Introduction:2019年5月13日、東京新聞1面に極めて重要な記事が掲載されました。
「羽田新空路下に上皇仮御所」と題されたそれは、きたる東京オリンピックのために計画された民間航空機の飛行ルートの直下に、こともあろうに上皇ご夫妻が仮住まいされる高輪皇族邸があることが分かったというのです。
万が一の航空機墜落事故の危険性は言うに及ばず、ただでさえ日常会話に支障ができるほどの騒音に苛まれるというのですから、上皇ご夫妻はもとより、周辺住民にとっても由々しき事態となっています。
フランス旅客機 低空飛行事件
羽田の新空路の問題を考える前に、過去にこんな事件が取り沙汰されたことを思い出していただきたいと思います。
それは、2018年11月8日に起きたフランスの旅客機による、皇居上空低空飛行事件です。この件についても当時、東京新聞1面で取り上げられました。
このエールフランス機は、飛行経路を逸脱して低空飛行をしたのですが、このニュース全体を通して読んでみても、事態の本質がまるで判然としません。
飛行経路を逸脱したのが問題なのか?
低空飛行だったのが問題なのか?
あるいは皇居上空を飛んだのが ”けしからん” のか?
確かに、それらすべては問題であるに違いなのですが、今一つ、ストンと腑に落ちない感を禁じ得ません。
また、記事に中に《日本政府が飛行ルートをまとめた「航空路誌」をパイロット向けに社内で編集した際に、都心上空を避ける記載が伝わりにくくなっていた》 という重要な記載を発見しました。
エールフランスのパイロットは、離陸後しばらくは正しい経路から外れているのに気が付かなかったようですが、それももっともなことです。上述した「航空路誌」が分かりにくかった訳ですから。
――では、なぜ分かりにくかったのか?
それは、日本の首都圏上空はアメリカに制圧されている、つまり、制空権を握っているのはアメリカだからです。
よって、そういった日本国家として情けない状況を航空路誌に記載する際、どうしても曖昧かつ微妙な表現にならざるを得なかった。その結果、エールフランスのパイロットにその意味することが伝わらなかったため、当該の事件が起こったものと推察できるのです。
その証拠に、国土交通省はエールフランス社に対し、注意喚起をおこなっただけで、処分などは一切行いませんでした。それはそうです。偉そうに処分などしたら、日本が置かれた惨めな現実に否応にも向かい合うことになるのですから・・・
日本の首都圏上空はアメリカに牛耳られている!
あまり知られていないのですが、日本の首都圏の制空権は、完全に米軍に牛耳られています。これは、日本という国家の独立と主権に関わる重大問題なのです。
在日米軍の軍用機は、「基地間移動」の名目で日本のどの地域でも飛ぶことができますし、日米安保条約に即して「接受国通報」なる通達を日本に出すだけで、日本のどの地域でも、アメリカ国内では決してできないであろう危険な超低空飛行訓練ができる権利を持っています。まるで「宗主国と植民地」のような関係です。
「横田ラプコン(RAPCON:Radar Approach Control)」と呼ばれる航空管制空域が存在します。
日本名を「横田進入管制区」(通称:横田空域)と称し、首都圏一都八県(東京都、栃木県、群馬県、埼玉県、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県)の広大な空域については、たとえ民間航空機であっても飛行する場合は米軍から許可を貰わなくてはなりません。
ちなみに、航空管制は米空軍の横田基地にあります。
もちろん、許可を受ければ米空軍の管制の元で横田空域を飛行することは可能ですが、許可が下りるかどうかは定かでなく、一便ごとに毎日許可を申請することは現実的に不可能であるため、羽田や成田を離発着する民間航空機は、ほぼ全便が迂回する経路を取らざるを得なくなっています。
このことが、羽田・成田両航空路の混雑を生み出し、航空機同士が危険なニアミスを起こす原因の一つにもなっているのです。
つまり、戦後70年以上が過ぎても、日本の首都・東京の空は、日本の主権下に置かれていないのが現実なのです。
米軍が日本の発展を阻害している!
上述した一都八県の上空5000~7000メートルにかけては、民間機が立ち入ることができません。よって、羽田空港や成田空港を飛び立った旅客機が大阪や沖縄などの西日本方面へ向かう場合、一度千葉県の房総半島上空を飛行し、そこから急旋回と急上昇をすることにより横田空域上空を飛行する空路を取らざるを得なくなっているのが現状です。
旅行好きの方であれば、なぜ首都圏上空で飛行機は不自然とも言える旋回をしているのか、不思議に思ったこともあるでしょう。原因は横田空域にあるのです。そして、この横田空域の存在は日本の発展、国益をも阻害していると言えます。
例えば、羽田空港を拡張してアジア地域のハブ空港すれば良いとの議論が浮上しては立ち消えになっています。確かに羽田は利便性も高く、これが実現すれば経済効果は計り知れないものとなるのですが、なぜかできない。それは横田空域が横たわっているからです。滑走路や施設を拡張拡充しても、横田空域が旅客機の進路を阻んでしまい、空の交通整理ができなくなるからなのです。
それでも、日本のオリンピックを2020年に控え、さすがに在日米軍もオリンピックへの影響を考慮したと見えて、今年1月の「日米合同委員会」の席上で横田ラプコン(横田空域)の民間機通過を認めたのが事の真相です。
横田空域の通過を認めることで羽田発着便の増便が可能となり、このことはアメリカの航空会社にとっても収益になるとの判断があった模様です。
ただ、ここで注意して欲しいのは、このことは日本が首都圏の制空権をアメリカから取り戻したわけではない、ということです。
横田空域については日米地位協定によって扱いが取り決められていますが、今回は地位協定を一切変更することなく、あくまで運用を変更したに過ぎません。
つまり、相も変わらず首都圏上空は在日米軍の管制下におかれ、宗主国アメリカと植民地日本の関係は今も何ら変わらない、ということです。
冒頭の東京新聞の記事『羽田新空路下に上皇仮御所』の本質はまさにここに極まれりと言うことができますし、在日米軍は日本の発展を阻害するどころか、今や上皇ご夫妻の頭上すらも脅かす存在になったということです。
我々日本人は、このような状態を放置して良いのでしょうか?
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