白坂和哉デイウォッチ

『GQ JAPAN』DECEMBER 12 を読み解く ~外国人に山本太郎はどう映る?

Introduction:彼に熱い視線を送っているのは政界ではなく、実は「出版業界」ではないかと思えるほど、最近の雑誌の表紙には「山本太郎」の名が躍っています。

今回紹介する『GQ JAPAN』の山本太郎特集は、題して「TARO YAMAMOTO The Fighter」

記事を書いたのは元ニューヨーク・タイムズ記者、ジョナサン・ソーブル氏。

つまり、山本太郎が外国人の目からどのように映っているのか、それを知る上で極めて重要な記事なのです。

TARO YAMAMOTO The Fighter
~ 山本太郎 ザ・ファイター

ジョナサン・ソーブル氏
Photo by : G1 Global
” The Collapse of Trust in the Mass Media-What Do We Do Next? ”

このところ、「山本太郎」の特集記事を組む雑誌が、立て続けに発売されています。

顔のアップに「山本太郎現象」のキャッチコピー。そんなインパクトある表紙で勝負してきたのが『Newsweek 日本語版 2019.11.5号』です。題して「ニッポンをゆさぶる山本太郎とは何者か」については、このニュースサイトでも既に取り上げました。

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「Newsweek 2019.11.5 を読み解く ~山本太郎とは何者か!?」

そして今回紹介するのが『GQ JAPAN DECEMBER 12』です。
「TARO YAMAMOTO The Fighter」と題された特集記事は、実はライターがニューヨーク・タイムズの元記者で、ジャーナリストのジョナサン・ソーブル氏 “Jonathan Soble” だったりするわけです。

つまり、この記事は山本太郎が外国人の目からどのように映っているのかを知る意味において、実に興味深く重要な記事と言えるのです。そして、ソーブル氏は山本太郎の全国遊説ツアーを追って、実際に北海道まで足を運んでいます。

ソーブル氏には、山本太郎がどのような ”Fighter(ファイター)” に映ったのでしょうか?

山本太郎は「左翼ポピュリスト」なのか?

Photo by :『GQ JAPAN DECEMBER 12』

だいたいにおいて「ポピュリズム」と言われると、政治に関わる人々は良い気がしません。
というのも、ポピュリズムとは「大衆迎合主義」といったように、どうしてもネガティブな印象を引きずるからです。

しかし、「そんなことありませんよ」といったように、ポピュリズムについて正しい定義づけを紹介してくれたのが、先に紹介した『Newsweek 日本語版 2019.11.5号』でのノンフィクションライター・石戸諭(いしど さとる)氏でした。

つまり、ポピュリズムと聞くと、「何も知らない大衆にアメを与え、支持を得る」「メディアを通じ扇動的な言葉を流し、人々の代弁者のように振る舞い、独裁的指導者の地位を得る」といったイメージが湧くかもしれませんが、 石戸氏に言わせると、それは誤訳なのです。

さて、先のジョナサン・ソーブル氏は『GQ』の特集を執筆するに当たり、まず最初に「れいわ新選組」を「左翼ポピュリスト新党」と位置づけました。
これは正しいのでしょうか? 実態に即しているのでしょうか?

石戸諭氏は、オランダの政治学者カス・ミュデの言葉を引用し、ポピュリズムを 要旨次のように定義しました。

ポピュリズムとは、社会が「汚れなき人民」「腐敗したエリート」という敵対する二つの陣営に分かれると考え、政治とは人民の意志であると主張する中心が薄弱なイデオロギー。

ただし、この「薄弱」をマイナスのイメージで捉える必要はありません。
「社会主義」「保守主義」といった「強固」なイデオロギーに対する、「薄弱」という意味になります。つまり、緩い繋がりですね。

よって、ポピュリズムは柔軟であり、それゆえに政治にダイナミズムを生み出す可能性を秘めています。

上の例で言えば、「汚れなき人民」を山本太郎とするならば 、「腐敗したエリート」とは、紛れもなく自民党と官僚組織となるでしょう。
そんな対立する二者に対して、人民である私たちが ”緩やかに” 繋がって山本太郎を支援する。まさに山本率いる「れいわ新選組」の構図そのものです。

そんな山本太郎のあり方をイデオロギーとするのは少々無理がありますが、ソーブル氏の「左翼ポピュリスト新党」という見方は、 山本太郎にしてみれば「上等じゃないですか!」との言葉が返ってきそうです。

若者層を吸収できるか?

