白坂和哉デイウォッチ

テレワークは日本人のマインドにパラダイムシフトを起こす

※テレビ朝日の朝の人気ワイドナショー『羽鳥慎一モーニングショー』のひとコマ。今やテレビ番組でもテレワークが導入され、コメンテーターはテレビ画面のさらに向こう側の画面から視聴者に訴えかけるようになった。

Introduction:安倍首相による緊急事態宣言から1週間。対象となった7都府県すべては政府の目標に従い、幅広い業種に「休業要請」することで足並みを揃え始めました。

安倍政権は「出勤7割減」を目指すと言います。その鍵を握るのが「テレワーク」ですが、実際に導入されたのは一部の企業に留まっています。

出勤者がなかなか減らない中、それでも「テレワーク」は日本人にこれまでなかった新しい価値観、”パラダイムシフト” をもたらすかもしれません。

テレワークの導入は進んでいないのが実態だが・・・

IT企業「アゲープ」(東京)の調査によると、金曜だった10日の日中の人出は、緊急事態宣言が発令された7日に比べ、東京駅で33%減、大阪駅で43%減にとどまった。日曜日の12日には都内で減少率が7~8割に達した駅も多いのに対し、平日は出勤者の削減が進んでいない。

菅官房長官は13日の記者会見で「緊急事態を1カ月で終えるためには最低7割、極力8割、接触削減を実現しなければならない。もう一段の国民のご協力をいただきたい」と強調した。

2020年4月14日 読売新聞 朝刊1面『全7都府県が休業要請』

安倍首相は4月7日の記者会見で、人同士の接触の最低7割、極力8割削減できれば2週間後に感染者の増加をピークアウトさせることができるとして、緊急事態7都府県の企業に対して出勤者を7割減らすことを要請しました。

しかし、実際には駅の定点観測からも人出の減少は目標に達していないことから、出勤7割減についても達成しているのは一部の企業に留まっているものと思われます。結局のところ、休業補償もない中で出勤者を劇的に減らし「テレワーク」に移行できるのは、一部大手企業の間接部門ぐらいではないでしょうか。

工場や運輸といった業態は、現場作業はそもそもテレワークが不可能ですし、顧客相手の業種もテレワークは困難でしょう。また、中小企業も費用面を考えると同様です。

総務省が発表した令和元年版の情報通信白書、『テレワークの導入やその効果に関する調査結果』を見ると、企業のテレワークの導入率は2018年で「19.1%」だったことが分かります。(▼ 下図)

最新の調査では、東京商工会議所が2020年4月8日に行った「新型コロナウイルス感染症への対応に関するアンケート」がありますが、これによると東京23区の企業の「26%」はテレワークを実施中ですが、導入を検討しているのは「19.5%」に留まっていることが分かりました。

この総務省と東京商工会議所の調査結果より、テレワークの導入は未だ3割にも到達していないことが浮き彫りになっています。

テレワークに向かない人は淘汰される

※テレワークの実施により、社員がいない東京・秋葉原のレノボ・ジャパン本社の様子。
レノボ・ジャパンは、コロナウイルスの感染拡大を受けて、現在、「原則全員テレワーク」を実施。東京本社への出社率は10%程度になっているという。つまり、90%の社員がテレワークを実施している。

Photo by : PC Watch 「わが社はこうやってテレワークしています 【レノボ・ジャパン編】」

政府の掛け声とは裏腹に、まだまだ導入が進んでいない「テレワーク」ですが、それでも現在進行形の新型コロナウイルス禍の中にあって、否が応でも向き合わざるを得ないのも確かです。

そんな中で「テレワークって、何だか良くね?」といったように、この働き方にマッチしている人が存在します。テレワークとは、ある意味人を選別してしまう働き方になるかもしれません。

テレワークに向いている人

Photo by : zoom

主体的に仕事ができる人は間違いなくテレワークに向いています。
雑念にとらわれず、自分を律しながら仕事を進められる人のことです。人は自由な空間で仕事をすると注意力が散漫になります。ついついスマホに手を伸ばして無為にネットサーフィンをしてしまうなど、時間を浪費してしまう人はテレワークに向いているとは言えません。

自律的に仕事ができるということは、周囲にとらわれず自己主張ができるということです。仕事の現場や会議でしっかり発言できるというのは、テレワークを考える上で極めて重要な資質となります。

というのも、テレワークでは(特にリモート会議などでは)「場」の雰囲気というものが全く意味をなさず、発信された「言葉」しか拠り所がないからです。
つまり、テレワークでは発した言葉、パソコンを通して書かれた言葉こそが意思決定のための唯一最たる根拠となるのです。

例えば、冒頭の画像の中に登場する『モーニングショー』の玉川徹氏などは、発言の良し悪しは別として、とてもテレワークに向いているタイプと言えましょう。

テレワークに向いていない人

常に先輩社員との確認の中で仕事をするような新人社員は、テレワークは困難でしょうし、最終決定権を持たない非正規労働者にもこれは当てはまるかもしれません。

もう一つ、テレワークに向かないタイプを挙げるとすれば、「空気感の中で仕事をする人」です。

いわゆる ”お偉いさん” が出席している会議でありがちですが、会議の出席者がお偉いさんの顔色を窺い、その場の ”空気” を読み取り、お偉いさんの意向を忖度して物事が決まるような会議のことです。

そのような会議をこれまで進めてきたとすれば、そういった ”お偉いさん” は今後テレワークによって淘汰されるはずです。なぜなら、テレワークでは場の雰囲気や空気は全く意味をなさないからです。

日本の働き方は新型コロナと共に破綻する

アメリカでは既にテレワークが一般化しています。この直近の12年で、テレワークが約159%も増加したという報告もあります。(▼ 下図)

理由としては「職務記述書」により、個人の職務と責任が明確に定義されているから。これは「仕事に対して人を割り当てる」といった発想が下地にあります。このことにより仕事の方法や手順も明確になり、担当者の交代や作業分担をが容易となりますが、それはテレワークについてもプラスに作用しているようです。

一方、日本の場合は「人に対して仕事を割り当てる」といった発想でこれまで仕事を続けてきた経緯があります。これは日本特有の働き方で、確かに終身雇用・年功序列がまかり通っていた頃はこれで良かったのかもしれませんが、今後は発想の転換を強いられるはずです。

しかし、厄介なことに、今や日本でも終身雇用・年功序列は破綻しているにも関わらず「人に対して仕事を割り当てる」といった発想は、なぜか今も多くの企業で延命しているのです。

「人に対して仕事を割り当てる」方法は責任の所在が曖昧となり、仕事も俗人的となります。仕事の責任と範囲が曖昧であり各個人の仕事の輪郭が不明では、そもそもテレワーク導入以前の話に逆戻りです。

テレワークは日本人のマインドセットを変えるかもしれません。
今後、どのようなことが予想されるでしょうか?

新型コロナウイルスの終息には、どんなに楽観視しても年内一杯は掛かるのではないでしょうか? その間、日本企業の働き方はテレワークを初めとして大きな変化を余儀なくされることになるでしょう。これらの危機と変革は日本人のマインドにパラダイムシフトを起こすかもしれません。

モバイルバージョンを終了