白坂和哉デイウォッチ

私刑国家ニッポンの正体 ~山梨で陽性が判明した20代女性の問題を考える

Introduction:これは「人権侵害」であり明らかな「犯罪」です。「プライバシー権の侵害」が適用されることで、「名誉棄損罪」が成立する場合があります。その場合、禁固刑もしくは罰金刑が科せられ、そうでなくとも損害賠償請求を起こされたら、まず勝ち目はないでしょう。

山梨県でコロナ陽性が発覚した20代女性に対し、SNS を中心に激しいバッシングが起きていますが、これを法的に捉えれば罰せられるのはむしろバッシングをしている側となります。

彼女はコロナの症状を自覚しつつも、帰省自粛など意に介さないように実家のある山梨県に帰省。驚いたことに、その後自分が陽性と判明したにも関わらず、公共交通機関を利用し東京都の自宅に帰宅するなど、県側の要請などまるで無視した自己中心的行動をとりました。

これらの一連の行動を見ると、彼女が真っ当な社会人であるとは到底思えないと同時に、この暴挙に対するバッシングもまた限度を逸脱したものであると言わざるを得ません。

20代女性がとった一連の行動とは?

唖然とさせられるトンデモ行動です。

彼女は新型コロナウイルス感染者に顕著に見られる症状、味覚や嗅覚の異常を感じながらも高速バスに乗り、実家のある山梨県に帰省。その後、県内で友人とバーベキューを行ったり特定の友人男性と濃厚接触を繰り返し、さらには5月2日にPCR検査で陽性が判明しました。しかし、山梨県側の待機要請にも関わらず、彼女は虚偽の発言までして再び高速バスで自宅のある東京都に帰宅してしまったのです。

ちなみに、帰宅の理由もまた振るっています。──「飼い犬が心配だったから」だそうです。

それでは、彼女の行動について、時間軸に沿ってあらためて見てみましょう。

4月26日(日)
この時点で既に「味覚・嗅覚異常」を認識。
4月27日(月)
4月28日(火)
東京都内の勤務先に出勤。
4月29日(水)
高速バスで実家のある山梨県に帰省。
※15:15「バスタ新宿」発 ⇒「山中湖・朝日丘」行の「京王高速バス」
※バス内の人数は運転手、該当の20代女性も含め合計7名。
20代男性と合流
4月30日(木)
山梨県内の友人宅でバーベキュー。
※該当の20代女性も含め合計5名。
20代男性と合流
5月1日(金)
通院(整骨院)
山梨県内の帰国者・接触者相談センターに外来。      
昼頃にPCR検査実施。
※山梨県側は実家での待機と公共交通機関を使わないことを要請。
ゴルフ練習場を利用(同行者は友人2名)
20代男性と合流
5月2日(土)
PCR検査で陽性判明(山梨県で55例目)
※山梨県側は午前9時前後に本人に連絡。
高速バスで自宅のある東京都に帰宅。
※9:25「山中湖・朝日丘」発 ⇒「バスタ新宿」行の「京王高速バス」
※20代女性、及びその家族は5月1日に既に帰京したと虚偽の発言。
※帰京理由は「飼い犬が心配だったから」
5月3日(日)
上記20代男性についてもPCR検査で陽性判明(山梨県で56例目)

犯罪的な無自覚さを露呈した20代女性

山梨県でのコロナ感染「56例目」となったこの20代女性に対しては、インターネットの SNS を中心に激しいバッシング、あるいはネットリンチが起きています。

例えば Twitter で少し検索すれば一目瞭然ですが、顔写真から始まり名前・住所・勤務先、家族情報といった彼女の個人情報がいたるところに晒されていることが分かります。

まさに、大ひんしゅくを買ったがゆえの吊るし上げ状態になっており、彼女にここまで世間の怒りが集中するのは、次の3つの理由だと思われます。

問題となった20代女性は、明らかに社会に対する洞察力やリテラシーに欠け、さらには個人の教養のなさも疑われる程の犯罪的とも言える無自覚な行動を取ったわけです。そんな彼女は到底まともな社会人とは思われず、世間から事実上の ”私刑宣告” を受けました。

しかし、いくら彼女の行動が犯罪的であっても、現行法では彼女の犯罪性を立証することなど絶対にできません。彼女は思慮の浅い自己中心的で幼稚な大人であってそれ以上でも以下でもなく、個人情報まで勝手に晒されるいわれはないのです。

その意味で、彼女の個人情報をインターネット状に晒した行為は「人権侵害」であり、これは明らかに「犯罪」行為です。

このように他人の個人情報を勝手に晒すことは「プライバシー権の侵害」となり、刑法230条に規定されている「名誉毀損罪」が成立する場合があります。そして、その際の罰則規定は「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金刑」となります。

また、刑事事件として成立しなくとも、民事による損害賠償請求(慰謝料請求)を彼女や彼女の親族から起こされれば、おそらく裁判で勝つことは困難でしょう(慰謝料の相場は10~50万となります)

◆ 出典記事 ◆
 『個人情報の削除依頼と犯人特定!個人情報が勝手にネットに晒れたら』

現在は悪意のあるネットの書き込みに対しては、いとも容易く個人が特定することができます。

20代女性の個人情報を晒した者は、そもそもどのような意図を持ってこのような行為に及んだのでしょう? 「正義」であるというのであれば、それは「倒錯した正義」「歪んだ正義」でしかなく、そうでないとするならば、それはまさに「犯罪」でしかありません。

世間からの集中砲火を浴びる20代女性ですが、それでも彼女は法的には「被害者」に属する存在となってしまいました。彼女もしくは彼女の親族がその気になれば本当の痛い目に合うのは、むしろ個人情報を晒した者であることを肝に銘じるべきです。

不気味な同調圧力が支配する国

クリント・イーストウッド監督の映画作品『硫黄島からの手紙』に興味深いシーンがあります。

嵐の二宮和也氏が扮するパン屋の西郷昇と、その妻のもとに召集令状を携えた「愛国婦人会」のおばさんが登場するシーンです。

「おめでとうございます!召集令状です!」と喜々としたおばさんの声。
子供を身ごもっていた西郷の妻は、
「お願いします・・・私たちほかに寄るすべがないんです」と召集しないよう懇願するも、
「西郷さん!そんなご時世じゃない!私も夫や子供を戦争に送っているんです。みな役目を果たさねばなりません!──」と、妻を一喝したのです。

つまり、今は戦争中だから、みんな戦争に行くのが当たり前。私の身内もみんな戦争に駆り出された。──だから、お前も戦争に行け!
そう言いたいのでしょう。そして、これに異を唱えるのは「非国民」と罵られるのです。

今回の事例に当てはめると20代女性は「非国民」であり、彼女のバッシングを加える者たちはさしずめ ”愛国婦人会” といったところでしょうか?

フランスのマクロン大統領は今回の新型コロナウイルスに対し、「我々はウイルスとの戦争状態にある」と宣言し、厳しい外出制限を発令しフランス国民を鼓舞したのはとても印象的でした。

しかし、20代女性のバッシングに余念のない日本人たちは、どうやらこの ”戦争” を違った意味として捉えているようです。彼らは気がつけば ”愛国婦人会” と化し、不気味な同調圧力を振りかざし他者を責め立てています。

モバイルバージョンを終了