この記事を読んだ83%の方が安田純平さんの自己責任問題がサクッと理解できると思います

Introduction:2018年10月25日、ジャーナリストの安田純平(44)さんは、これまでのイスラム武装組織の拘束から解放され、実に3年4ヶ月ぶりに日本に帰国しました。

 以来、日本国内ではメディアを始めとして安田さんの話題で持ちきりとなり、案の定というべきか、「自己責任論」がネット空間を中心にいたる所で噴き上がってしまいました。
 今回は、安田純平さんをめぐる「自己責任論」について考えてみたいと思います。

自己責任論に反対したダルビッシュ投手

 安田さん解放のニュースに際しては、意外なところから「自己責任論」反対の立場で意見を表明した著名人がいます。

 アメリカ大リーグ、シカゴ・カブスに所属するダルビッシュ有投手がその人です。
 彼は安田さんをめぐる自己責任論に対し、1994年にルワンダで起きた約80万人もの大虐殺事件を引き合いに、自身のTwitterでこのようにツイートしています。

 ダルビッシュ投手はこの短いツイートの中で、極めて重要な発言をしていると言えるでしょう。それは「誰も来ないとどうなるかということがよくわかります」のフレーズに凝縮されています。
 この言葉は、メディアの本質の一端を見事に突いています。

 つまり、私たちは、私たちを取り巻く情勢のほとんどをメディアに依存せざるを得ないという、厳然たる事実についてです。

 私はこの記事を書いている時点ではサラリーマンです。
 そのような凡庸で無名のサラリーマンが日常生活において認識できる物理的な範囲というのは、半径で言えばせいぜい数メートルから数十メートル、頑張っても数百メートル程度ではないでしょうか。

 私が現在住んでいる八王子市の場合、人伝いに生で新鮮な情報を得ることもできるかもしれませんが、実家のある福島県だったらどうでしょう?
 ましてやこれが海外であれば、もうお手上げです。

 つまり、私たちはメディアが存在しなければ体裁の整った情報(≒ NEWS)を得ることはできないのです。

メディアが報道しなければ事件そのものが抹殺される

 私たちはメディアがなければ情報に触れることはできません。
 どんなに程衝撃的な事件が起きたとしても、メディアが報道しなければその事実を知ることができず、つまり、その大事件は「存在しなかったこと」と同じになることを意味しています。

 前章でダルビッシュ投手がツイートした「誰も来ないとどうなるか・・・」とは、メディアが ”そこ” に行くことなく、何も報道しなければ虐殺など存在しなかったことになる。そういったことを暗示しているわけなのです。
 これはとても恐ろしいことです。国際社会は到底許容することなどできません。

 現在の安倍政権においても、森友加計学園をめぐる大問題について全く決着がついていません。政府与党はこの問題に対し言葉遊びで誤魔化し続け、それ以上に、メディアがこの問題に対し真正面から対決しようとしない態度が問題をズルズルと延命させています。”忖度” に象徴されるメディアの姿勢こそが、森友加計問題などあたかも存在しなかったかのようにしているわけです。

 その意味において、メディアの役割は極めて重要であることは言うまでもなく、本来であれば「権力を監視する」役割を担うはずなのですが、実際は権力の飼い犬のようになっています。

自己責任論に根拠はあるのだろうか?

 話を元に戻しましょう。
 こういった問題に触れるたびに常々思うのですが、安田さんをめぐる「自己責任論」の根拠とは一体何なのでしょうか?
 世間で言う ”まともな人” の中にも、多くの方々が自己責任論を肯定している様に驚きを禁じ得ません。

 「政府が幾度となく警告しているにも関わらず危険地帯に赴き拘束され、そのための救出に多くの費用が掛かり、もしかしたら多くの身代金も払った(かもしれない!)」

 だから安田さんはけしからん奴であり、そんな輩は自己責任で「危険地帯」に行ったのだから、政府は関与すべきではない。
 ――まあ、そんなところでしょう。

 ただし、政府というか国家には様々な役割があり、自国民を救出するというのも国家の極めて重要な役割、むしろこれは「義務」といっても差し支えないでしょう。

 海外旅行中や海外での仕事中に事故や事件に遭遇したならば、国家はあらゆる手段に訴え、とりあえず費用のことはさておいて自国民を救出する義務を負っています。でなければ私たちは何のために高い税金を払っているのか、という話になります。

