Introduction:”安倍話法” とは、自分にとって都合の悪いことは何一つ触れず、嘘と美辞麗句を並べることで ”やってる感” を演出するための詭弁です。
20日に召集された通常国会での施政方針演説で、安倍首相は「桜を見る会疑惑」や「IR汚職」には一切触れることなく ”安倍話法” を炸裂させました。
驚くべきは、この演説でオリンピックについて11回、パラリンピックについては8回も触れるなど、日本の首相というよりもまるでオリンピックの ”興行師” ような口ぶりです。
安倍首相の安倍首相による安倍首相のための施政方針演説。
――突っ込みどころ満載です。
根拠なき楽観ムードを演出するだけの「施政方針演説」
木で鼻をくくったような態度で定型句を淡々と繰り返し、一方的にコミュニケーションを断つ菅官房長官の答弁を ”菅話法” とするならば、自分の言いたいことは得意満面になって話す一方、都合の悪いことは何一つ触れず、嘘と美辞麗句を並べ立てることで ”やってる感” を演出するのか ”安倍話法” と言えましょう。
いずれにおいても詭弁であることには違いないのですが、1月20日に召集された第201回通常国会での施政方針演説においても、そのような ”安倍話法” が炸裂しています。
本来、施政方針演説とは、内閣総理大臣が議会でその年一年間の政府の基本方針や政策についての姿勢を示すために行われるものです。よって、昨年明るみになった「桜を見る会疑惑」や「IR汚職」についても、安倍首相はどのように対処するのかを表明する必要があるのですが、そのような不祥事は完全にスルーされ、”安倍話法” による自己PRの場と化しているのです。
特に今回の施政方針演説で特徴的なのは、夏に開催予定の「東京オリンピック」に絡めた演説です。
日本の首相というよりも、まるでオリンピックの ”興行師” のようだったのですが、オリンピックにかこつけて根拠のない楽観ムードを演出、煽っているだけにしか見えませんでした。その意味では、安倍政権の ”行き詰まり感” が手に取るように分かる演説でもありました。
では、具体的に安倍首相による施政方針演説の中身を見てゆきましょう。
安倍ポエムには注意が必要だ!
五輪史上初の衛星生中継。世界が見守る中、聖火を手に、国立競技場に入ってきたのは、最終ランナーの坂井義則(よしのり)さんでした。
8月6日広島生まれ。19歳となった若者の堂々たる走りは、我が国が、戦後の焼け野原から復興を成し遂げ、自信と誇りを持って、高度成長の新しい時代へと踏み出していく。そのことを、世界に力強く発信するものでありました。
「日本オリンピック」。坂井さんがこう表現した64年大会は、まさに、国民が一丸となって成し遂げました。未来への躍動感あふれる日本の姿に、世界の目はくぎ付けとなった。
半世紀ぶりに、あの感動が、再び、我が国にやってきます。
本年のオリンピック・パラリンピックもまた、日本全体が力を合わせて、世界中に感動を与える最高の大会とする。そして、そこから、国民一丸となって、新しい時代へと、皆さん、共に、踏み出していこうではありませんか。
施政方針演説の出だしの部分です。
前回の「オリンピックに絡めた歴史」に触れ、具体的な「実名」を出して人々の詩情的感覚に訴えようとしている点が実に嫌らしくもあり、”安倍話法” の典型的特徴を形成するものです。
言わば ”ポエム” のようなものですが、安倍首相の頭からはこのような文面は到底出ることはありません。内容から察するに、安倍首相のスピーチライターも兼ねる、内閣官房参与の谷口智彦氏が好むような仕上がりの文面となっています。
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『「駆けて、駆け、駆け抜けよう・・・」 安倍ポエムはどこから湧いて出てきたのか?』
このポエムは以下の『「日本はもう成長できない」。7年前、この「諦めの壁」に対して・・・』の伏線となっているのですが、以下の文面を読んでみればお分かりのように、子育て支援・教育無償化・働き方改革といった全く機能しない政策、つまり安倍政権の失策をあげつらっているだけなのです。
これらをして「1億総活躍社会」とは片腹痛いですし、平和安全法制については完全な憲法違反。さらに、安倍首相による地球俯瞰外交にいたっては、何の成果もない税金の無駄遣いでしかありません。
私たちは「諦めの壁」を打ち破ったどころか、「諦めの壁」に押しつぶされぐうの音も出ない状態にあります。私たちにとって安倍首相の存在そのものが ”諦め” となっていることに、なぜ彼は気がつかないのでしょうか?
