Introduction:皆さんは感じているでしょうか?
6月に入って世界の勢力地図に大きな変化が生じています。
中心となるプレーヤーはロシアのプーチン大統領、そして中国の習近平・国家主席です。彼らはアメリカという、かつての覇権国家に対峙する包囲網を形成しています。
日本はと言えば、そんなアメリカにぶらさがり、何ら戦略を有していないものの、アメリカに引きずられる格好になっています。
日本が懸念する北方領土の行方はどうなるのでしょうか?
6月から起きた時間軸によって、北方領土の帰趨が露出してきます。
6/1:「日露平和条約」大筋合意を断念
ロシアの政府系メディア、スプートニク(SPUTNIK)は、日本政府がロシアとの平和条約交渉において、6月に大筋合意することを断念したと「日本の朝日新聞が報道したこと」を伝えました。
その朝日新聞は、「日ロ平和条約、6月大筋合意断念 「2島」譲歩策実らず」と題して、5月31日に東京で行われたロシア・ラブロフ外相と、河野太郎外相との締結交渉が、平行線に終わったことを報じています。
6/5:習近平のロシア訪問。パンダ外交を展開
中国の習近平・国家主席は、6月5日から3日間の日程でモスクワを訪問しました。
習主席はプーチン大統領との首脳会談の他、プーチン大統領と共に中国製オフロードカー展示場、ボリショイ劇場での観劇など、両者の蜜月ぶりをアピール。
これは先般行われた、トランプ大統領による日本訪問を強く意識した振る舞いであると思われます。
また、モスクワ動物園には2頭のパンダ「ルーイー」「ディンディン」を貸与。研究を目的とした学術プログラムの一環として、今後15年間モスクワで暮らすことになります。
これに対しプーチン大統領は、「これはロシアに対する特別な尊敬と信頼の証しだ。 大きな敬意と感謝と共にこの贈り物を頂戴する」と述べています。
6/6:プーチン大統領「平和条約の早期締結は困難だ」
プーチン大統領は6日、サンクトペテルブルクで開催されている国際会議に出席したのに合わせ、各国の通信社代表と会見をしました。
その会見の席上、プーチン大統領は、日露平和条約の締結を望むことは安倍首相と同様であるものの、締結は困難なプロセスであるとする声明を出しています。
そして、ポイントとなる次の3点について言及したのです (これらの日本の行為は、ロシアに対する敵対行為として映っています)
- 日米同盟が足かせになっている。
日本があらゆる手段で自国の安全保障を図るのは当然であるとはいえ、 日本がアメリカと軍事協力関係にあることは、ロシアに憂慮を招いている。 - イージス・アショアがロシアの脅威になっている
日本がアメリカから導入する新型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」など、日米の軍事協力は懸念材料である。 - 沖縄辺野古基地建設を憂慮している
地元住民が反対しているにも関わらず、建設を進めていることを指摘。
日本の各地に米軍基地が建設されるのは、ロシアの安全保障に影響が出る。
6/7:プーチン大統領、中国の「一帯一路」を後押し
プーチン大統領は中国の習近平・国家主席を前に演説し、中国の経済圏構想「一帯一路」を後押しすることで、中露両国の経済連携を強めてゆく姿勢を強調しました。
プーチン大統領
「一帯一路は世界規模の国際プロジェクトであり、多くの国が参加している。習主席はその理論を生みだし、実現させようとしている」
習近平
「中露は今年、国交樹立から70周年を迎え、両国関係は新たな時代に入っている」
習主席はこの訪問に際し、1,000人もの中国国有企業の幹部を引き連れてきました。これは、中露両国の経済連携をより進化させようとする強い意志の表れで、サンクトペテルブルクの国際経済フォーラムで協議が行われました。
6/7:プーチン大統領、アメリカを非難「世界経済の成長を妨げている」
プーチン大統領は、サンクトペテルブルクで開催されている「国際経済フォーラム」の全体会合の席上、「アメリカは世界経済の成長を妨げている」などとし、アメリカを非難しました。
その中で、中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)を念頭に置きながら、「経済エゴは紛争を生みかねない」とし、現在行われているファーウェイ締め出しの動きに対しては「デジタル時代の技術戦争」と位置付けました。
まとめ:外交敗北
では、今月に起きた事を、もう一度振り返ってみましょう。
- 6/1:「日露平和条約」大筋合意を断念
- 6/5:習近平のロシア訪問。パンダ外交を展開
- 6/6:プーチン大統領「平和条約の早期締結は困難だ」
- 6/7:プーチン大統領、中国の「一帯一路」を後押し
- 6/7:プーチン大統領、アメリカを非難「世界経済の成長を妨げている」
国際政治はドラスティックに展開しますが、特に6月に入ってからはその動きが顕著です。
今回のロシア、中国の動きと、その発言を吟味すると、
「日本・アメリカ」vs「中国・ロシア」
の対立構造が醸成されつつあることが分かります。
(※参考: 日中戦争は既に始まっています ~河合発言と朝日新聞社説から考える~)
ロシアは中国との国境線問題を既に解決し、クリミアを併合し、中国との関係を深めることに舵を切りました。
では、このような状況で、北方領土が日本に返還される可能性はあるでしょうか?
残念ながら、北方領土返還の可能性は1ミリもないと考えます。
プーチン大統領は日本に対し、北方領土の早期合意を断念させ、中国と手を結びつつ、日本に対しては「日米同盟」をネタに「北方領土は返さん!」とばかりに、”とどめを刺し”た。そして、返す刀でアメリカに対し恫喝しているのです。
中国に「東郭先生とオオカミ」という故事があります。
ある日、知識人である東郭先生が、猟師に追われ瀕死の傷を負った狼に出くわします。
狼は東郭先生に言います。
「どうか先生の徳で私を助けてください」と。
東郭先生は猟師の手から狼を助けるのですが、そのあと狼は恩人の東郭先生に向かってこう言いました。
「私は腹が空いた。もう一度先生の徳であなたを食べさせてくれないか」と。
狼は東郭先生に襲い掛かりましたが、銃を持った農民が通りかかったことで、運よく東郭先生は助かりました。
農民は東郭先生にこう言いました。
「このような獣は自分の本性を変えることはない。貴方は狼に慈悲を施すなんて、なんて馬鹿なことをしたもんだ」
国際政治は「東郭先生とオオカミ」の世界そのもです。各国の指導者は ”オオカミ” ですし、またそうあるべきなので気を許してはなりません。安倍首相はプーチン大統領と仲が良いようですが、そのようなナイーブな感性は国家の利害が絡む場面では何の役にも立ちません。
安倍首相は、いよいよ北方領土返還が絶望的になったことでさぞ地団太を踏んでいることでしょう。ただ、オオカミにも東郭先生にもなれないようでしたら、潔く職責から退くことをお勧めします。