トランプ大統領がノーベル平和賞候補だなんて──

政治

Introduction:”あの” トランプ大統領がノーベル平和賞候補だなんて、これこそ ”悪夢” と呼ぶにふさわしいでしょう。

しかし、これは現実です。アメリカのホワイトハウスは9日、トランプ大統領が2021年のノーベル平和賞の候補にノミネートされたことを発表しました。

8月に実現したイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の国交正常化への貢献がノミネートの理由といいます。もちろん、これはあくまで推薦されただけで受賞が決まったわけではありませんが、トランプ氏本人は狂喜乱舞しているとか──

今回はトランプ大統領がノーベル平和賞にノミネートされた裏事情を取り上げ、イスラエルに対するアメリカの欺瞞について考えたいと思います。

ノーベル賞を貰えないことで1年前から不満を表明

『なぜ、私ではなかったのか!?』

トランプ大統領は2019年9月、ノーベル平和賞についての記者団の質問に対し不満をあらわにしました。というのも、2018年6月12日に行われた歴史的とも言える史上初の米朝首脳会談については、与党共和党議員からトランプ大統領を2018年のノーベル平和賞候補に推薦する声が上がりました。しかし、実際に受賞したのは世界の紛争下で性暴力と闘うコンゴの男性医師と、イラクの女性活動家の二人でした。

そのような状況を踏まえて、昨年トランプ大統領は「選考は公平であれば私が受賞したはずだが、実際はそうではなかった」として、ノーベル平和賞を貰えなかったことに不平をこぼしたのです。

ではなぜ、トランプ大統領はノーベル平和賞にこだわっているのかと言えば、もちろん今度の大統領選を意識してのことですが、忘れてならないのはオバマ前大統領もノーベル平和賞を受賞したということです。

トランプ大統領はオバマ氏をライバル視、敵視していることから、これまでことごとくオバマ前大統領の逆張り政策を行ってきました。よって、当然ノーベル平和賞も受賞しないわけにはいきませんし、ましてや次の大統領選でつまずくわけにもいかないのです。ノーベル賞を貰いあぐねたうえに、過去1世紀で2期目を果たせなかった4人目の大統領といった称号など、トランプ大統領にとっては死んでしまいたい程の屈辱そのものです。

オバマ大統領のノーベル賞はまるでジョークだった

ちなみに、なぜゆえオバマ前大統領がノーベル平和賞に輝いたのかと言えば、チェコの首都プラハで行った「核兵器廃絶」に関する演説のお陰です。

しかし、オバマ氏は「私は在任中に核兵器を廃絶する」とは言ってませんし、「いずれ必ず核兵器を廃絶する」とも言っておりません。

21世紀は世界中の人々が核兵器の恐怖のない平和な生活を送る権利があるし、アメリカは核保有国であり核兵器を唯一使用した国として ”道義的責任” があるので、核の恐怖のない世界を求める戦いを ”主導” し、それを ”始める” ことはできるだろう程度のことしか彼は言っていないのです。

要するにオバマ氏は、少しは核兵器を減らしたいという願望を仰々しく誇張して演説したに過ぎず、「核兵器のない世界は、私の生きている間は無理だろう」とも断言しています。

しかも、このプラハの核廃絶演説は、地球から核廃絶を廃絶することを志向したものというよりは、むしろ本質的にはテロリストに核兵器が渡ることを阻止するという意味においての ”核不拡散” 演説であり、これは従来のアメリカの既定路線なのです。その証拠に、オバマ氏はノーベル平和賞受賞式典の直前にアフガニスタンへの兵士増員を決定しました。

さらに、このプラハ演説ではわざわざイランを取り上げ、イランの核開発はアメリカだけでなく、イランの近隣諸国に対しても脅威であると断言。イランの脅威がなくなれば、ヨーロッパにミサイル防衛システムを配備する必要もなくなるとさえ言ったように、(確かにイランは非常に問題のある国家であるにせよ)アメリカが核兵器を所有するのは、まるでイランのせいだと言わんばかりの勢いだったのです。

その意味で、オバマ氏のノーベル平和賞受賞はまるでジョークでした。

オバマ氏は大統領の就任後間もなく何の実績もない中での受賞となったわけで、これではトランプ大統領が「当時のオバマは、なぜ自分が受賞したのか分からなかった」と言っては馬鹿にするのも頷けます。そして、この程度でしたらトランプ大統領が行った「イスラエル&UAEの国交正常化」もノーベル平和賞に値するのかもしれません。

イスラエルとの国交正常化というドミノ現象が起きる!?