このように、詩情的・ポエム的な出だしの演説には注意が必要です。安倍ポエムはその後に続く失政のオブラートの役割を果たすからです。
「日本はもう成長できない」。7年前、この「諦めの壁」に対して、私たちはまず、三本の矢を力強く放ちました。その果実をいかし、子育て支援、教育無償化、更には働き方改革。1億総活躍社会を目指し、まっすぐに進んでまいりました。
厳しさを増す安全保障環境を直視しながら、平和安全法制を整備し、防衛力を抜本的に強化しました。地球儀を俯瞰(ふかん)する視点で、世界を駆け回り、ダイナミックな日本外交を展開してきました。
我が国は、もはや、かつての日本ではありません。「諦めの壁」は、完全に打ち破ることができた。その自信と誇りと共に、今、ここから、日本の令和の新しい時代を、皆さん、共に、切りひらいていこうではありませんか。
日米貿易協定によって農林畜産業は壊滅する!
(農産物輸出)
昨年、EU(欧州連合)への牛肉やコメの輸出は、約3割増えました。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)諸国への乳製品の輸出も、2割を大きく上回る伸びとなりました。甘い「紅はるか」は、シンガポールやタイで大人気です。サツマイモの輸出は、昨年、4割以上増加しました。
先月、中国への牛肉輸出について、解禁令が発出されました。今月発効した日米貿易協定もいかし、おいしくて、安全な、日本の農林水産物の世界への挑戦を、力強く後押しいたします。
農地の大規模化、牛の増産や、水産業の生産性向上など、3000億円を超える予算で、生産基盤の強化を進めます。販路開拓など海外への売り込みを支援します。
「農産物輸出」についても見過ごすことはできません。
上記にあるように、安倍首相は日本にとって有利となりそうな数少ないトピックをことさら大きく取り上げていますが、この問題の本質は何と言っても今年の1月1日に発効した「日米貿易協定」に尽きます。
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『「日米貿易協定」衝撃の試算結果!アメリカのさらなる要求で日本は沈没か!?』
日米貿易協定については、安倍首相が ”WIN – WIN” の関係などと大見得を切りましたが、蓋を開けてみれば日本の一方的な ”コールド負け” でした。
この問題の悲劇的なことは、「桜を見る会疑惑」に隠れて国民の目から完全にノーマークとなり、昨年12月9日に閉幕した第200回臨時国会において、何事もなかったように承認されてしまった点にあります。
この協定により、日本の農業はもとより林業、畜産業も未曽有の大打撃を受けることは必至で、その損害はどれ程の規模になるかは全く見当がつかない状況なのです。
「東洋の魔女」と中小企業は何の関係もない!
(中小・小規模事業者)
「東洋の魔女」が活躍したバレーボール。そのボールを生み出したのは、広島の小さな町工場です。その後、半世紀にわたり、その高い技術を代々受け継ぎ、今なお、五輪の公式球に選ばれ続けています。
全国各地の中小・小規模事業者の皆さんが、長年培ったオンリーワンの技術で、地域経済を支えています。しかし、経営者の多くが60歳を超え、事業承継は待ったなしの課題であります。そして、若い世代の承継を阻む最大の壁が、個人保証の慣行です。
(中略)
信用保証協会では、個人保証なしで後継者の皆さんの融資を保証する新制度を、4月からスタートします。経営の磨き上げ支援も行い、専門家の確認を得た後継者には、保証料をゼロとします。個人保証の慣行は新しい世代には引き継がないとの強い決意で、あらゆる施策を総動員してまいります。
(中略)
デジタル技術の進歩は、中小・小規模事業者にとって、販路拡大などの大きなチャンスです。デジタル取引透明化法を制定し、オンラインモールでの出店料の一方的引き上げなど不透明な取引慣行を是正します。
ここでも「東洋の魔女」といった「オリンピックに絡めた歴史」が登場します。要するに、バレーボールを作った会社は今でも製品が公式球として使われてますよ、といっただけの話です。
しかし、話はオリンピックの「東洋の魔女」に始まり、それがなぜか中小企業の事業継承を円滑に進める政策を実施するに繋がり、中小企業のデジタル取引の不透明な慣行を是正するに着地するわけで、「東洋の魔女」とは関係のない政策の話です。
ここでも安倍首相は「オリンピック ⇒ 中小企業の事業継承」、「オリンピック ⇒ 中小企業のデジタル取引」といったように、無理やりにオリンピックにこじつけているわけです。
アベノミクスに関する安倍首相の大嘘!
