菅義偉「次期にふさわしい」38%の衝撃! 安倍首相の評価も”うなぎのぼり”の奇怪

国内政治

Introduction:9月2日、自民党総裁選へ正式に出馬表明をした菅官房長官ですが、既に彼の周辺には気持ちの悪い空気が蔓延しています。

菅氏に対する女子アナの質問には非難が殺到し、直近の世論調査では菅氏の支持率が異常なまでの急騰を示しています。

そして、さらに驚くべきことは安倍首相への ”再評価” とも受け取れる動きが見られ、安倍政権への支持も ”うなぎのぼり” なのです。

まさにこの気持ちの悪い空気感をどのように説明すればよいのか? 一体この国では何が起きているのでしょうか?

有働由美子アナの質問に避難殺到

日本テレビ系列のニュース番組『NEWS ZERO』のメインキャスター、有働由美子氏の発言が炎上しているようです。

発端は、9月2日に放映された同番組内での菅官房長官へのインタビュー。有働キャスターが放った菅氏への質問、『ピンチヒッターですか?』が一部で問題視されています。つまり、安倍首相が残り1年を残して辞任表明したことで、次の首相には任期がわずかしか残っていないことを揶揄するかのような質問と受け止められたからです。

この質問に対し菅氏は「ピンチヒッターの意味が分かりませんが──」と、不愉快な表情を浮かべ受け流したことから、SNS を中心に『有働アナの発言は、菅さんに対して失礼!』との声が沸き上がり炎上に至りました。

確かに、有働キャスターはその他にも「支持は固めたので余裕のよっちゃんみたいな感じですね?」「夫婦仲は大丈夫か?」といったように軽薄でピント外れな質問もしており、このインタビューは菅氏にとっては決して心地よいものではなかったでしょう。

この有働キャスターは2018年にも、巨人軍や米ヤンキースで活躍した松井秀喜氏に対してくだらない質問をしています。
「好きなキャスターは?」「子供にはお父さん、お父様、どちらで呼ばせているか?」など、MLBオールスターズのコーチという当時の松氏の立場とはまるで無関係なズレた質問に対し、やはりSNS で炎上が起きていたのです。

こうしてみると、もしかしたら有働由美子氏は無理にキャラクターを作っているのかもしれず、四角四面な元NHKという官僚的とも言えるキャラクターから早く脱皮したい焦りがあるのかもしれません。

それにしても、有働キャスターの質問は珍妙であったにせよ、かくも菅氏を擁護する発言が多々見受けられるのは大いな違和感を禁じ得ません。そして、このことは同時期に行われた世論調査にはっきりと表れました。

菅義偉「次期にふさわしい」が38%!

朝日新聞が9月2~3日に行った世論調査の結果は、まさに衝撃的としか言いようがありませんでした。

『次期首相にふさわしいのは誰か?』との問いに、なんと菅官房長官が「38%」でトップに躍り出たのです。

◆あなたは、次の首相には、
誰がふさわしいと思いますか。(択一)

菅義偉38%
石破茂25%
岸田文雄 5%
この中にはいない28%
その他・答えない 4%

この世論調査に関して重要かつ極めて興味深いのは、朝日新聞のわずか数日前である8月29~30日にかけて、共同通信も同様の世論調査を行っていることです。

共同通信朝日新聞
菅義偉14.3%38%
石破茂34.3%25%
岸田文雄 7.5% 5%
調査日8月
29~30日
9月
2~3日
共同通信 RDD方式で調査(有効回答 1050人)
朝日新聞 RDD方式で調査(有効回答 1130人)

見ての通り、二つの結果を対比すると驚くべきことが分かります。
共同通信の世論調査と、朝日新聞の世論調査とのわずか2,3日に間に、菅官房長官の支持率が「2.6倍」に急騰しているのです。

しかも、両社の世論調査の方法自体に差異はなく、共にコンピューターでランダムに電話番号を作成し、オペレーターが固定電話と携帯電話に電話をかけるといったRDD方式でした。そして、共同通信が「1050人」に対し、朝日新聞は「1130人」といったように、有効回答数にも大きな差異がないのです。

安倍首相「評価する」が71%!

