白坂和哉デイウォッチ

日本企業はもはや社員を支え切れない ~働き方改革の嘘と罠~

貧者のサイクルから日本は抜け出せないでいる

 2019年3月19日の日本経済新聞(電子版)に衝撃的な記事が掲載されました。
 『賃金水準、世界に劣後 脱せるか「貧者のサイクル」』と題されたその記事は、日本の賃金が世界で大きく取り残されていることを如実に物語っています。

[https://s.nikkei.com/2VaIpXy]

 先ずは下の表に注目です。主要各国の最低賃金と生産性を棒グラフにしたものですが、生産性・賃金共に日本が主要国の後塵を拝している様が見て取れます。


 ここで言う「貧者のサイクル」とは、国際競争力を理由に賃金が抑えられ、賃金が抑えられたままになっているから、生産性の低い仕事の効率化が進まない。よって、付加価値の高い仕事への移行も遅れるから、賃金が上がらない・・・ことを指しています。

 つまり、日本経済新聞が指摘するように、デフレ不況や円高と相俟って、日本の賃金は世界水準から大きく取り残された状態なのです。
 ちなみに下のグラフは経済協力開発機構(OECD)がまとめた1997年~2017年における主要国の時給の変動率を表したものですが、唯一日本だけがマイナスとなっている事実は衝撃的と言う他ありません。

アベノミクスは失敗し、日本は不況の只中にある

 そして、さらに衝撃的なのは日本の賃金の推移についてです。
 これもOECDの資料なのですが、下のグラフ『実質賃金指数の推移の国際比較』を見ると一目瞭然です。
 1997年を100とすると、主要各国の賃金は右肩上がりで推移しているのに、唯一日本の賃金だけが減少しているのです。日本の賃金は2016年で89.7。
 つまり、日本は ”失われた20年” で1割以上の賃金が減少してしまったのです。

 これらの事実から、私たちはどのようなメッセージを読み取ることができるのでしょうか?
 政府は昨年の12月、第2次安倍内閣が始まった2012年12月からの景気拡大が戦後最長とされる「いざなみ景気(2002年2月~2008年2月)」に並んだと発表。”アベノミクス” の成果に胸を張りましたが、現実は全くそうではありません。

 つまり、アベノミクスの失敗のため、日本経済は明らかに退潮傾向にあり、今はまさに ”不況の只中” にあることは明白だということです。

働き方改革で日本人は幸せになるのか?

 2019年4月1日から働き方改革関連法が順次試行されます。労働人口が減少する中、長時間労働を抑制し、多様な人材が活躍できる環境整備が謳い文句ですが、この記事で既に指摘した「日本は不況である」こととリンクしているのは間違いなさそうです。
 働き方改革には以下に示す3つの柱があります。

1.長時間労働の是正
2.正規・非正規の不合理処遇差の解消
3.多様な働き方の実現

 そして、この3本柱を実現するために、下記の7つの取り組みを具体策として挙げていますが、特に注意が必要なのは(1)(3)(5)になると考えられます。

(1)長時間労働の是正
時間外労働の上限については月45時間、年360時間を原則とする。
臨時的特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)を限度に設定する。


(2)雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保

(3)柔軟な働き方がしやすい環境整備
通信技術を活用したテレワークの促進し、副業・兼業を認める。

(4)ダイバーシティの推進

(5)賃金引き上げ、労働生産性向上
時間給の最低賃金は1000円程度を目標とする。
能力評価を含む人事評価制度を整備し、年功序列や定期昇給のみによらない賃金制度を設けることを通じて、生産性向上を図り、賃金アップと離職率低下を実現した企業に対して助成する。

(6)再就職支援、人材育成
(7)ハラスメント防止対策

 改革と言うだけあって、従業員にとっては今までになかった新しい働き方、明るい未来が見えてきそうな内容となっていますが、実は、かなり厳しい現実を突きつけるのが、これらの具体策なのです。

 つまり、「(現在でも一部の企業では採用されている)年功序列や終身雇用を完全に廃止し、残業代は一定額しか支払わない(できれば全く支払いたくない)
 給料が減って困るなら、従業員は副業や兼業をして自分で稼ぎなさい。」

 ・・・というのが(1)(3)(5)から見えてくるストーリーです。さらに、この件についてはいささか気になるニュースが最近発信されていましたので、次に紹介したいと思います。

日本では40代リストラが当たり前になる

富士通は近日中に発表する2019年4月1日付の組織改編と人事異動について、このほど社内に通達した。複数の富士通関係者によれば、4月1日付の組織・人事の骨子は次の4点である。

(中略)

4. 2019年1月末に締め切った間接部門従業員の割り増し給付金付き早期退職を含めた今後のジョブ選択を45歳以上の富士通グループ全従業員に拡大する

2019年3月19日 日経XTECH 『 [スクープ]独自入手、富士通の4月機構改革と人事異動の骨子 』
https://nkbp.jp/2TPc4ZV

 「45歳」という年齢が大きなポイントです。この45歳リストラは富士通のみならず、今や日本中を席巻している企業トレンドになっています。

 なぜ、今の日本で早期退職の嵐が吹き荒れているのでしょうか?
 また、なぜその対象年齢が判で押したように45歳以上なのでしょうか?

 この現象の原因については、様々な言説が飛び交っています。
 例えば、仕事のパフォーマンスは「44歳~45歳」と「50歳~51歳」の2つのタイミングで谷間を迎えるため、最近は45歳の社員が世間的な流れにハマってしまったであるとか、45歳は団塊ジュニア世代に該当し、人数がタブついている割に ”就職氷河期世代” でビジネス経験やマネージメントの経験が乏しいためであるといったような、それなりに説得力を持つ指摘もあります。

 しかし、これらの説はストンと腑に落ちてきません。世間を見渡せば人不足のために存続すら危うい企業が増える中、大手だとはいえ一つのトレンドのように早期退職(≒リストラ)のドミノ倒しが起こるのはなぜでしょうか?

 結局のところ、上記のグラフが明確に示しているように、もはや日本経済は立ち行かなくなっているのです。そして、大小を問わず企業も社員を支え切れなくなっていると考えられます。
 特に『 実質賃金指数の推移の国際比較 』の結果はあまりにもショッキングです。なぜ、日本だけが賃金が上がらないのか。賃金が上がらずして、どうして景気が浮揚するというのでしょうか?

まとめ:未曽有の経済危機が起こり、日本は1.5流国に転落する

 東京がオリンピックの招致に成功した時、なぜ今さら東京でオリンピックなんだ?といぶかしく思った方も少なくありますまい。

 オリンピックには主に2つの役割があります。
 一つには、象徴的役割。高度成長を果たし、世界の檜舞台に躍り出た日本が開催した「東京オリンピック」がまさにそれです。日本の姿を世界にアピールし、国民を鼓舞するのが狙いです。

 二つには、経済活性化のカンフル剤的役割。オリンピックを開催するには会場を始めとする建物を建造する必要がありますし、道路や鉄道、海上交通などのインフラも整備しなくてはなりません。建設土木業界が大いに潤い、それは他の業種にも波及してゆくことで好景気が醸成されます。勿論、株価も上昇してゆくでしょう。

 日本がこのような危うい経済状態で、オリンピックというカンフル剤を打つことは極めて危険であると考えます。政府としては経済の惨状をどうにか誤魔化したいのかもしれませんが、オリンピック終了後の揺り戻しは相当大きなものになるでしょう。日本が経済危機を迎え、1.5流国に転落する日も、そう遠くはない未来なのかもしれません。

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