Introduction:日本では「ロストジェネレーション(通称 ”ロスジェネ” )」と呼ばれる人々が社会問題化した時があります。就職氷河期のため、思うような就職ができなかった1999年~2004年頃に卒業した人々を総称した言葉です。
人手不足の現在と違い、当時の就職率は7割を切っており、多くは非正規雇用を余儀なくされたことで、その後の結婚や出産などにも影響が出たと言われています。
このように、特定の世代を○○ジェネレーション、○○世代と総称することは世の東西を問わずよく耳にしますが、昨今話題となっているのが「Z世代」です。
Z世代とはこれまでの世代と何が違うのか、どのような価値観を持っているのか、その辺のところを今回は探ってみようと思います。
『インベスターZ』というZ世代的なコミック
三田紀房氏の人気コミック『インベスターZ』では、中学生が「投資」を展開してゆきますが、数十億、数百億といったお金が飛び交う点において異色の作品となっています。
「まあ、”漫画” だからそんなものだろう…」などと高をくくってはいけません。投資の方法論やお金そのものにも踏み込んだ解説をしており、大人が普通に読んで楽しめ、勉強になるよう工夫がなされています。
『インベスターZ』の場合は、「中学生が投資をする」という設定自体が斬新で、完全に「空席」になっていた。なおかつ、現代人のニーズに応えている。
三田紀房『徹夜しないで人の2倍仕事をする技術 ─三田紀房流マンガ論─』(コルク)
銀行金利がマイナスになり、日本経済が「貯蓄より投資をするほうが得をする」方向に変わり始めていることに、世の大人たちは何となく気付いている。だから株の知識や投資の具体的な方法を知りたいけど、今さら人に聞くこともできず、時代に乗り遅れているんじゃないかと焦っている大人は多い。『インベスターZ』は、そんな人たちが読んで、経済や投資の知識が身につく格好の教材になっている。「円高と円安の仕組み」とか、中学生レベルの知識って、実は学び直しにちょうどいい。こっそり読んで、居酒屋で後輩に知識を披露しているサラリーマンは結構いるんじゃないかな(笑)
『インベスターZ』の価値はどこにあるのかと言えば、作者の三田氏が端的に語ってくれています。それは、”今さら人に聞けないことを楽しく学べて、飲みながら誰かに披露できる程度の知識は身につく” といったことに尽きます。
みんな色々なことを知っているようで、実は知らないことも多かったりする。だから、イベスター…のような勉強系コミックは良く売れています。
さて、この作品の主人公は、中学生の財前孝史。合理的、現実主義的な性格も相まって、数々のエピソードを彼は積み上げてゆきます。
『インベスターZ』の「Z」は主人公の頭文字から取ったようですが、中学生と言えば13歳頃ですので、コミックの発売が2013年であることを考慮すると、まさに財前孝史は偶然にも「Z世代」であることに気が付きます。
Z世代は ”デジタルネイティブ” である
例えば、冒頭で触れた「ロストジェネレーション」
日本では就職氷河期の犠牲者として捉えられていますが、アメリカなどでは第一次世界大戦を経験し、従来の価値観に懐疑的になった世代としても認識されています。
元々、アメリカが ○○ジェネレーション、○○世代といった区分けが好きなようで、それぞれの年代ごとによる呼び名は次の通りです。(※ 多少時代は前後します)
1945年~1959年頃の生まれ | ベビーブーマー |
1960年~1974年頃の生まれ | X世代 |
1975年~1995年頃の生まれ | Y世代(ミレニアム世代) |
1995年~2010年頃の生まれ | Z世代 |
Y世代は「ミレニアム世代」とも言われ、子供の頃から情報環境に慣れ親しんだ、言わば ”デジタルパイオニア” です。
しかし、Z世代は生まれた時点で既にパソコンがあり、インターネット環境についても料金が定額となり、常時接続が可能になっていたという点においてY世代とは一線を画しています。Z世代が ”デジタルネイティブ” と呼ばれる所以です。
Z世代の世界観と嗜好性とは
生まれた時から情報環境が整い、各種デジタルデバイスに囲まれ育ったZ世代にはどのような特徴が見られるのでしょうか。ざっと挙げると次のようになります。
- 「テレビ」ではなく「YouTube」を見る。