この朝日新聞の世論調査については、さらに ”驚異的な現象” とも言うべき結果も導き出されました。

それは、7年8カ月に及ぶ安倍首相の評価についての質問ですが、「大いに評価する」「ある程度評価する」を含めて、安倍首相を「評価する」との回答が「71%」にも達し、「評価しない」の「28%」を大きく上回ったのです。

◆安倍首相が辞任を表明しました。
あなたは、安倍首相の7年8カ月の実績を
どの程度評価しますか。
(択一)

大いに評価する17%
ある程度評価する54%
あまり評価しない19%
まったく評価しない 9%
その他・答えない 1%

おそらく朝日新聞としては、これまでの世論調査の結果から「まったく評価しない 17%」「あまり評価しない 54%」となり、「評価しない」が「71%」に達することを期待していたことでしょう。しかし、現実には朝日新聞の期待とは真逆の結果がはじき出されました。

菅義偉38%現象の謎を解く

菅官房長官に失礼な質問を投げかける女子アナの発言が炎上し、支持率がわずか数日足らずで倍以上にも急騰。それに引きずられるように、安倍首相への評価も ”うなぎのぼり” になっている。

この奇怪な現象をどう説明したら良いのでしょうか?
数字に見合うほど、菅官房長官が首相にふさわしいとは思われませんし、安倍首相が評価に値するほどの実績を残したとも到底思われないにも関わらずです。

2020年東京都知事選でも同様の現象

ここで思い出して欲しいのが、今年2020年7月に行われた東京都知事選です。

この時は小池百合子氏が、2位の宇都宮健児氏の4倍以上となる「366万」もの得票で大勝を果たしました。この時の東京都の人口は「1383万人」、有権者は「1144万人」でした。

つまり、有権者の「32%」が小池百合子氏に投票したことになります。
しかし、小池氏がこれほどまでに大勝するような都知事としての実績を残したかと言えば全くそうではなく、選挙活動にしても極めて抑制的でした。

◆ 関連記事 ◆
 
『なぜ小池百合子は圧勝したのか!?~目からウロコの東京都知事選総括』

小池氏はコロナ対策に専念するとして街頭演説は一切行わず、テレビ討論会の出演もすべて拒み続けました。
そして、アリバイ作りのためにいくつかのインターネット討論会には出演しましたが、ここでは抽象的な発言に終始し、あとは積極的に沈黙を保つことに努めました。過去にあった ”排除発言” のような失言を極力避けるためです。

それでも小池氏は、『テレビ』を逆手に取った巧妙な ”選挙活動” をしていたと言わざるを得ません。

テレビの場合だと視聴率1%で「100万人」、視聴率10%で「1000万人」が視聴するほどのインパクトを持ちます。
小池氏はコロナ対策で日々テレビに登場し、キャッチーなスローガンを自身のテーマカラーである緑のフリップにして見せることで、言わば間接的に選挙活動を行っていたようなものだったのです。

「テレビ」~人々に影響を与える発火点

このことは菅官房長官の支持率「38%」に、そっくりそのまま当てはまります。

安倍首相が辞任表明をするまでの間、菅官房長官は自ら首相になることなど「頭の片隅にもない」と嘘ぶいていましたが、8月30日に総裁選への意向を固めるや否やメディアは「菅一色」に染まり、以降、特にテレビでは自民党総裁選のニュースは ”奇妙なことに” 菅氏を中心に報道されるようになりました。この時点では、世論調査での人気No1は石破茂氏だったにも関わらずです。

つまり、菅官房長官の支持率を上げ、首相への既定路線を作ったのは他ならぬテレビを中心としたメディアということになります。

都知事選の場合、コロナ対策と称して小池都知事が毎日テレビ出演することにより、”小池さん以外の候補者を知らない””小池さんはコロナ対策をよくやっている” と多くの都民が思い込み、結果として366万もの人々が小池百合子氏に投票しました。

