Introduction:新型コロナの世界的な蔓延もあり、今年のG7はテレビ会議での実施が既に決まっていました。
ところが、トランプ大統領は突然「やっぱりG7はアメリカでやろうぜ!」と Twitter に投稿し周囲を驚かせます。
「なあに、どうせトランプの大統領選に向けた宣伝活動だろ?」と誰もがそのように思ったのですが、実はそこにはトランプ大統領の隠された戦略がありました。
鍵を握るのは「ロシア」です。トランプ大統領は我々が想像する以上に執念深い ”男” なのかもしれません。
G7 ⇒ G11を画策するトランプ大統領
G7(先進7か国首脳会議)は、新型コロナの影響により今年の3月にはテレビ会議で行われることが既に決まっておりました。しかし、5月20日になって突然トランプ大統領が6月に通常開催を示唆するコメントを Twitter に投稿、これにいち早く参加の意を表したのが日本の安倍首相。
その一方で、ドイツのメルケル首相は5月30日には参加を見送る方針を表明。これはとても賢明な判断だったと言えます。このことが大きく影響したのか、結局G7は9月以降へ延期となりました。
ここで重要なのはG7開催の有無よりは、むしろその後のトランプ大統領の行動です。彼は延期後のG7はロシアなど4か国(ロシア、韓国、オーストラリア、インド)も含めた会合にしたいと、わざわざロシアのプーチン大統領へ電話を掛けたというのです。
これは、現在の国際秩序に大きな変更を加えることを意味します。
というのも、2014年に起こったロシアによる『クリミア・セバストポリ併合』に対し、事実上の承認を与えることになるからです。
クリミア・セバストポリ併合の概要
このクリミア・セバストポリ併合について、少しだけ振り返ってみましょう。
2013年11月、当時のウクライナ大統領ヴィクトル・ヤヌコヴィッチはEUとの政治経済強化策を停止し、ロシアとの関係を進める方針を固めましたが、早速翌日には首都キエフでこれに反対するデモが組織され、その規模は急速に拡大してゆきます。
そして、このデモは翌月12月には約35万人規模まで膨れ上がり、政府の建物施設を次々と封鎖。暴徒化したデモ隊はあたかも体制を暴力的に妥当するのが自己目的化し、ヤヌコヴィッチ大統領を追い詰めます。ヤヌコヴィッチ大統領は12月22日にキエフを脱出し、ロシアに亡命してしまいました。
ロシアは翌年2014年2月頃から動きを先鋭化させました。2月27日にクリミア自治共和国で新ロシアの首相が誕生するのと同じ時期、「謎の武装集団」(誰もがロシア軍だと信じて疑いませんが)が現れ、自治共和国の空港など重要施設を次々に制圧。これを受け、3月1日にプーチン大統領がロシア系住民の保護を理由に、ウクライナへのロシア軍投入の承認を議会に求め、これが承認されます。
クリミアの多くの人々がウクライナに見切りをつけ、ロシアに気持ちが傾いているといわれている中で、クリミア共和国議会とセヴァストポリ市議会は、ロシアへの国家的帰属を問う住民登場を3月16日に実施することを決定しました。結果は、95%以上がロシアへの編入に賛成。ロシアはクリミア、セバストポリと編入条約を調印し、2014年4月1日からこの条約は発効しています。
ヤヌコヴィッチ大統領を海外逃亡に至らせた市民革命はのちに『ルーロマイダン革命』あるいは『尊厳革命』と呼ばれるようになり、国家を食い物にしていたヤヌコヴィッチに対し市民が立ち上がったことには意義を認めつつも、そのデモ隊が組織的かつ急激に大規模化、暴徒化したのはあまりに奇妙です。
一方、ロシアについてもクリミア・セバストポリ併合の条約に至る経緯においては、水面下で関与していたのは間違いない。
そして、欧米を始めとする国際連合側はこの併合を承認してはおらず、ロシアはG8の参加資格を剥奪され、現在の「G7」体制が継続しているわけです。
トランプ大統領の戦略を探る
