Introduction:これを残念に思う方も多いでしょう。しかし、次の自民党総裁、すなわち次の首相は『菅義偉』で決まりです!
安倍首相の電撃的な辞任表明がなされてわずか数日足らず。世間はすっかりポスト安倍一色に染まり、既に菅官房長官が次期首相であるかのような空気が醸成されています。
なぜ、このような事態になったのか?
鍵は『安倍マイレージ・システム』にあると考えられます。これこそが安倍首相の権力の源泉です。
”信賞必罰” だけは徹底してきた安倍首相。最後に安倍マイレージ・システムが炸裂した瞬間です!
ピエロにすらなれなかった岸田文雄
菅官房長官は9月2日、正式に自民党総裁選への立候補を表明します。
菅氏は総裁選へ出馬する意向であることは既に表明しており、このことが自民党の各派閥に大きな影響を与え、奇妙なことに菅氏が次の総裁、すなわち次の首相となるといった空気が一気に醸成されてしまいました。”正式表明” が行われる以前であるにもかかわらず、です。
これに焦っているのが自民党の政調会長、岸田文雄氏。
岸田氏は安倍首相とは極めて近い関係にあるとされ、これまで安倍首相は岸田氏に首相の座を禅譲するつもりでいました。
しかし、菅氏が浮上してきたことで事態は変化し、「安倍 ⇒ 岸田」禅譲ラインが大きく揺らぎ始めました。
そこで岸田氏は麻生・副総理兼財務相に助けを求めましたが、麻生氏から色よい返事は貰えなかった。
麻生氏は既に菅氏に傾いており、「菅さんは選択肢の一人」と語る一方で「乱世の岸田じゃない」とすら言い放ち、岸田氏を足蹴にしたのです。
確かに岸田文雄という政治家は、現在のコロナ禍といった乱世には到底対応はできません。大人しくて、地味で華がなく、存在感を全く示せておりません。
ちなみに、岸田氏は初めての著書『岸田ビジョン 分断から協調へ』を9月15日の発売を前倒しして、9月11日に変更しました。というのも、自民党の総裁選が9月14日に決まったことで、総裁選後にこのような本が出版されたとて岸田氏にとっては ”間抜け” そのものだからです。
このことを揶揄してか、安倍首相は岸田氏を評して「岸田は発信力がない」などと言ったとか──安倍首相程度の御仁にこんな言われ方をされるようでは彼もお終いです。岸田氏は安倍首相にも梯子を外されてしまったように思われます。
これが ”首相禅譲” という名の媚薬に油断し、口を開けて待っているばかりだった男の末路。──岸田氏はピエロにすらなれませんでした。
Part1:憲政史上、最長の ”官房長官”
岸田文雄氏はピエロにすらなれませんでしたが、”刺身の褄” 程度にはなってくれなくては困ると、菅氏はそう考えているでしょう。無投票で次期首相の座を奪うのは正統性に疑いを持たれるからです。
なぜゆえに、次の首相が菅氏になってしまうのか?