そして、この小池氏に投票した都民たちは、テレビ出演の多寡によって自分の投票行動がミスリードされていることに、実はまったく気がついていない人々でもあります。そのような有権者が「32%」は存在しており、今回もテレビによってこれら約3割の有権者は「次の首相は菅氏がふさわしい」と刷り込まれてしまったと考えられるのです。

その意味では、テレビ離れが指摘される中にあって、人々の意思・行動に影響を与える発火点が「テレビ」であることは今も変わらないということです。

また、なぜテレビを中心としたメディアがこうも菅氏を忖度するのかと言えば、言うまでもなく安倍政権のメディア対策の現場指揮官とは、まさに菅官房長官であったことを如実に物語っています。メディアの面々もまた、”菅氏が恐ろしい” という刷り込みから解放されていないようです。

安倍首相は本当に再評価されているのか?

安倍首相の異様なまでの高い評価についてはどうでしょうか?
安倍首相が70%以上の人々に評価されていることは、実に奇怪な現象と言う他ありません。なぜなら、安倍首相は辞任表明をした後、何もしていないのだから、「理性的」に考えれば評価が上がるはずがないからです。

なので、安倍首相への高い評価は有権者の「理性的」な判断によるものではない、ということになります。
これはおそらく、日本人特有の情緒的判断といった日本人固有のマインドに根差しているものと考えられます。

「死人に鞭打つ」という言葉があるように、日本人は亡くなった人のことを悪く言いませんし、同様に病人に対しても極めて寛大です。
今回、安倍首相は ”形の上では” 病気を理由に辞任を表明したわけですから、病気への「同情心」や「気の毒」という思いから安倍首相への評価が上がったものと考えられます。

安倍首相と「としまえん現象」

さらに突っ込んで考えると、安倍首相への高い評価は結局のところ「としまえん現象」に過ぎないことが分かります。

「としまえん現象」とは──
普段は馬鹿にして行かないくせに、いざ閉園が決定されるや否や懐かしさが込み上げ、無くなって欲しくないとすら強く思うようになる心理状態のこと。

安倍首相は8月24日、「約7年8カ月」といった首相としての連続在任記録を達成しています。これは極めて長い期間です。大げさな言い方をすれば、私たちの人生の節目節目に安倍首相が存在していたことになります。そんな私たちに多くは、気がつかないうちに安倍首相の存在そのものが刷り込まれ、安倍首相の辞任表明によって一時的な ”安倍ロス” に陥った。それが上述した「としまえん現象」を起こす要因となったわけです。

したがって、今回の世論調査の結果は、安倍首相を適正に再評価するものでは決してありません。

私たちの中に刷り込まれた安倍首相がいよいよ辞めようとしている中、では、後任は誰かと言えば安倍首相よりも老けたビジュアル的にも冴えない小男で、下手をすれば安倍首相よりも活舌が悪く喋りも下手かもしれない菅官房長官なのです。そんな絶望感を抱いた時に「としまえん現象」は起きます。世論調査に、つい情緒的に「安倍首相を評価する」と答えてしまうのです。

考えてもみて欲しいのですが、安倍首相の後任と目される菅氏の支持率が高いということは期待されているからであって、それは現政権が期待されていないことの裏返しのはずです。なので、安倍首相の評価は現状維持、もしくは下がるようでなければおかしいのです。事実、辞任表明の直前までは安倍政権の支持率は極めて低いものでした。

ところが、何でも情緒的に判断してしまう日本人の悪い癖のお陰で、菅氏の支持率も高ければ安倍首相への評価も高いといったような、何とも身も蓋もない情けない世論調査結果が今回出てしまったわけです。

仮に、安倍首相が「やっぱり辞めることをやめた!」などと言い出そうものなら、評価は間違いなく急落することでしょう。

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