朝鮮半島の非核化や平和に貢献したとして、2019年2月に安易な気持ちでトランプ大統領をノーベル平和賞に推薦した日本の愚かな首相がおりましたが、それはさておき、今回のノーベル平和賞ノミネートに対してトランプ大統領は嬉しさを隠しきれないようです。

上に紹介するのは、イスラエルの日刊英字新聞『エルサレム・ポスト』がトランプ大統領がノーベル平和賞にノミネートされたことを伝えるツイートに対し、トランプ氏本人が「ありがとう!」とコメントを付けてリツーイトしたものです。

今回のトランプ大統領の推薦は、ノルウェーの右派系議員である進歩党のクリスチャン・ティーブリング・イェッデ議員がノーベル賞委員会に提出したものですが(イェッデ議員は2018年にもトランプ氏をノーベル平和賞に推薦している)、推薦文には「他の中東諸国もUAEに追随すると予想され、今回の国交正常化が中東情勢のゲームチェンジャーになる」と記載されています。

確かに、9月11日付の『エルサレム・ポスト』(電子版)を見てみると、バーレーンもまた、アラブ首長国連邦と同様にイスラエルとの国交正常化に向けて動き出したことを報道しています(写真上)
そして、中東においてイスラエルとの国交正常化というドミノ現象が起きれば、本当にトランプ大統領はノーベル平和賞を受賞してしまうかもしれません。

トランプ大統領はノーベル平和賞にふさわしいのか?

しかし、今年の年明け早々、トランプ大統領は何を行っていたか思い出してください。

彼はイラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」の司令官、ガセム・スレイマニ氏殺害にGoサインを出していたのです。これに対し、イランはすぐさま報復攻撃「殉教者ソレイマニ」作戦を開始。このことにより、一時は中東で本当に戦争が起きるのではないかと世界が震撼としました。

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イランとイスラエル

しかし、それは弾道ミサイル十数発による精緻に計算されたピンポイント攻撃で、幸いにしてそれ以後はアメリカとイランの両国間で武力衝突は起きませんでしたが、「私が大統領である以上、イランが核兵器を手にすることは決してない」とのトランプ大統領の声明には、アメリカのイランに対する強い敵視が込められていました。

なぜ、アメリカはこうもイランを敵視するのかと言えば、イランと強い対立関係にあるイスラエルの安全保障に大きく関わるからです。端的に言えば、トランプ大統領はイスラエルの安全保障確保のためには何でもするぞ!と言っているのです。

少し古い話になりますが、イギリスのBBCが2008年に世界34カ国を対象に行った調査では、『イスラエルが世界に悪い影響を与えている』と考えている人々は、半数以上の「52%」にのぼっています。これは、イランに次ぎ「2位」の結果です。

しかし、そんなイスラエルをアメリカは1948年のイスラエル建国当時から守ってきました。アメリカが支配する国連の最初の安保理決議が、イスラエル建国決議でしたし、以来、アメリカは国連安保理でイスラエル批判が出るたびに拒否権を発動し、イスラエルを守り続けてきました。

このイスラエルの建国以来、アメリカではトルーマンに始まり現在のトランプまで13人の大統領が就任しましたが、奇妙なことに ”イスラエルびいき” は共和党であっても民主党であっても変わることはありませんでした。

最近で言えば、インターネットを駆使し一般市民からの小額の寄付金が功を奏して誕生したのがオバマ大統領だったという伝説が生まれましたが、実際はウォール街の金融資本とユダヤ・ロビーからの資金が大部分を占めていたとも囁かれています。そんな彼が大統領首席補佐官に任命したのは、イスラエルとの二重国籍を保有するシオニスト、ラーム・エマニエル氏だったことは一時物議を醸しました。

イスラエルの代理人としてのトランプ大統領

トランプ大統領の場合はさらに露骨です。
イスラエルの首都は「エルサレム」であることを堂々と主張し、イスラエルのアメリカ大使館を首都テルアビブからエルサレムに移転させたことは、図らずも歴史に残る暴挙と言って差し支えありますまい。

さらには、今年の1月22日に発表されたトランプ大統領による中東和平案は、実はイスラエルのための和平案でした。イスラエルだけでなく、パレスチナにも利益をもたらすと言っておきながら、実はイスラエルのパレスチナへの入植を完全に認める内容になっており、間違いなく国際法に抵触しています。

そんな和平案に対し、元々はユダヤ人である大統領上級顧問であるジャレット・クシュナー氏がテレビに出演し滔々と解説してみさせる様は、パレスチナ人にとっては悪夢以外の何ものでもないはずです。

ちなみに、クシュナー氏はトランプ氏の愛娘、イヴァンカ氏の夫であり、そんなイヴァンカ氏もユダヤ教に改宗したことにより、晴れてユダヤ人となりました。ちなみにユダヤ人の定義とは「ユダヤ人の母から生まれた子供」あるいは「ユダヤ教を信仰している」となっていることから、クシュナー&イヴァンカの家系は今後はユダヤ人となり、トランプ大統領の ”ユダヤびいき” もさらにエスカレートするのは間違いありません。

つまり、今回トランプ大統領が行ったイスラエルとアラブ首長国連邦との国交正常化とは、まさにイスラエルの国益のみを重視した偏向政策でしかないのは明白だということ。そして、アメリカが定義するところの「テロリスト」とは、イスラエルのパレスチナ弾圧に抵抗するイスラム武装組織、及び反イスラエル、反アメリカの抵抗組織のことを指し、アメリカはテロを支援する国家も同時に攻撃の対象とみなしているのです。

以上の点から、トランプ大統領のノーベル平和賞については受賞するだけの正統性を著しく欠いていますが、ノーベル賞に大きな影響を及ぼすユダヤ人社会のバックアップもあり、彼が受賞してしまう可能性はほんのわずかですが残されていると言えます。

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