今年のG7は、3月にテレビ会議での実施に変更され、それでも米トランプ大統領が5月20日に通常開催を示唆したことは、大統領選への体のいいPRになるからだと思われていました。それはそれで間違いありませんが、G7に4か国を加え「G11」とすることには、以下に示す3つの重要な意味があります。
- オバマ前大統領の政策を否定する
- ロシアを再び大統領選に利用する
- G11にて中国包囲網を形成する
オバマ前大統領の政策を否定する
2014年にウクライナで発生した、表向き民衆革命によるヤヌコヴィッ大統領の追放劇は、2000年代に複数の旧ソ連国家で起こった「カラー革命(※)」同様、アメリカを中心とした西側諸国の関与が濃厚と言えます。
※カラー革命とは
・2003年のグルジア(ジョージア)の ”バラ革命”
・2004年のウクライナの ”オレンジ革命”
・2005年のキルギスの ”チューリップ革命”
ウクライナで革命騒ぎが起きた時のアメリカ大統領はオバマ氏であり、彼が水面下で中心的な役割を果たしていたとトランプ大統領は睨んでいる(当時のオバマ大統領から日本の安倍首相に直電が入り、安倍首相は全面的にアメリカを支持すると言わされてしまいました)
トランプ大統領は、常にオバマ前大統領の逆張り政策を行うことを旨としています。よって、従来のG7にロシアを含む4か国を加え「G11」に昇格させることは、オバマ前大統領が行った政策を全否定し、国際社会のルールをトランプ流に変更することを意味します。
ロシアを再び大統領選に利用する
先のアメリカ大統領選では、ロシアがトランプを勝たせるために様々なサイバー攻撃やSNSを中心としたプロパガンダを仕掛けたと言われています。
そして、今度の大統領選でもトランプ大統領は再びロシアの選挙干渉、世論工作に期待をかけているのではないでしょうか。ロシアをG11に加えることで、ディール(取引)を図るのかもしれません。
また、ロシアとしても、クリミア・セバストポリ併合を強行したことでG8から追い出され、昨今の原油安や国内での新型コロナの深刻な蔓延もあり、経済的に苦境に立たされています。そのため、かつては80%とも言われていたプーチン大統領の支持率がここにきて60%を切ったとも報道され、プーチン帝国に陰りが見え始めている。
そのような国内事情を抱える中、G11の一員として参加することはロシアにとっても国益に資すること大であり、これを機に経済制裁の解除も狙ってくるでしょう。
G11にて中国包囲網を形成する
また、ロシアは中国とは同盟関係のような状態にあることから、ロシアをG11に引き込み、なおかつ経済制裁も解除してやれば中国との覇権戦争の勝利に一歩近づくことになります。
その意味では、トランプ大統領は次の大統領選で勝てるかどうかではなく、当然勝つことを前提として、特に中国に対してはグランドデザインを持っていると思われます。
ただし、トランプ大統領のG11構想が実現するかは現在のところ何とも言えません。
カナダのトルドー首相は「ロシアは国際的なルールと規範を尊重せず、侮っているからG7外にいるのであり、今後もG7の外にい続ける」と明確に反対の意思を表明していますし、G7のアメリカでの開催に肯定的だったイギリスのジョンソン首相でさえ「ロシアが英国民の安全と同盟国の集団的安全を脅かす攻撃的な活動をやめない限り、G7に再加入することは支持しない」と述べているのです。
そして、ドイツは親中国として知られていますが、トランプ大統領の意図を見抜いてG7のアメリカ開催に不参加を表明したのであれば、メルケル首相もなかなかの策士です。
今後もトランプ大統領の動向に眼が離せませんが、G7を ”電話で行うかリアルで行うか” 一つとっても、そこにはトランプ大統領の対中国への包囲網が隠されていたことに、トランプ大統領の並々ならぬ執念深さを感じずにはいられません。
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