香港の民主活動家・周庭氏逮捕の衝撃 ~今後の日本と中国の関係を考える

国際社会

Introduction:『香港国家安全維持法』違反の容疑による香港の民主活動家、周庭(アグネス・チョウ)氏の逮捕は世界を震撼とさせました。

幸いにして彼女は翌日深夜に釈放されたものの、この事件は一人の民主活動家の逮捕劇といったレベルでは済まない問題を内包しています。

日本は中国との間に領空、領海、そして領土問題を抱えており、今回の事件は今後の中国の動きがさらに先鋭化することを暗示しているかのようです。

そして、このことは日本のみならず、世界の大問題へと発展してゆきます。

周庭氏が逮捕され「6つの悪夢」が現実化した

『香港国家安全維持法』違反の容疑で8月10日に逮捕された香港の民主活動家、周庭(英語名:アグネス・チョウ)氏が11日深夜、釈放されました。
同じ10日に逮捕された香港の日刊紙『リンゴ日報』の創業者、黎智英(英語名:ジミー・ライ)氏も12日未明に釈放されています。

しかし、これで一件落着と考えるのは早計でしょう。今回の周庭氏の逮捕はその状況から察するに、適切な根拠を欠いたまま「まず訴追ありき」という方針で捜査を進める ”国策捜査” の要素が多分にあり、民主活動家に対する ”見せしめ” や ”威嚇” であると考えられるからです。

周庭氏の場合は1日の拘留でしたが、これで全てが終了したわけでもなく、他の ”無名” の活動家に対しては極めて厳しい罰則が待ち受けているものと考えられます。おそらく、今後も香港警察による民主活動家への取り締まりは水面下で継続され、多くの活動家が長期拘留の憂き目に遭うでしょう。

しかし、それを報じる地元メディアは皆無かもしれません。まさにそれを象徴するのが『リンゴ日報』の黎智英氏の逮捕であり、他のメディアも今後の報道については委縮するものと思われるからです。

『香港国家安全維持法』は「国家分裂」「政権転覆」「テロ活動」「外国勢力と結託して国家に危害を加える行為」の4つの活動を犯罪行為と定めており、これは中国の他の法律でも言えることですが、個々の条文は曖昧な表現が散見され、いかようにも法の解釈が可能になっています。

6月30日に全人代(全国人民代表大会)常務委員会で全会一致で可決され、同日夜に即日施行された『香港国家安全維持法』
7月7日に発売された『Newsweek 日本語版』(2020年7月14日号)は、その後起きるであろう「6つの悪夢」を次のように予測しました。

  • ジャーナリストの逮捕
  • 反体制的なメディアへの圧力
  • 法の遡及的適用
  • デジタル空間の表現への抑圧
  • 芸術・学術的表現の規制
  • 宗教団体の弾圧

こうしてみると、予想の既に半分が的中したことが分かります。メディアの重鎮である黎智英氏が逮捕され、彼の『リンゴ日報』は家宅捜索も受けました。そして、周庭氏の逮捕はまさに『香港国家安全維持法』の遡及的適用そのものなのです。

契約概念が希薄な中国は約束を守らない

『香港国家安全維持法』は自由や人権といったものをまるで度外視していることから、民主国家の一員である我々には到底受け入れ難い悪法ですが、それ以前に本質的な部分で中国は国際社会の信用を失ったと言わざるを得ません。

というのも、1997年の香港返還時に交わされた「中英共同宣言」には、香港での「一国二制度」をその後50年にわたり維持することが謳われているからです。しかし、実際に蓋を開けてみれば、わずか23年の後に「一国二制度」を実質的に瓦解させるような動きを中国は露にしたということになります。「──やはり中国は信用できない」そう見る向きも多いことでしょう。

社会学者、法学者であり政治学者でもある小室直樹氏は、自著『小室直樹の中国原論』の中で「中国には契約概念がない」と明言しています。

西洋社会の場合、契約というものは「神」との関係が原点にあるわけで、神との契約が人間同士の契約モデルになっているといいます。一方、中国にはそのような一神教的な観念がそもそもありません。そのために中国では「契約」という概念が定着しなかったというのが小室氏の見立てとなります。

いささか極論に過ぎるかもしれませんが、今回の事例などは見事に当てはまっています。中国は50年間の「一国二制度」という約束(契約)を守れなかったわけですから。

安易に米中戦争に参加せず国家の意思を表明せよ

日本は中国との間に領空、領海、そして領土問題を抱えています。中国はこのコロナ禍にあっても領空侵犯、領海侵犯を止めることがありません。

例えば、2019年度(2019年3月~2020年4月)の場合、他国の領空侵犯による航空自衛隊のスクランブル(緊急発進)回数は「947回」にも上っており、その71%は中国機によるものです。実は、日本のスクランブル回数は、同時期のNATO(北大西洋条約機構)によるスクランブル回数の倍以上にもなっています。

◆ 出典記事 ◆
 『空自、中国から絶え間ない圧力、「緊張状態に置き機材や乗員の疲弊狙う」と米CNN』

 ~2020.08.02 @niftyニュース~

領海侵犯について言えば、中国海警局の公船が頻繁に尖閣諸島周辺に出没していることはよく知られています。今年の7月時点で、これらの船舶が84日連続で領海内に侵入していることが確認されており、30~40時間にもわたり領海内に留まっている場合もあったといいます。領海は無害航行する分には何の問題もないとされていますが、中国船の場合は常軌を逸しています。

◆ 出典記事 ◆
 『中国公船の尖閣領海侵入、過去最長時間を記録 日本政府』

 ~2020.07.07 CNN.co.jp~

中国は尖閣諸島の領土権を主張し、そして中国政府系シンクタンクの幹部は、実は沖縄の領土権までも主張しています。

◆ 関連記事 ◆
 『日中戦争は既に始まっています ~河井発言と朝日新聞社説から考える』

これらのことから何が読み取れるのかと言えば、今後、領空・領海・領土問題で中国と交渉の席に着くようなことがあっても、中国の言うことは全く信用できないということです。それを証明するのが、まさに『香港国家安全維持法』なわけです。

以上のことを前提に、これからの日本はどのような道を選択すべきなのでしょうか?

ここでもやはりアメリカとの関係が重要になってきます。
基本的には、日本はアメリカ側に立つ必要があります。しかし、ここで言うところの「アメリカ側に立つ」というのは、「アメリカの言いなりになる」とか「アメリカに何を言われても従う」ということではありません。それでは安倍政権の進める対米外交(社会学者の宮台真司はこれを ”対米ケツ舐め外交” と揶揄しています)と変わりません。

本来、日本のような小国、特に憲法によって安全保障面の制限がかかる小国は外交情勢を正しく分析し、リスクを十分に把握した上で、最善の選択をしなくてはなりません。

米中対立は日を追うごとに激しさを増していますが、今現在において日本は中国側に誤ったシグナルを送ってはなりません。具体的には「米中戦争」と「香港の人権弾圧」とを分けて考える必要があるということです。

日本は安易に米中戦争に参加するイメージを与えることなく、香港情勢について毅然とした意思表明を行い、アメリカとどのように交わるかもっと深い部分で国家の「戦略」を考えるべき時なのではないでしょうか?

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