Introduction:激化する米中対立の中で、シカゴ大学教授のジョン・ミアシャイマー氏は私たちに極めて重要な警告を発しています。
つまり、アメリカと中国との対立は戦争に発展する可能性があり、そこでは「核兵器」が使用されるかもしれないということです。
考えられる地域は「南シナ海」「台湾」「東シナ海」──それは「限定的核戦争」ですが、果たして日本はどのように対処すればいいのでしょうか?
これまで安倍首相はアメリカに対し ”ケツ舐め外交” ばかりでしたが、さすがにそれは無意味であったことをアメリカはとっくに見抜いています。
大国政治の悲劇は国際システムの「構造」により生じる
中国が覇権を目指す理由は、中国の文化が伝統的に攻撃的であるとか、政治指導者の失策などにあるのではなく、ただ単に「覇者になることが自国の生き残りを最も確実に保証してくれる」という点にある。もしアメリカの国益が他の地域にある大国を西半球から追い出しておくこと(そしてこれこそがモンロー主義の核心なのだが)にあるなら、中国の国益が「アジアからアメリカを追い出すこと」にあるのは言うまでもない。
もちろんアメリカは中国の地域覇権の達成を阻止しようとするだろう。なぜならアメリカは世界の檜舞台に、自分以外の競争相手が登場してくるのを許せないからだ。この結果生じるのは、冷戦時代に米ソ間で行われたのと同じような、アメリカと中国の間の安全保障競争である。アジアにおける北京の近隣諸国にとっても中国の力を封じ込めておくことはそもそも国益にかなうわけであり、これは日本、北朝鮮、インド、ロシア、ベトナムなどが、アメリカと協力して反中連盟を形成する可能性が高いことを意味する。
ジョン・ミアシャイマー『新装完全版 大国政治の悲劇』(五月書房新社)〔”日本語版に寄せて” から一部抜粋〕
米中関係が ”きな臭さ” を増しています。トランプ政権は8月10日にアザー厚生長官を台湾に派遣。蔡英文総統と会談したことで中国との亀裂は決定的になったように思われます。まさに米中の覇権争いが本格化してゆくことは疑いないものの、問題は事態がどのように推移してゆくかでしょう。
ジョン・ミアシャイマー氏はシカゴ大学教授を務める国際政治学者で、稀代のリアリストとしても知られています。そんな彼の言葉は極めて示唆に富んでいます。朝日新聞がリモート・インタビューを試み、その模様は同社のWeb版に掲載されました。
◆ 出典記事 ◆
『米中対立「限定的な核戦争」の懸念も ミアシャイマー氏』
~2020.08.10 朝日新聞DIGITAL~
ミアシャイマー氏は2001年に出版した『大国政治の悲劇』の中で「中国の平和的な台頭はあり得ない」とし、当時から米中の対立を予測していました。そして、2019年4月に新装版として加筆追加された『新装完全版 大国政治の悲劇』でも、その論調は変わるどころか深刻さを増しているとさえ言えます。
基本的に国家は自国の安全を求めているのに、なぜ、米中のような大国は覇権を争うのか? それは、国際システムの構造そのものに原因があるとミアシャイマー氏は指摘しています。
- 世界の国々の上に存在し、全世界の安全を守ってくれる中心的な権威が存在しない。
- どの国家もある程度の攻撃的な軍事力を持っている。
- 国家は互いがそれぞれ何を考え、何をしようとしているのかを完全に把握できない。
この3つの「構造」を前提にして考えると、今後の米中情勢はある程度まで予測することができるかもしれませんが、ミアシャイマー氏の見立てはさらに深刻です。
米中の「冷戦時代」に突入するのか?