Photo by :『GQ JAPAN DECEMBER 12』

山本太郎の演説について誰もが気がつくことの一つに、「若者の参加者がとても多い」ことが挙げられます。これが既成政党と「れいわ新選組」との決定的な違いとなっています。

しかし、実際に選挙を行ってみると、20代30代の若者世代と、60代以上の老年世代の多くが自民党を支持していることが分かります。これを傾向をグラフに表せば「U字型」になるのです。

ジョナサン・ソーブル氏もこの事実に着目しています。
「特に若年層は、3世代にわたる政治の名家の御曹司である安倍とエスタブリッシュメントの代名詞である自民党に諸事を託しておくことに満足しているようだ」

つまり、山本太郎の元には多くの若者が集まりつつあるものの、大半の若者については、政治というものが ”対岸の火事” のようにしか捉えられていない。その現実をソーブル氏は見事に突いています。

では、このような事態を打開する方法はあるのでしょうか。
ソーブル氏は次の2点を実証する必要性を指摘しています。

一つ目は、政治組織を立ち上げ、運営する能力があること。
二つ目は、権力に対峙する山本太郎を、日本が受け入れる素地があること。

山本太郎の組織運営能力

これについて、山本太郎は特異とも言える資質や努力する力を兼ね備えていると言えます。それが揺るぎない「カリスマ性」「エネルギー」という形になって表れています。

ただ、「れいわ新選組」が緩い繋がりがベースになっている集団でもあることから、リアルな組織機構としては有給の職員は10名足らずですし、公式の支部もなければ党員名簿もありません。

政党として、もっと一般的な組織構造を構築しなければ「れいわ新選組」は成長しないのではないか、といった声は実際に支持者からも上がっているのも事実です。

確かに、政治ならずとも「ヒト・モノ・カネ」は基本単位となりましょうから、モノに該当する組織とそれを取り込む器(支部)が必要だとする考えは、当然と言えば当然です。

それでも山本太郎は、固定的な組織にはこだわらず、敢えてアメーバ的な緩い集合体で当面は勝負してゆくのかもしれません。

日本は山本太郎を受け入れるか?

山本太郎がひとたび街頭演説をしようものなら、そこには黒山の人だかりができ、若者を中心に、老若男女あらゆる階層の人々が集っていることが分かります。

そこには多くのボランティアが参集し、選挙活動や、そうでない日はポスター張りをするなど大きな戦力となっていることを伺い知ることができます。
明らかに他の国会議員とは比べようもない ”熱量” が、山本太郎の周辺には満ちあふれています。

しかし、実際の選挙ではそうはいきません。
その辺の現実をソーブル氏も指摘しています。”右派ポピュリスト” と目される「日本維新の会」は「れいわ新選組」倍以上の票を獲得し、N国は政党要件を満たしてしまった。そういったライバルを尻目に、いかに差別化するかが、山本太郎の今後の課題と言えましょう。

山本太郎は ”打算” では動かない


『GQ JAPAN DECEMBER 12』の特集記事「TARO YAMAMOTO The Fighter」を担当したライター、ジョナサン・ソーブル氏は良し悪しは別にして ”消極的原発賛成派” のように映ります。

「現実を見れば、日本は原発なしには立ち行かないから可動も仕方がないのでは?」といった原発に対する姿勢です。それが「気候変動とその危険性の兆しが高まっているにもかかわらず、彼は今なお原子力は化石燃料より大きな脅威だと考えている」といった、山本太郎への評価に端的に現れています。

最近になって山本太郎が軸足を移しつつあるのが「経済」です。
<日本のように独自通貨で負債を抱えている場合、負債が増えても債務不履行にはならない>
<雇用増加のためには、いくらでも財政出動を行うべきだ>
<徴税ではなく紙幣の増刷によって公共サービスを賄える>

そのようなMMT(現代貨幣理論)が、山本太郎の経済への方向性を決定づけているように思われます。

しかし、山本太郎は決して反原発の旗印を下ろしたわけではありません。
「反原発」にせよ「経済」にせよ、山本太郎が何を目指しているかを考えれば答えは明確です。

それらはすべて「困っている者、弱い者」を救うためのツール(道具)、困っている者、弱い者を救うために経済政策の変更を求め、原発に反対してるのが山本太郎です。
そのために彼は ”打算的” に動かず、「権力を取ってやろう」と企てるのです。そして、それを ”捨て身” で実行しようとしています。

山本太郎は「一番強いのは捨て身です」と語っています。「守るべきものがある相手には懐柔策もある。ところが、捨てるものがない相手とネゴするのは難しいですから」

「命もいらぬ、名もいらぬ、官位も金もいらぬというような人物は処理に困るものである。このような手に負えない人物でなければ、困難を共にして、国家の大業を成し遂げることはできない。」
~西郷隆盛の名言~

読者は気がついたでしょうか?
山本太郎とは、安倍首相が最も苦手とする相手なのです。

山本太郎と安倍首相が、国家の頂点をめぐり火花を散らす日は、実はすぐそこまで来ているのかもしれません。

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