クルマ好きでなくとも結構気になるカルロス・ゴーン事件を15分ぐらいで理解しよう

Introduction:2018年11月20日。新聞各紙の一面は衝撃的な記事で埋め尽くされました。日産自動車のカルロス・ゴーン元会長が東京地検特捜部に逮捕されたのです。罪状は金融商品取引法違反(有価証券報告書への虚偽記載)

 つまり、自らの役員報酬を約50億円過少に申告したという罪です。その他にも、日産自動車の資産の私的流用、個人的投資損失の日産自動車への肩代わりなど、ゴーン氏の逮捕には大別すると3点の違法行為が取り沙汰されています。

 持ち上げる時には天まで持ち上げ、叩くときには地獄の果てまで叩きのめす。そんな日本人の集団心理が如実に表れたような今回のカルロス・ゴーン氏をめぐる事件でしたが、専門家の見解は分かれています。ゴーン氏を立件することはできるのか?果たして彼はどの程度までの”犯罪者”なのでしょうか?

ゴーン氏逮捕に至った3つの違法行為

 元日本経済新聞記者のジャーナリスト・大西康之氏は、カルロス・ゴーン氏が逮捕された11月19日、日産自動車本社にて午後10時より開かれた西川広人(さいかわ ひろと)社長による記者会見を「異例な記者会見」と評しました。

 というのも、逮捕されたとはいえ、記者会見時点ではゴーン氏はまだ日産の会長職にあるには違いなく、日産自動車が社として告発するのは決定されていないにも関わらず、西川社長は”ゴーン氏は有罪”である”との前提に立ったかのような口ぶりであったからだと西川氏は指摘するのです。そのような話の内容が前後するような、何かに慌てふためいているかのような”不思議な会見”であったと振り返っています。

 確かに、西川社長の記者会見では、容疑の段階であるのにゴーン氏は有罪であると決めつけていた感は否めず、役員会が開催される前ではありましたが、ゴーン氏の会長退任はこの時点で既に既定路線であったのは間違いないと思わせるに足るものでした。

 果たして、日産自動車内部、そしてカルロス・ゴーン氏の周辺では一体何が起こっていたのか?
 西川社長は「東京地検の捜査に協力している立場なので何も申し上げられない」の一点張りでした。
 
 よって、先ずは我々が分かっている事を整理することから始めましょう。
 カルロス・ゴーン氏の罪とは一体何だったのか?ここであらためて見てみることにしましょう。
 (※一部、関係者も含まれます)

有価証券報告書の虚偽記載

①自身の役員報酬を、約80億円過少に有価証券報告書記載した(金融商品取引法違反)
⇒日産の役員報酬の総額は約30億円。役員報酬の分配権をを持つゴーン氏は2011年から2018年の8年間にわたり、自らの報酬を約10億円分過少に記載していた。(その後、不記載だったのは91億円超であったことが判明)
 
②日産自動車の保有株から生じる報酬(ストック・アプリシエーション・ライト:SAR)約40億円についても、有価証券報告書に記載していなかった。

③一連の虚偽の記載については、日産自動車・代表取締役であるグレゴリー・ケリー氏が主導的役割を果たしたとされ、ゴーン氏と共に逮捕されている。 

※金融商品取引法では虚偽記載をした場合、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方が科せられます。

日産自動車の資産を身内を巻き込み私的流用

①日産自動車が所有するフランス(パリ)、オランダ(アムステルダム)、レバノン(ベイルート)、ブラジル(リオデジャネイロ)の高級住宅を私的に無償利用していた。

②住宅については、2010年に日産自動車が約60億円出資しオランダ・アムステルダムに設立した投資会社、ジーア社が購入した(ただし、このジーア社の企業活動の実体については不明な点も多く、いわゆる”幽霊会社”である可能性がある)

③グレゴリー・ケリー氏も、これら住宅の購入に深く関わったとされている。

④カルロス・ゴーン氏の姉(Claudine Bichara:クロディーヌ・ビシャラ)は日産自動車と年間約1000万円でアドバイザー契約を結んでいたのにも関わらず、業務実績は確認できなかった。
⇒彼女は日産自動車が購入していたブラジル・リオデジャネイロの住宅に”住宅の管理者”という名目で居住していた。 

⑤上記以外にも家族旅行の代金として数千万円、娘が通う大学への寄付金などを日産自動車の資金から支払い、また、日産自動車のプライベートジェット機を文字通り”プライベートで”使用していた。

個人的投資の損失を日産自動車に肩代わりさせた

①個人的な投資で生じた約17億円もの損失を日産自動車に転化した疑い。
⇒ゴーン氏は自身の資産管理会社と銀行との間でデリバティブ(金融派生商品)取引を行っていたが、2008年のリーマンショックにより約17億円もの損実を出し、これらの損失を日産自動車へ付け替えしていた(付け替え先の金融機関は新生銀行であったことが後に判明)

②この件については2008年当時、証券取引等監視委員会がゴーン氏、及び関連銀行に対し、違法性の疑いを指摘している。

③この件は個人的利益のために企業に損害を与えた会社法違反(特別背任罪)に抵触する可能性が高いが、特別背任罪の時効は7年となっており、海外滞在期間の除外を適用されたとしても立件するのはほぼ不可能である。

ゴーン氏に対する見解は分かれている

 これらカルロス・ゴーン氏による”犯罪”について、実はその発覚当初から疑問が寄せられているのもまた事実です。

 12月9日の東京新聞は「悪質性 分かれる見解」と題して興味深い記事を掲載しました。
 つまり、今回のような役員報酬の虚偽記載が、刑事事件として立件されたケースは過去に存在しないということです。この事件は専門家の間でも意見が分かれているようです。

 例えば過去のライブドア、カネボウ、オリンパスに見られたような利益や資産を粉飾した事件に比較すると、今回のゴーン氏のケースは役員報酬が刑事罰の対象であり、金融庁の担当者は「似たような事例はこれまで聞いたことがない」ことを認めていますし、その一方でコーポレートガバナンスや企業の信頼性の面から今回の事件を悪質なものと見なす市場関係者やアナリストも存在します。

立件するのは不可能なのか!?

 東京地検の元検事である郷原信郎(ごうはら のぶお)弁護士は、今回の事件に疑義を唱える一人です。郷原氏の指摘によれば、刑事事件として立件するには相手企業側に何らかの「財政上の損害」が必要となりますが、今回はあくまで未来の役員報酬を虚飾したわけなので立件は困難だろうとのことです。せいぜい、カルロス・ゴーン氏、グレゴリー・ケリー氏、西川広人氏、そして日産自動車への罰金に落ち着いてしまうのではないか、というのが郷原氏の見立てです。

 カルロス・ゴーン氏を巡る事件は現在も進行中ですが、さて、メディアを過剰なまでに騒がせた程に、終着点は案外陳腐なものになるかもしれません?
 カルロス・ゴーン氏に罪は有りや無しや?
 東京地検の今後の出方が非常に気になるところです。

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