Introduction:イギリス与党の保守党は7月23日、メイ首相の後任を選ぶ党首選で、EUからの強硬に離脱することを主張するボリス・ジョンソン前外相を新党首に選びました。
ジョンソン氏は24日に首相に就任することになります。
党首選では、約16万人の保守党員による決選投票で、ジョンソン氏は9万2153票を獲得し、4万6656票であった穏健離脱派のハント外相を圧勝。EUからの離脱(ブレグジット)を「10月31日に実現する」と、あらためて明言しました。
さて、今後のイギリスの行方はどうなるのか? まったく分からなくなってきました。
ボリス・ジョンソンをこき下ろした日本経済新聞
ジョンソン氏の新党首就任に際しては、日本経済新聞が極めて強い口調でこれを批判しております。内容を以下に引用しましょう。
欧州連合(EU)からの「合意なき離脱」に突き進む無責任なリーダーに国家を託すという選択だ。米国に続いて英国もポピュリズム(大衆迎合主義)の波にのまれた。みえてくるのは「民主主義国家のモデル」とされた英国の凋落(ちょうらく)である。
人種差別、女性蔑視、イスラム教敵視――。奔放な言動で批判を浴びてきた。品格を問題視せず、恥も外聞もなくトップに選んだのは16万人の保守党員だ。ほとんどが白人で過半が55歳超。「偉大な英国」の郷愁に浸り、ブレグジットをジョンソン氏に託す。
~2019年7月24日 日本経済新聞『英首相にジョンソン氏 「民主主義のモデル」凋落』~
引用箇所最後の部分で、50代後半の白人が英国の ”郷愁” にすがりついているとの記述は、一歩誤ると差別的な描写に繋がりかねない程、今回の日経の批判は異例だと言えるでしょう。
現在のイギリスは、ジョンソン首相誕生に対する抵抗感が薄れているようです。また、イギリスを過大評価し、EUに従属したくないというイギリス人独自の感覚は、目先のことしか考えていないと言われても仕方がありません。
このような状況に至った背景の一つには、イギリスの失業率が4%を割っているという現状があります。よって、市民も危機感が希薄で、最近では反ブレグジットのデモも精彩を欠いています。
下手をすると、国連の五大国から弾き飛ばされるかもしれないのに、イギリスはポピュリストの首相を容認し、”愚衆政治” に染まろうとしているのかもしれません。
イギリスと日本を見限るアメリカ
アメリカの外交問題評議会が発行する外交・国際政治の政治雑誌『フォーリン・アフェアーズ・リポート』(FOREIGN AFFAIRS REPORT)の2019年7月に、興味深い記事が掲載されました。
アメリカンエンタープライズ研究所 政治経済担当議長であるニコラス・エバースタット氏による「人口動態と未来の地政学 ――同盟国の衰退と新パートナー模索」では、アメリカ、中国、ヨーロッパ、そして「日本」の人口動態の推移から、国家間の未来について地政学の観点から論じています。
国のチカラ、つまり国力を考える上で、「人口」は基本的な指標になると考えられています。
現在、アメリカに次ぐGDPを誇る中国ですが、その人口は約13億9000万人で世界第1位。人口増加と国力が正比例の関係にありますが、ピークは2030年までで、その後は人口減少のトレンドに移行してゆくことが既に分かっています。
問題は日本です。
日本は、既に2004年時点で約1億2700万人の人口のピークを迎え、それ以降は急激な人口減少の最中にあります。
現在の予想では、西暦2100年には「明治維新後半」の水準である4700万人まで人口が落ち込むとされており、総務省はこの状況を《この変化は、千年単位でみても類を見ない、極めて急激な現象》と評している程です。
以上の点を踏まえ、あらためて『フォーリン・アフェアーズ・リポート』に視点を戻すと、出生率が人口置換水準(※人口が増加も減少もしない均衡した状態になる水準)を下回り、生産年齢人口がかなり前から減少し始めているヨーロッパとアジアの同盟国とは、すなわち一方が「イギリス」であり、もう一方が「日本」なのです。
そして、記事を執筆した ニコラス・エバースタット氏は、そのようなヨーロッパと東アジアの ”同盟国” は、今後数十年で自国の防衛コストを負担する意思も能力も失っていくだろうと喝破し、新しい ”パートナー” を模索すべしと言っているわけです。
もちろん、シンクタンクの有力者であるとはいえ、エバースタット氏の見方がアメリカという国家を代弁しているわけではありませんし、アメリカも国家として一枚岩でもありません。
しかし、日本に関して言えば、彼の主張は最近トランプ大統領の口から出た ”日米安保見直し” 発言と妙に符合するのもまた事実です。
また、イギリスについては当然、ブレグジットをめぐるゴタゴタ劇を視野に入れているでしょう。
少なくとも、アメリカにはエバースタット氏のようにイギリスや日本を見ている有識者は数多く存在し、両国が既に「衰退国家」の兆候を示している点において、彼らの認識は全く正しいと言わざるを得ないのです。
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