えありません。
しかし、本当に重要なのはこういった格式ばったスローガンなのではなく、例えば「体の調子が悪かったらすぐに休もうよ!」とか「今日、仕事が終わらなかったら明日頑張ろうよ!」といった空気の醸成なのではないでしょうか? このような日常レベルの行動に、日本人はあまりにも意識的過ぎるために休みたいのに休めなかったり、ズルズルの不要な残業をしているのではないでしょうか?
そして、そのような働き方の空気の醸成をしているのが政治や社会ではなく、テレビタレントだとしたら、先進国ニッポンとしてはあまりにも情けない話だと言わざるを得ません。
端的に言えば、働き方改革の基本骨子や問題点など、大学生でもこの程度ことなら(筋が良ければ)すらすらと指摘できる内容ばかりです。ここが安倍政権の愚かなところで、問題提起は立派でも、具体策が何ら提示できず、常に政策は ”理屈倒れ” に終始してしまうのです。
働き方改革は2019年4月から試行されますが、この”改革”が”絵に描いた餅”になるような気がして、暗澹たる気持ちになるのは筆者の気のせいでしょうか?