アメリカや中国、そして日本もそうですが、今やこれら各国の経済的結びつきは非常に強く、人々の交流もとても盛んです。そういった相互依存が深まっている状況では戦争など起きないと、多くの専門家は分析しています。
しかし、ミアシャイマー氏はこの考えを否定しています。例えば、第一次世界大戦の場合では、欧州各国は経済的な相互依存が深まっていたにも関わらず、実際に戦争は起きてしまいました。安全保障の対立が激化すると、経済関係も崩壊するのは歴史が証明していると言うのです。しかも、現在の米中はファーウェイの制裁といったように経済関係の対立も深まっています。
では、今後米中関係はかつての米ソのような「冷戦構造」に突入してしまうのかと言えば、そうとも言い切れません。米ソの冷戦下においては互いに数千もの核兵器を保有した状態で対峙しており、全面戦争になる可能性は高くはありませんでした。
しかし、現在の米中においては直接衝突する可能性があります。なぜなら、中国は旧ソ連のように世界を死滅させるほどの核兵器を保有しているわけではなく、核抑止が機能しないからだとミアシャイマー氏は指摘するのです。
そして、その場所は「南シナ海」「台湾」「東シナ海」の3カ所となります。
米中「核戦争」が起こる!
そのように考えると、米中が衝突する可能性は十分にあると考えられ、その際、共に核保有国であることは抑止にはあまり貢献しないかもしれません。
ミアシャイマー氏は、中国の戦況が不利になった場合、核兵器が使われる可能性が高まると予測しています。それは、本土を直接攻撃するような形態ではなく、海に威嚇投下するような「限定的核戦争」だと言うのです。これは米中との間で、軍事バランスが均衡していないことから生じます。
トランプ政権による中国を封じ込めは正しいと考えられ、経済面での圧力も重要であるという彼の見立ては一旦置きましょう。ここで重要なのは、アメリカが日本や韓国といった同盟国を敵視するようになったから、中国封じ込めの成果が出ていないとする彼の指摘です。──これは一体どういうことでしょうか?
この疑問について、ミアシャイマー氏は「中国封じ込めのためには米国が指導力を発揮する必要がある」としか説明していません。
確かに、韓国の文在寅大統領とトランプ大統領はケミストリーが合わないのはよく知られており、中国に傾斜した韓国はアメリカに対して言うことを聞かない可能性は十分に考えられます。しかし、日本はそうではありません。
日本の「戦略」が問われている!
ミアシャイマー氏が指摘する「アメリカが日本を敵視するようになった」との発言は、これまで散々アメリカの言うことを聞き、アメリカに貢いできた安倍首相や日本の閣僚たちにとってはショックでしょう。なぜ、そうなってしまったのか?
それは、日本は東アジアの安全保障について、明確な「戦略」を未だに打ち出せていないからではないでしょうか? もちろん、その戦略とはアメリカの国益はもちろん、日本の国益にも資するものでなくてはなりません。
日本の国是はなんといっても ”対米従属” であり、特に安倍首相はまるでトランプ大統領の言いなりで、「武器を買え」と言われれば「ワン」と吠えては武器を爆買いし、犬のように付き従ってきました。
しかし、いい加減そういったことではダメであると、トランプ大統領はさておき、アメリカ側のメインストリームは気がついたのでしょう。これから対中戦争をするかもしれないアメリカです。何ら戦略や構想を持たず、何も考えようとしない日本は、かなりの面において役立たずで足手まといなのかもしれません。かといって、日本が中国側についてもアメリカにとっては非常に困るのです。
爆買いはもっての外ですが、かといって日本がアメリカから武器を買うこと自体は一向に差支えはありません。ただ、武器を買う以上、それらはどの地域の安全保障となり、それにより日米がどのような利益を得られるのか、きちんとした理屈でもって説明できるぐらいでないと、アメリカとのパートナーシップは今後は難しいのではないでしょうか?
米中戦争が起きれは、日本も必ずそれに巻き込まれます。日本がとるべき行動は憲法9条を振りかざして傍観するのでもなければ、米中の仲介役になることでもありません。
──日本がとるべき行動は「勝つ方につくこと」です。そして、筆者は米中戦争ではアメリカが勝つと予測しています。
社会学者の宮台真司氏が指摘するように、安倍首相はこれまで何も考えず、何の戦略も持たずにアメリカの尻を追いかける ”ケツ舐め外交” ばかりやってきました。これがいかに頓珍漢で無意味なものであったか、リアリストのミアシャイマー氏の言葉から滲み出ています。