Introduction:悪いことは言いません。このアプリをインストールしてはいけません! いくら「試行版」とはいえ、あまりの完成度の低さに驚きを隠せないからです。
この問題のアプリとは、新型コロナ感染拡大を防ぐことを目的に、厚生労働省が投入した「接触確認アプリ」です。愛称は「COCOA(ココア)」だそうですが、もっぱら世間では ”アベノアプリ” と呼ばれており、しかも、これが役に立ちそうな気配は「皆無」です。
このアプリが保有するバグはまさに ”素人レベル” と言う他なく、何を思って厚労省が世に送り出したのか? その意図するところは全く不明です。さらに、アプリの仕組みや設計思想以前に、アプリによる弊害を日本人がイメージしていることも見逃せません。
今後、”アベノアプリ” は ”アベノマスク” と同様の経過を辿り、人々の記憶から消え去るでしょう。
コンセプトは悪くない ”アベノアプリ”
新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐことを目的に、厚生労働省が世に送り出したのが「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA:ココア)」
安倍政権も、おそらく必ずやって来るだろう新型コロナウイルスの感染第2波の切り札として期待しているようです。
そんな中、筆者も実際に ”アベノアプリ” をスマホにインストールして、使い方や仕様などを調べてみたのですが、コンセプトとしては悪くないアプリであることが分かりました。
機能はいたってシンプル
このアプリの機能はいたってシンプルです。
先ずは Bluetooth と、ブッシュ通知の機能を有効にしておきましょう。
その前提でこのアプリは「1メートル以内、15分以上」接触があった場合、その情報をBluetoothによって常時記録し、感染者と接触が確認できた場合、スマートフォンのプッシュ通知が届くといった仕組みです。
実は、たったこれだけの話なのです。
個人情報は漏洩しない?
この手のアプリを使用する方が最も心配するのは、何といっても「個人情報が漏れてしまうのではないか!?」に尽きるでしょう。
安倍政権と国民との間に全く信頼関係が築けていないため、それはもっともな心配なのですが、結論を言えば、このアプリで個人情報が漏れてしまうようなことはありません。というか、シンプル過ぎて漏れようがない、というのが正確な表現です。
【注意!】 とはいえ、このアプリの品質は甚だ心もとなく、『「試行版」にしてはあまりにお粗末!』以降の章を参照してから判断してください。 |
公職選挙法違反の疑いで逮捕された河井克行・案里夫妻などは、スマートフォンのGPS機能を ”ON” していたことで検察に足取りがダダ洩れ状態になってしまい、裏付け捜査の動かぬ証拠になってしまったのは記憶に新しいかと思います。
政治家のくせにGPSをONにしていたのは間抜け極まる話ですが、”アベノアプリ” についてはGPSなどの機能は一切使っていません。要となるのは近接通信機能である Bluetooth です。
つまり、「1メートル以内、15分以上」の接触を常時記録し、相手方が感染していると分かった時に、「陽性者との接触確認」と通知されるだけなのです。そこに個人情報は一切関わってはこないのです。
陽性者の ”なりすまし” もできない?
もし自分が新型コロナに感染したことが分かったら、この ”アベノアプリ” に登録する必要があります。その場合でも、個人情報を登録する必要はなく、保健所などの公的機関から発行される「処理番号」を登録することで、感染者のスマートフォンとして認識されるようになります。
【注意!】 この機能についても次の章『「試行版」にしてはあまりにお粗末!』を参照してください。 |
そして、この手順に沿ってスマホに処理番号を登録することにより、過去14日以内に接触した人の元にプッシュ通知が届く仕組みになっているのです。
実は、これは ”なりすまし” を防ぐ仕組みにもなっています。感染者でもないのに面白半分に感染者のふりをしてスマホに登録し、いたずらに社会を混乱させることを、公的機関発行の処理番号を登録する仕組みで防いでいるわけです。
「試行版」だとしてもあまりにお粗末!
厚生労働省のWebサイトでも謳っているように、”アベノアプリ” こと「接触確認アプリ」は「試用版」という扱いになっています。よって、実態としてはリリースされていない機能がいくつか存在し、具体的には下記の通りとなります。
利用開始日の不具合
本来であれば「利用開始日」には、アプリをインストールし、利用を開始した日付が「xxxx年xx月xx日から使用中」と表示されるはずです。ところが実際は、アプリを開いた当日の日付が表示されてしまいます。
(上の写真)
陽性者情報登録の不具合
アプリの使用者がコロナ陽性と判明した場合、保健所などの公的機関から発行される「処理番号」を登録することになっているのは上述した通りですが、この「処理番号」の発行の準備が遅れているのは、新型コロナの渦中でもありますし、百歩譲っても構いません。
しかし、だからといって現段階で架空の番号を入力した際、『完了しました』と表示されてしまうのは、いかがなものでしょうか!?