(アベノミクス)
今般取りまとめた新しい経済対策は、まさに、安心と成長の未来を切りひらくものであります。事業規模26兆円に及ぶ対策を講じることで、自然災害からの復旧・復興に加え、米中貿易摩擦、英国のEUからの離脱など海外発の下方リスクにも万全を期してまいります。
日本経済は、この7年間で13%成長し、来年度予算の税収は過去最高となりました。公債発行は8年連続での減額であります。経済再生なくして財政健全化なし。この基本方針を堅持し、引き続き、2025年度のプライマリーバランス黒字化を目指します。
この期に及んで ”アベノミクス” を引き合いに出すとは、呆れて開いた口が塞がりません。
安倍首相に言わせれば、「日本経済は、この7年間で13%成長し、来年度予算の税収は過去最高となりました。公債発行は8年連続での減額」のようですが、一体何を根拠に言っているのでしょうか?
安倍首相は「来年度予算の税収は過去最高」と言いましたが、来年度(2020年度)予算の税収はまだ確定していないので、現段階では ”見込み” でしかありません。
ちなみに、前年度(2019年度)予算も、当初の段階では過去最高の税収を見込んでおり、安倍首相も昨年の施政方針演説で今回と同じように「来年度予算の税収は過去最高!」などと言ったのです。
ところが、実際に蓋を開ければ法人税などの落ち込みが続いたために、過去最高を達成することはできませんでした。
安倍首相は税収について、昨年と同じように根拠もなく断言しているわけです。そして、おそらくは昨年同様、今年もその発言は「間違いだった」と結論付けられるでしょう。
ここまでくれば、安倍首相は虚言壁を持つ人間にカテゴライズされそうです。ついでに言えば、「公債発行の8年連続減額」も間違いです。
◆ 出典記事 ◆
『 (ファクトチェック)「税収は過去最高」まだ見通し 新規国債、決算ベースで増加も 施政方針演説 』
~2020.1.21 朝日新聞~
オリンピック以外に目玉がない安倍首相
このように、施政方針演説では前半だけでも突っ込みどころ満載で、その後に続く「1億総活躍社会」や「外交・安全保障」についても言うまでもありません。
そして、最後もやはり「オリンピックに絡めた歴史」、すなわち「人類は4年ごとに夢をみる」という、1964年の東京オリンピックの記録映画の言葉を引用し、施政方針演説の幕としているわけです。
今回の演説は総じて今どき流行りのキーワードを切り取り、それに対して「進めます」「目指します」「役割を果たします」といったような美辞麗句ばかりで具体性の乏しい中、根拠なき楽観ムードを醸成しているに過ぎません。それがオリンピックについて11回、パラリンピックについては8回も触れるといった結果に端的に現れています。
安倍首相は ”レームダック” です。
もはやオリンピック・パラリンピックしか、すがるものは残されていないように思われます。
※レームダック:「役立たず」「死に体」の政治家を指す政治用語。 レイムダックとも表記される。 選挙後、まだ任期の残っている落選議員や大統領を揶揄的に指すのに用いられる。 転じて、米国では「役立たず」などと特定の人物を揶揄する慣用表現としても用いられている。
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