【解説】イスラエル&パレスチナ戦争を理解するために ~イスラエル ベンヤミン・ネタニヤフ首相の詭弁『──我々は戦争状態にある』~

Introduction:イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は『我々は戦争状態にある』と言ったが、これはある種の詭弁である。 というのも、1948年のイスラエル建国時に70万人以上のパレスチナ難民が発生して以来、イスラエルはパレスチナ人に対し弾圧の限りを尽くしてきたからだ。
特にガザ地区における弾圧・虐殺は熾烈を極め ”現代のワルシャワ・ゲットー” とも言われている。
イスラエルとパレスチナの軍事的なバランスはあまりに非対称的。
アメリカからの最新兵器をふんだんに装備するイスラエルは ”戦争状態” どころか、その気になれば半日でガザ地区を壊滅させることができる。

※以下の記事は2009年1月時点の状況を記したものです。
ガザは21世紀のワルシャワゲットーであり、
巨大収容所と化したガザは21世紀の人種絶滅収容所である。

イスラエルの大本営発表

2005年以降、イスラエルによるガザ地区占領政策は新たなる展開を見せ始めた。
それは、ガザ地区におけるイスラエル・ユダヤ人の全入植地の完全撤退という形となって表れた。
これまでガザ地区にはジャーナリストはおろか、国際支援団体のスタッフですら立ち入ることができない状況が続いていたが、この時にはイスラエル政府がガザ地区にプレスセンターを設置し、世界中のジャーナリスト・記者をそこに集結させ、彼らの報道・取材活動に対し最大限の便宜を図った。

日本国内のメディアも、当時は連日のようにガザ入植地撤退のニュースを大きく取り上げ、時には大きなカラー写真が新聞の一面を飾ったこともある。
イスラエル・ユダヤ人入植者たちにしてみれば自分たちが長年住んでいた土地を追われ、その子供たちは生まれ育った家から追放されることになる。
家にしがみつくユダヤ人たち。それを同胞のイスラエル兵が涙ながらに引き剥がし彼らを強制的に排除する。

ある日の毎日新聞夕刊の見出しは「命令と良心の狭間で」であった。
国の厳命だからやむを得ないのだが、同胞に対する仕打ちに葛藤を禁じえないイスラエル兵のやるせない思いを綴った記事である。

しかしである。
2008年末から2009年の始めにかけてのイスラエルによるパレスチナ人への残虐、パレスチナ人に向けてのミサイル攻撃や砲撃、さらには白リン弾投下にまで至った行為に対し、イスラエル兵は命令とその良心の狭間で葛藤していたと言えるのだろうか。
2005年のこの時期、イスラエルはこのような行為をしてまでも「和平に前向きなイスラエル」「和平に積極的に取り組むイスラエル」といった国家像を世界中にアピールしていた。

これは国家を上げての壮大なるプロパガンダ活動であった。
日本を始めとするメディアはそれらの事情をなんら検証することなく、日々発信されるイスラエルによる大本営発表を鵜呑みにし、我々へ向けて垂れ流していたのである。

新たな占領政策の始まり

それは新たな占領政策、つまりは「占領者無き占領」の始まりでもあった。
それまでは入植者を守るという名目でイスラエル軍がガザ地区に駐屯していた。
パレスチナ人にとっては宿敵イスラエルが常に眼前に存在していることになり、不満があれば彼らに抵抗し紛争となることも頻繁に生じた。

ところが2005年以降、ガザからはイスラエル兵が完全に姿を消してしまった。
これはパレスチナ人にとって喜ぶべきことか?いや、まったくそうではない。
イスラエルは撤退する代わりにガザ地区の国境を完全に掌握し、ガザの人々はそこから出ることもできない、外部から人が入ることもできない、そして、物資の出入りすらイスラエルの管理下に置かれてしまったのである。

パレスチナ人たちは抵抗しようにも具体的な敵が目の前にいない。
イスラエルにとっては、パレスチナ人の不穏な動きを察知した際に国境封鎖を強めれば容易く彼らを「兵糧攻め」にすることができる。
これこそが新たな占領政策「占領者無き占領」の本質である。
これはイスラエルによるパレスチナの更なる占領の継続であり、実際問題「占領者無き占領」によりその度合いはさらに厳しさを増すことになった。

決して生かさない、決して殺さない

2006年、パレスチナ自治政府評議会選挙で「ハマス」がその第1党となった。
ちなみに、自治政府職員の給与は各国から集められた国際援助によって成り立っているのだが、こともあろうにイスラエル政府がその窓口となっている。
これによりイスラエル、そしてアメリカがテロ組織として指定しているハマスをパレスチナ人が選出したとして、イスラエルは自治政府職員の給与をカットし、ガザ地区の国境封鎖を強化し、さらにはライフラインを止めてしまうといった集団懲罰を断行している。

現在でもガザ地区は、電気が1日に数時間しか供給されないといった大変悲惨な日々を過ごしている。
食料や医薬品の決定的不足はもはや言うまでもない。
そのために亡くなってゆくパレスチナ人は後を立たないのである。

これが今イスラエルが推し進める「決して生かさない、決して殺さない」という占領政策である。
そして、このような「占領者無き占領」は2005年以降3年にも及んでおり、それは今後も止むことなく継続されるのである。
アメリカ・オバマ大統領就任に歩調を合わせるかのようにイスラエルはガザ地区から撤退し、1年ほどに及ぶ休戦協定の噂がメディアでも報道されている。

しかし、とりあえずこれでガザが収まったと思うのは大きな間違いである。
ガザ地区を巡る占領政策の本質は何ら変わってはいないのだ。

「決して生かさない、決して殺さない」
——国境はイスラエルにより封鎖され、食料も医薬品もライフラインもおぼつかない状況で、今現在もパレスチナ人は生と死の狭間で1日1日をかろうじて生きつないでいるのだ。
我々はこの悲惨で壮絶な現実を、まず念頭におく必要があるだろう。

 

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