しかも驚いたことに、本来なら8桁の番号を入力するところを、適当に3桁の番号を入力してもやはり『完了しました』と表示されてしまいます。
一体何が ”完了” したというのでしょう?
陽性者情報登録の機能がリリースされていないというのであれば、せめて『この機能は現在使用できません』ぐらいのメッセージは表示すべきではないでしょうか? しかも、登録後はアプリのステイタスが全く確認できない、つまり、陽性者として登録されているかの否かが全く確認できないのです。
根本的な話をすれば、このアプリの肝は「陽性者情報登録」以外に何もなく、この機能が実装されていない時点でアプリをインストールするメリットは「ゼロ」
スマホのストレージを無駄に食い潰すだけです(笑)
実態はバグだらけの ”アベノアプリ”
厚生労働省は『試行版』の意味を理解しているのか甚だ疑問です。
『試行版』を謳っていることから機能が限定されているものと思いきや、上述した「利用開始日」「陽性者情報登録」の不具合など、正真正銘の ”バグ” (プログラムの欠陥)以外の何ものでもありません。
筆者は2019年3月まで東京都内のIT関連企業に勤務していましたが、「利用開始日」「陽性者情報登録」のバグなど、正直に申し上げれば ”新人レベル” のミス。このようなプログラムはユーザーには到底認めてもらえませんし、それ以前に先輩社員から大目玉を食らうような致命的バグと言えます。なぜならば、普通に動作確認をすれば容易に見つかるバグだからです。
明らかなバグのあるアプリを「試行版」として世に出してしまう。「試行版」とは機能が限定されている版であって、そこにバグがあってはならない。これが筆者の理解です。
それでも百歩譲って、システムには不慣れな厚労省職員の仕事だからそれも仕方がないかと思いきや、実際にシステムを開発したのがなんと!天下のマイクロソフトのエンジニアだと言うではありませんか!筆者には到底これが信じられないのです!
◆ 出典記事 ◆
『コロナ「接触確認アプリ」開発者を直撃!個人情報の扱いは?効果は出る?』
~2020.06.20 DIAMOND online~
そして、アプリ開発を厚労省から受注し、工程管理を請け負ったのが『パーソルプロセス&テクノロジー株式会社』(パーソルP&T)
システムの上流工程から開発、そしてその後の保守運用まで一手に引き受けられる社員数4000名以上を誇る、創業40年以上のIT企業です。
つまり、このパーソルP&Tの管理下の元、マイクロソフトのエンジニアを中心に4名のプロジェクトチームを結成し、”ボランティア” で開発したのが今回紹介する厚生労働省の「接触確認アプリ」、通称 ”アベノアプリ” の実態なのです。
システム担当者の矜持を問う!
それにしても、何から何まで滅茶苦茶です。
実際にシステム開発に携わった4名のボランティアの、新型コロナに対し「何かの役に立ちたい」という想いを無下にするつもりはありません。しかし、出来上がったアプリがあまりに ”しょぼ” 過ぎる!
さらに、アプリの開発を請け負ったパーソルP&T社は一体何を ”工程管理” していたというのでしょうか?
システム担当者としてのプライドと矜持があるのであれば、このようなアプリは到底世に出せるはずがありません。これはゲームなどの娯楽アプリではなく、現在世界中で蔓延し、多くの死者を出した未知のウイルスのアプリなのですから!
”アベノアプリ” の開発に際しては、約4100万円の開発費用が投じられたようですが、パーソルP&T社は4100万円の仕事はしていなかったと結論づけるしかありません。
もっとも、”ボランティアの仕事” だから、アプリの品質はどうでもいいのでしょうか?