 安田さんの場合、仮に「安全であるとされる場所」で取材活動を行っている中、何らかの理由で武装組織に捕らえられたのであればバッシングは起きなかったに違いありますまい。おそらく可哀そうなジャーナリストとして世間の同情を得ていたでしょう。

 しかし現実はそうでなく、「危険な場所」での取材中に捕らえられたものだから、世間は一気に噴き上がってしまったのだと考えられます。

 ところで、ここで一つの疑問が浮上します。

  なぜ私たちは、「危険な場所」を「危険である」と認識できたのでしょうか?

文明は伝達であり、伝達は民主主義を成長させる

 文明とは伝達である、と彼は言った。もし何かを表現できないなら、それは存在しないものも同じだ。いいかい、ゼロだ。

村上春樹『風の歌を聴け』(講談社文庫)
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 自己責任論者がそれを主張する根拠は、安田さんが警告を顧みず「危険な場所」に行ったからに他ならないでしょう。

では、なぜ彼らはそこが「危険である」と分かったのでしょうか
 政府がそう発表したからです

では、なぜ政府はそこが「危険である」と分かったのでしょうか?
 日本大使館からの情報や、周辺各国からの情報を得たからです。

 では、なぜ日本大使館や周辺各国は、そこが「危険である」と分かったのでしょうか?
 日本の大使館員や周辺各国の要人がそこを視察して「危険である」と判断したからでしょうか?
 → 大使館員や国家の要人はそんなことをしません。危険情報は主に報道機関から寄せられます。

 インターネットの普及は情報速度と情報量を従来にないレベルにまで引き上げ、情報の流通面においては国家の垣根など事実上、消滅させてしまいました。しかし、それはあくまで情報インフラの発展形態に過ぎません。流すべき情報が無ければインターネットといえども空洞のパイプラインだからです。

 そのような中、安田さんが拘束されていたとされるシリア北西部イドリブなど、この地域がどれ程危険なのか一体誰が知り得るというのでしょうか。日本の報道機関は労働組合の問題などもあり、そんな地域には絶対に自社の記者を派遣しませんし、海外でも似たような事情はあると聞き及んでいます。

 つまり、私たちが危険地帯であるかもしれないと認識する地域に実際に行って取材し、いかにそこが危険であるかを私たちに情報として知らしめるのは、主に安田さんのような国内外のフリー・ジャーナリストがその役割を担っているのです。

 自己責任論を展開する人々の中には、私たちの「知る権利」も主張する方がいるかもしれません。
 しかし、前述したようにメディアが報道しなければ事件は存在しないことと同義となるわけですから、私たちは知る権利を行使することさえ思いつきもしないでしょう。

 「知る権利」とは民主主義を考える上で重要な骨格となります。

 こうして考えると、私たちの知る権利を担保するために実に多くの報道局員が、フリーのジャーナリストも含め、多様な形で関わっているだろうことは容易に想像することができます。彼らが提供する情報はあまりに多岐にわたっているために、私たちはその重要性に気がつかない場合も多々あります。そういった大小の情報をひっくるめて私たちの情報社会は成り立っています。

 この面において私たちはあまりに思考停止しており、紛争地域といった危険地帯に対する認識の面においても、私たちはいささか平和ボケに過ぎるように思われるのです。

 よって、私たちの知る権利が拡大すればするほど民主主義は発展成長し、このことは私たちにとって明らかにプラスに作用すると考えられます。
 逆に、知る権利の概念も与えられず情報が遮断された世界はどうなるかと言えば、困難な隣国の例を持ち出すまでもないでしょう。

 仮にシリア情勢が、仮にイスラム国の問題が、それはパレスチナ問題でも構いません。それらが全く報じられなかったら、私たちや世界はどうなっていたでしょうか?
 自己責任論で個人を叩くのは容易いですが、一方で私たちの民主主義の在り方を試されていると痛感する、今回の安田純平さんの問題でした。

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