経験したことがない悪魔の台風
1958年、888人もの死者を出した「狩野川台風」に匹敵するとも言われた今回の「台風19号」
長野県では千曲川の堤防が決壊、周辺集落が水没し7名が死亡。取り残された住民の救出に自衛隊ヘリの出動が要請され、JR長野新幹線車両センターでは新幹線が水没してしまいました。
また、群馬県では住宅街の裏山で土砂崩れが発生し、家屋に流れ込んだ土砂で男性1名の死亡が確認。
さらに、千葉県では住宅街で竜巻が起こり、横転した運転手の男性が死亡しています。
ここに挙げたのは、ごく僅かな例に過ぎません。
今回の台風19号は暴風被害もさることながら、豪雨による堤防が決壊し、濁流となった水による住宅の浸水、自動車の水没といったような河川の氾濫による被害が顕著に見られます。
つまり、わずか1~2日の間に、年間降水量の3~4割もの雨が集中して降ってしまったことにより、関東甲信と東北地方にかけて、これまで経験のない被害となったのです。
首都圏を中心とした関東地区でも埼玉県の「都幾川(ときがわ)」「越辺川(おっぺがわ)」「九十九川(つくもがわ)」で堤防が決壊し、東京でも世田谷付近で「多摩川」が氾濫しました。
ただし、流域面積にして日本一、長さでも日本二位、日本三大 ”暴れ川” の一つと言われる「利根川」については、幸いにして堤防の決壊や氾濫は起きませんでした。それはなぜでしょう?
鍵は、利根川水系に位置する「八ッ場ダム(やんばダム)」にあるかもしれません。
前例のない ”実戦投入 ”が功を奏した
▼ 八ッ場ダムのビフォー(10月7日時点)
▼ 八ッ場ダムのアフター(10月13日時点)
「八ッ場ダム(やんばダム)」と言いて、ハッと思い出した方も多いかと思います。
民主党政権時に一時は工事中止となった「八ッ場ダム」でしたが、実は、民主党政権下でも八ッ場ダム事業は継続されており、毎年100億もの予算が計上されていた模様です。
そんな八ッ場ダムですが、今年の6月に打設(コンクリートを流し込む作業)が完了しており、10月1日からは試験湛水(しけんたんすい:実際に水を貯めてダム本体や貯水池周辺の安全性を確認する実運用試験)を行っていた矢先、今回の台風19号に直面したわけです。
そして、上記の画像にもあるように、試験湛水が始まって間もない10月7日時点では、ダムは言わば ”空っぽ” のような状態だったにも関わらず、台風19号一過の10月13日には水位が約54mまで上昇し、巨大ダムがほぼ満水状態になりました。
計画に従えば、本来3~4ヶ月かけてダムを満水にさせる想定でしたが、突如として出現した ”最強の敵” である台風19号を前に、試運転もそこそこにいきなり ”実戦投入” される様は、まさに「機動戦士 ガンダム」を彷彿とさせます。
利根川水系には複数のダムが存在していますが、今回の未曽有の台風19号に際し、利根川の堤防決壊や氾濫が起きなかったことについては、この「八ッ場ダム」も大きな貢献をしたことは言うまでもないでしょう。
そして、日本の土木技術の高さに、私たちはあらためて感嘆せずにはいられません。
この事実は、”想定外” の高い技術を、未だ日本が保持している何よりの証左となりましょう。