- 「紙の本」ではなく「電子書籍」を読む。
- 「CD」ではなく「ストリーミング・サービス」で音楽を聴く。
- 「パソコン」ではなく「iPhone」を持ち歩く。
- 「Facebook」はもう古いと感じている。「Instagram」や
「Snapchat 」を楽しんでいる。
※Facebookを古いとする感性には、筆者も個人的に共感を覚えます。確立され、多機能なSNSであるFacebookについては堅牢な「城」を思わせ、ノマド的なライフスタイルの対極にあるのでは? といったパラドクスを感じずにはいられません。実際問題、中高年層がとても多いと思います。
デジタルネイティブと形容されるZ世代ではありますが、社会的な問題に関心が高いのも特徴の一つとなります。
これは、2001年のアメリカ同時多発テロ(9.11)、2008年のリーマンショックを子供時代に垣間見たからだと言われています。社会を震撼とされたこれらの事件に対する両親や関係者の姿を通じ、彼らなりに問題意識を高めていったからなのでしょう。
このことについては、彼らがSNSを通じ、様々な考えや価値観に触れていることも無視できません。Z世代は人種や宗教、あるいは思想や価値観の相違を認めつつ、ニュートラルな姿勢で自身の個性も高めたい、最近のキーワードでいえば ”ダイバーシティ” といった考えを最も強く認識している世代と言えそうです。
全米を揺るがすZ世代が存在する
彼の名前は David Hogg(デイビッド・ホッグ)
2000年4月生まれの彼は、今年19歳になります。現在、ハーバード大学で政治学を専攻し、「アメリカで最も影響のある10代」として広く知られるようになりました。
きっかけは2018年2月14日、アメリカ・フロリダ州の高校で起こった銃乱射事件でした(マージョリー・ストーンマン・ダグラス高校銃乱射事件)
過去に高校を退学処分となった犯人は、この日ライフル銃を持って高校に侵入、17名を殺害する大惨事となりました。
幸いにもデイビッドは生き残ったのですが、この事件は彼に計り知れない衝撃を与えました(「この日から世界は変わった」と彼は言っています)
彼は、翌日から頻繁にテレビに出るようになりました。銃製造業者や銃愛好家で組織される「全米ライフル協会(NRA)」や、全米ライフル協会から多額の政治献金を受ける「政治家」を痛烈に批判したのです。
さて、ここでデイビッドを語る上で象徴的な事件が起こります。
アメリカテレビ放送の4大ネットワークの一つ、FOXテレビのトーク番組 『ザ・イングラハム・アングル』(THE Ingraham angle)のアンカー、ローラ・イングラハムは、幾つかの大学受験に失敗したデイビッドに対し、自身のTwitterで「デヴィッドは泣き言を言っている。カリフォルニア大学に落ちたことは、合格者の平均スコアを見れば初めからわかりきっていたことだ」といったように、彼を馬鹿にしたのです。
これに対し、デイビッドは素早く反撃しました。
彼もTwitterで番組スポンサーをピックアップし、これら企業に対して抗議の声を上げようとフォロワー訴えたのです。
既に紹介したように、彼のTwitterフォロワーは2019年5月22日時点で「965,070人」――彼の訴えは瞬く間に全米に拡散していったのでした。
そして、デイビッドと彼のフォロワーの抗議が実を結び、実際に複数のスポンサーが番組を降りてしまう事態になりました。
もちろん、これに慌てたローラ・イングラハムは、Twitterで謝罪を表明したのは言うまでもありません。その後、彼女については番組を1週間程降板させられたというオマケまで付きました。
まとめ:Z世代が世界をリードするかもしれない
世界人口の4分の1である「20億人」がZ世代に該当します。
また、アメリカ人口の4分の1である「8,600万人」がZ世代に該当します。
今回紹介したハーバード大学で政治学を学ぶ David Hogg(デイビッド・ホッグ) は、25歳になったら下院議員選挙に立候補したいそうです。
生まれた時からデジタルデバイスに親しみ、当たり前のようにインターネットへアクセスしてきた「Z世代」
彼らは先端テクノロジーを吸収し、新しい価値観を生み出すことで世界の中心となる、次世代のリーダーたちなのかもしれません。
コメント