『風の谷のナウシカ』~新型コロナ禍の中にあって観るべき映画!

コラム

この新型コロナウイルスの渦中に中にある僕たちにとって、それでも「コロナのお陰」とも言うべき唯一の利点があるとするならば、今日紹介するアニメ映画作品『風の谷のナウシカ』との「再会」など、まさにこれに該当する。

つまり、新型コロナのせいで映画業界も作品の製作が滞っていることもあり、新作の配給ができない状況になっている。そんな中で少しでも収益の確保のためにと考えだされた ”起死回生” の策が、今回のリバイバル上映なのだ。

この作品が封切られたのが1984年。
──36年ぶりに第一線に戻ってきたことになる。

しかし、筆者個人的な話をすれば、この作品はこれまでテレビを通じて何度も観てきた作品でもある。実際、『・・・ナウシカ』は、これまで18回にもわたって地上波で放送され、常に高い視聴率を得ている言わば ”キラーコンテンツ” だ。だから、ストーリーやカット割りなども熟知している作品であったとはいえ、よくよく考えてみると映画館で観たことは一度もなかったことに気づく。では、見るしかあるまい、ということで今回の運びになった。

筆者が『風の谷のナウシカ』を観たのは地元の「イオンシネマ 福島」である。7月13日の月曜日は平日のためか、168席ある中で7,8人の観客であった。

この作品であらためて感じるのは圧倒的なスケール感、立体感、そして疾走感である。スクリーンに映し出される地平は果てしなく広大で、崖から飛び立つときの奥行に息をのみ、風を切って飛行するナウシカの姿はまるで鳥のようだ。

どんなに大画面のTVであっても、この空気感を生み出すことは不可能だ。そして、人間を圧倒する腐海の森の神秘性と得体の知れない蟲(ムシ)たちがうごめく世界観は、日常性を敢えて分断し、集中力をフル活動させる映画館という現場でこそ大きく増幅され、眼前に映し出される。

さらに『風の谷のナウシカ』は、主人公ナウシカの慈愛に満ち溢れている。作品の中では何度も胸が熱くなり、涙がこぼれそうになった。これも非日常的な集中力のなせる賜物だと感じる。

同じ時期に『・・・ナウシカ』を観た映画監督の太田隆文氏は、「声を上げて泣きそうになった」と、赤裸々にナウシカへの想いを吐露している。そしてこれは筆者も同じ想いだ。

「風の谷のナウシカ」36年振りに映画館で観た。 ストーリーは覚えており、ほとんどの場面は記憶にあったのに、何度も涙が溢れた。腐海ではマスクをつけねばならない。腐海の毒が人の健康を蝕んで行く。これコロナと放射能じゃないか!大切なことを見失う人々。愚行を繰り返す無能な指導者たち。これも日本。でも、気づけば希望はある。と映画は締めくくられる。声を上げて泣きそうになった。

太田 隆文さんの投稿 2020年7月11日土曜日

そうなのだ。『風の谷のナウシカ』は、大スクリーンの環境下で本来の姿を発揮する稀有な作品なのだ。

そしてこの作品は、まさにコロナ禍の中にあってこそ観るべき作品だ。
作品の舞台設定は、旧人類が「火の7日間」と呼ばれる戦争により滅亡してから約1,000年後の世界となっている(核戦争による人類の滅亡を暗示)

この世界では「瘴気(しょうき)」と呼ばれる有毒ガスが充満する「腐海(ふかい)」が至るところに存在し、そこではガスマスクをしなければ人は5分ほどで肺がやられて死んでしまう。ナウシカは「風の谷」で500人ほどの仲間(国の住人)と、死と隣り合わせだが、それでも平和に暮らしている。

これは現在の新型コロナ禍の未来形とも言える構図かもしれない。あるいは、太田監督の言うところの「放射線」被害の構図でもある。しかし、少なくとも僕たちは、放射線についてはすっかり忘却の彼方に追いやることで、日々の生活を営んでしまっている。であれば、今こそ『・・・ナウシカ』を観てみるのは、とても意義深い試みだと思う。

新型コロナ禍にあって、僕たちはこれ以上ない至福の時を発見してしまった。

今後、コロナが終息すれば映画館も新作作品で一杯になるだろう。しかし、半分とは言わず、3分の1などは過去の名画などを上映する枠組みを設けてみてはどうだろう。そうするころで、その時代を背景にした新たな ”気づき” も生まれてくるかもしれない。今回の『・・・ナウシカ』がそうだったようにだ。これはシネコン形式の劇場であれば十分に可能なはずだし、文化の送り手の役目だと思う。

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