◆ 出典記事 ◆
『開発費4100万円「コロナ接触アプリ」は国民の6割に普及するか』
~2020.06.19 Smart FLASH~
それにしても、日本はつくづく恐ろしい国になり果てたと感じます。
世界中を恐怖のどん底に突き落とした新型コロナウイルスが存在し、そのアプリをボランティアが努力して開発しましたが、残念ながらバグがあった。しかし、それを管理する大手IT企業は(意識的か無意識的かは分かりませんが)それをスルーし、厚労省も(おそらく)ユーザーサイドの動作確認もすっ飛ばして世に送り出しているのです。
筆者はこのような実態に戦慄を覚えます。
つまり、今後の「接触確認アプリ」の品質が問われる事態になっているということです。筆者は到底このようなアプリを推奨することはできません。
筆者が厚労省の立場であれば、ボランティアにアプリなど開発させませんし、ボランティアの開発したアプリも採用しません。予算を確保し、信頼のおける企業に開発させ、最終段階のユーザーテストにも参加します。
そんなこと、当たり前の話です!
人口の6割がインストールするはずがない!
”アベノアプリ” は6月19日午後15時からダウンロードがリリースされ、6月23日午前9時現在でダウンロードが「371万件」に達しました。
これはなかなか多い数字であるようにも思われるのですが、イギリスのオクスフォード大学の研究者は、感染拡大を止めるには「人口の6割」の使用が必要であるとの見方を示しています。
さて、「人口の6割」というのはどのような規模感なのでしょうか?
一番わかりやすいのが『LINE』です。
スマホユーザーならば誰もが知っている『LINE』の月間利用者は「約8400万人」で、これは国内人口の「約66%」に相当します。
つまり、”アベノアプリ” は LINE と同等の8400万もの人がインストールしてくれなければ役に立たない代物なのです。
現在、日本のスマートフォンの保有率は「約64%」と言われています。”アベノアプリ” を有効活用するには、全てのスマホユーザーがインストールする必要があるのですが、そのようなことなど果たしてあり得るのでしょうか?
ちなみに、似たような接触確認アプリはシンガポールでも導入事例がありますが、インストールは2割程度に留まっています。
”アベノアプリ” が「いじめ」や「差別」を助長する!
不毛な話をすること、どうかお許しください。
仮に ”アベノアプリ” が完全に動作したとしても、自分の名前や住所といった個人情報が漏れないということが完全に保証されたとしても、”アベノアプリ” は役に立たないし、インストールすべきでないと断言します。
なぜならば、感染者のほとんどが陽性者の登録をしないと考えられるからです。
政治家や芸能人といった著名人、あるいは不特定多数を相手にする接客業ならともかく、ごく普通の会社員が日常業務において接する人間は、ある程度限られてきます。これは学生においても同様です。
それを前提にして考えると、普通の会社員のような方々がコロナに感染したからといって、果たして律義に ”アベノアプリ” に陽性者の登録をするでしょうか? 筆者は大いに疑問だと感じます。
なぜなら、「いじめ」や「差別」に繋がるからです。
想像して欲しいのですが、ある日プッシュ通知が届き、自分はコロナの感染者と接触していたことが分かります。そして、その人は最初に何をするのかと言えば、ここ最近会った人の顔を必死に思い浮かべるでしょう。そして、「あいつが感染者に違いない!」と当たりをつけるかもしれません。疑心暗鬼が生まれる瞬間です。
”自粛警察” なる連中が世間を闊歩し、コロナに感染した方が回復して晴れて職場に復帰したとしても、あらぬ差別を受けたり、酷い場合には退職に追い込まれたりするのが日本の実態です(海外も似たようなものだと思います)
◆ 出典記事 ◆
『コロナ回復しても職場で冷遇…「明言避けたものの、退職を暗に迫られた」』
~2020.06.05 讀賣新聞~
そのような社会において ”アベノアプリ” に陽性者登録をすることは、自ら率先して差別や迫害の ”さらし者” になることを意味し、できればコロナ感染の事実は伏せておきたい、といった心理が優位になることは否めません。
こういった言われなき差別を防ぐ最も有効な手立ては、そうです、「スマホにアプリをインストールしないこと」です。よって、”アベノアプリ” の存在を知らされても、「いや~、そんなアプリがあったとは知りませんでした。でも個人情報のことが心配ですね~」と、多くの方が状況を有耶無耶にするに違いありません。
上述したように、”アベノアプリ” は不特定多数を相手にする接客業のような職種の方は、これを積極的にインストールするものと思われますが、逆にそれ以外の方々はむしろこれを忌避するでしょう。
開発した動機やシステムの思想は重々理解しつつも、以上の意味において ”アベノアプリ” は日本社会では全く役に立たないアプリとして、”アベノマスク” と同様の経過を辿り、人々の記憶から消え去るでしょう。
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