Introduction:7月8日の産経新聞「正論」に、極めて重要な記事が掲載されました。
『戦後に別れ告げる「第三の黒船」』 と題された記事の書き手は、杏林大学名誉教授の田久保忠衛(たくぼ ただえ)氏。
この名前を聞いてピンとこない方でも、「日本会議」の会長と言えば、そのバックグラウンドや属性は想像できるのではないでしょうか。
この記事で田久保氏は、先般トランプ大統領から発せられたメッセージ、「米安保見直し」について、これを戦後に別れを告げる「第三の黒船」と捉え、日本の自主防衛強化を堂々と主張しています。
『戦後に別れ告げる「第三の黒船」』の概要
安倍政権のバックボーンとして、陰に陽に政策立案の面において影響を及ぼす「日本会議」。
その中でも会長職の人物が、ここまで踏み込んで提言するのは異例と言って差し支えないでしょう。
今後の安倍政権の運営において、大きな転換を予感させるに十分な内容です。
田久保忠衛よる「正論」に掲載された記事は、3部の構成からなります。
「依存心一喝したトランプ氏」
「自国に好都合な解釈避けよ」
「破砕された戦後日本の論理」
依存心一喝したトランプ氏
専守防衛の日本を、アメリカが防衛してくれていることに慣れ切って依存している日本の状態を ”国家の欠陥” であるとし、これを痛烈に指摘した大統領発言は「前例がない」と指摘。
そして、そんなトランプ大統領の発言に対しては、「トランプ大統領の発言は、アメリカ政府の立場と相容れないものだ」とする、菅官房長官を始めとする日本側の認識を、「異常」であると非難しています。
自国に好都合な解釈避けよ
安全保障問題で揺さぶりをかけるトランプ大統領の狙いは、日米貿易交渉を有利にするためのものだとする発想や、在日米軍には他国より多い額を日本は負担しているので、日本への不満は少ないはずだといった、日本の好都合な解釈は控えた方が賢明であると主張しています。
なぜなら、トランプ大統領はかねてより在韓米軍の撤退、NATOにおけるドイツの防衛努力不足、さらにはNATOからの脱退すら口にしていたからです。
破砕された戦後日本の論理
トランプ大統領の孤立主義(モンロー主義)的な発想から推察すれば、長期的に見て(日本を含む)海外駐留米軍の漸減(しだいに減っていくこと)はあり得る。
よって、日本は「米国との同盟維持」「軍事大国化」「中国との関係緊密化」のいづれかを選択しなければならなくなる(田久保氏はどれを選択するかは自明と言っています)
田久保氏の考えでは、反戦主義は世界で全く通用せず、日本国憲法は信仰であり、沖縄のような反基地闘争の理論的支柱は破砕されたことになっているようです。
アメリカの基本的な対日戦略
・日本に自律的な外交をさせないこと。
・日本に自律的な安全保障政策をさせないこと。
この2つは、アメリカの共和党・民主党を問わず、戦後連綿と続いてきたアメリカの、日本に対する絶対的な政策です。
また、ニクソン大統領、フォード大統領のもとで国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャーは、1971年に行われた中国・周恩来との会談で、「日米安保条約は日本の軍国主義回帰に対する抑止力になっており、仮にこの同盟関係を解消するようなことになれば、日本は再び増長するであろう」といった趣旨の発言をし、周恩来もこれに同意しています。
俗に言う「瓶の蓋」理論ですが、キッシンジャーは現在も健在で、トランプ大統領の外交アドバイザー的な立場に君臨していることからも、アメリカが日本に対する対応方針を変えたと言われても、にわかには信じ難いことかもしれません。
しかし、アメリカの覇権が揺らぎ始めたと言われる昨今、代わりに台頭する中国は、あと10年もすればアメリカのGDPを追い抜き、実質的に世界一の覇権国になるとも言われています。果たして、アメリカはこの現実に耐えられるのか?
その意味においてもトランプ大統領の出現をきっかけとして、対日戦略を見直したとしても何ら不思議はありません。
沖縄米軍基地・北方領土問題は解決できる!
仮に、アメリカが対日戦略を大きく転換したとするならば、今後、日本の取り得る戦略は田久保氏指摘するように、以下の3通りとなります。
1.米国との同盟維持
⇒ いつまでも日米同盟にしがみつく
2.軍事大国化
⇒ 自主防衛の強化
3.中国との関係緊密化
⇒ 東アジアの平和的共存を模索
「3.中国との関係緊密化」については、世論が到底許すはずもないので、非現実的な戦略として却下します。
そうすると、今回の記事の流れで考えれば、田久保氏は「2.軍事大国化」を推したいのでしょうか、これは極めて短絡的な考えで、これこそが「日本会議」の限界であると指摘させていただきます。
筆者としては、1~3のパターンではなく、日米同盟を改訂し、同盟の適用範囲を「日本本土のみ」にすることを提案させていただきます。
このことで、沖縄に存在する米軍基地はすべて廃止となります。
この案の眼目は、米軍基地が存在できるのは日本の本土のみ、沖縄を始めとする島嶼は適用外になることです。
鋭い方は、もうお気づきかと思いますが、これは北方領土も米軍基地の適用外となることを意味します。
つまり、沖縄の基地負担を解消し、北方領土は米軍基地を造らせない方向でロシアとの交渉が可能となり、かつ、日本の防衛力強化にも繋がる「一石三鳥」の戦略です。
これでしたら日本会議の会長、田久保忠衛氏にも納得いただけると思われますが、いかがでしょうか?
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