それを考えるのがこの記事の趣旨です。それには「3つのパート」に分けて説明をいたします。
まず最初に挙げるべきことは(これについて語る人が皆無なことが不思議ですが)、菅氏は憲政史上、最も長く務めた「官房長官」だということです。
安倍首相が2799日という、首相連続在任記録を8月24日に達成したことは今ではよく知られていますが、菅氏も同様に官房長官としての在任記録を残していたわけです。
第2次安倍政権が発足したのは、2012年12月26日のことでした。それから約7年8カ月もの間、安倍首相に付き従い官房長官を務めてきたのが他ならぬ菅氏です。これは素直に評価すべき点でしょう。
日本は、明治時代になってから欧米諸国を見習い議会制を導入しましたが、この時以来、これほどまで長きにわたり官房長官を務めた者は、実は菅氏をおいて他にいないのです。
※明治の頃は「官房長官」といった呼び名はなく、「内閣書記官長」と呼称していました。
Part2:安倍マイレージ・システム
2012年12月の第2次安倍政権発足以降、安倍政権で官房長官を務めてきたということは、それだけ安倍首相に尽くしてきたことに他なりません。どんなに愚鈍で無能な安倍首相であっても、さすがにこの事実を無下にするわけにはいかないはずです。
そこで安倍首相は、得意の『安倍マイレージ・システム』を発動することに決めたのです。
──それにしても、「頭がいい」はずの官僚たちが、なぜこうも、官邸に操られてしまうのでしょう。
内田 先ほど申し上げましたけれど、僕はこれを「安倍マイレージ・システム」と呼んでいるのです。いまの官邸は、官僚の信賞必罰が徹底している。首相におもねった役人には必ず報奨が与えられ、首相に逆らった役人には罰が与えられる。この査定がきわめて正確、かつ迅速に行われているのです。そして、この査定システムの異常なほどの単純さが官僚たちには好感されている。
一人一人の役人が、内心は政権をどう評価しているのか、ほんとうのところどれくらいの能力があるのか、といったことは問題にならない。首相に対する忠誠心だけで職位が決まる。受験秀才たちにとって、こんな簡単な方程式はありません。
望月衣塑子『「安倍晋三」大研究』(KKベストセラーズ)〔P252〕
東京新聞社会部の記者、望月衣塑子氏による『安倍晋三 大研究』では、神戸女学院大学名誉教授の内田樹氏と共に、官僚と安倍政権の馴れ合いとも言うべき歪な関係について深くメスを入れています。
そして、この本に書かれていることは官僚のみならず ”政治家” にも当てはまることは言うまでもありません。
なぜ、例えば稲田朋美や三原じゅん子といった政治家が安倍首相に擦り寄り、安倍首相に尽くそうとしているのかについては、最終的にはうまい汁に与かろうとする魂胆があるからです。現に稲田氏は、あの程度の能力であっても防衛大臣に抜擢されてしまいました。
そんなこともあり、安倍政権の功労者である菅氏に対しても、信賞必罰をシステマティックに実施するための仕組みである ”安倍マイレージ・システム” を起動しないわけにはいかない。すなわち、それは菅氏を次の首相にさせることにということです。
これまで安倍首相は信賞必罰だけはきちんとやってきました。
なぜなら、これこそが安倍首相の権力の源泉だからです。
Part3:党員・党友を排除した総裁選
菅氏を首相にするため、安倍首相が考えた方策が総裁選における「党員・党友投票」の見送りです。
自民党は全国に100万人を超える党員・党友を抱えており、一般党員は「4000円」の年会費を払っています(上のイラスト)
しかし、自民党執行部はこれら党員・党友を総裁選から排除し、「両院議員総会」で総裁選を片付けてしまうことを決定しました。これは衆参両院の国会議員394名、および各都道府県連の代表3名(計141名)、総数535名による総裁選です。
これは極めて非民主的な選挙戦であると言う他ありません。自民党の党則は、緊急事態時での両院議員総会による総裁選を可能としていますが、全国の党員にしてみれば一体何のために会費を払っているのかということになりかねず、”会費泥棒”、”会費詐欺” のそしりは免れないでしょう。
現在は新型コロナの渦中にあり、確かに緊急事態ではあるものの、ではなぜ自民党は緊急事態にも関わらず臨時国会を開催しなかったのか? ──総裁選を簡略化する理由がこの一点でも吹き飛んでしまうことが分かります。また、自民党の執行部はきちんと総裁選をやるには2カ月ほどの時間が掛かると言っていますが、その根拠を明示してもいません。
両院議員総会での”簡略版” 総裁選は、もちろん ”石破茂潰し” といった意味合いがありますし、今後も自民党の幹事長の座を狙う二階俊博氏と菅氏が手を組んでこのような選挙を進めているとの報道もあります。
しかし、いくら二階氏や菅氏が力があるといっても彼らが勝手に自民党の総裁選をコントロールすることはできないでしょう。そこにはやはり首相の承認がなければこのような非民主的な選挙を強行することは不可能なはずです。
そして、これこそが今回の ”安倍マイレージ・システム” の本質だと考えられます。安倍首相は菅氏を首相とするために、二階&菅の画策する ”密室選挙” にOKを出す。そのために、持病の潰瘍性大腸炎だ悪化したと言ってわざわざ辞任の記者会見を開いておきながら、暫定首相を置かず、今も首相に居座っているのです。
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