Introduction:正月気分を吹っ飛ばしたのが「カルロス・ゴーン逃亡劇」だとするならば、そのゴーンをさらに吹き飛ばしたのが「ソレイマニ殺害事件」でしょう。
実は、世界には極めて危険な発火点が「2か所」存在します。
1つ目は「北朝鮮」
そして、2つ目が紛れもない「イラン」なのです。
皆さん? 『第三次世界大戦』への準備は、もうお済みですか?
中東における第三次世界大戦とは、無論、核兵器を使った言わば「最終戦争」となるかもしれません。
アメリカとイランはもはや修復不可能
たとえば一九七九年のパーレビ国王の追放を例にとってみよう。ヘンリー・キッシンジャーが以前話してくれたのだが、もしもジミー・カーター政権が一九七〇年代末の国王に対する反乱にうまく対処していたなら、国王は革命を生き延び、イランは韓国のような国になっていたかもしれないという。つまり活力に満ちた政権を持ち、民主主義がまだ十分に発達しておらず、アメリカとの間に多少の意見の不一致はあるが、基本的には同盟国であるような国だ。
ロバート・D・カプラン『地政学の逆襲』(朝日新聞出版)
※太文字は筆者による
しかし現実には、イランが現在の韓国のような国になることはありませんでした。1979年の「イラン革命」においては、実権を掌握していたパーレビ国王が海外に逃亡。それに代わり権力を奪取したイスラム強硬派がパレスチナ問題の当事者、イスラエルを敵視するようになったと同時に、パーレビ体制の後ろ盾となり、石油利権を貪っていたアメリカもまたイラン国民の敵となりました。これが「イランアメリカ大使館人質事件」の呼び水となります。
現在のイランは、核合意をめぐる経済制裁もあり、経済成長率は2018年でマイナス1.5%、さらに2019年にはマイナス3.6%に落ち込むと予想されています。
それでも、イランには世界の確認石油埋蔵量の70%、天然ガス埋蔵量の40%が集中していると言われ、これらの天然資源のほぼ全てはペルシャ湾とカスピ海海域に眠っています。そして。ペルシャ湾、カスピ海の両エネルギー生産地にまたがる国は、実はイランだけなのです。
「エネルギーを制するものは世界を制する」との格言通り、極めて地政学的にも恵まれたイランは、国力の面ではトルコとイスラエルを除けば、中東で最も強力かつ最も細密に組織された国家です。
また、イランは「イラン革命」を経ても解体されることなく、政権は普通選挙を維持し、大統領制をも導入した「政教一致体制」を敷いています。
そんなイランに対し、これまでのアメリカの対イラン政策は、核合意に象徴されるように「完全に」間違っていると言えますし、今回のスレイマニ殺害事件により、傷口をさらに広げた格好になりました。
これでアメリカとイランとの関係は、完全に修復不可能となってしまったのです。
日本も既に戦争に参戦している!?
私に「第三次世界大戦が始まったね」とはじめに語ったのは、モサド(イスラエル諜報特務庁)のエフライム・ハレヴィ長官だった。2001年9月11日の米国同時多発テロ事件に関する評価についてイスラエルの専門家と意見交換するために同月9月末、テルアビブを訪れたときのことだ。
佐藤優、田原総一朗『第三次世界大戦 世界恐慌でこうなる』(アスコム)
(中略)
日本も米国の同盟国としてテロの戦いに参加している。つまり第三次世界大戦に参戦しているのだ。それにもかかわらず、日本の国会議員、官僚、マスメディア関係者も、「われわれが戦争に参加している」という現実を認識していない。
※太文字は筆者による
実際に日本が第三次世界大戦に参戦しているかは一旦脇に置くことにして、少なくとも日本は中国との戦争に突入していることは、当ニュースサイトでも取り上げてきました。
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日本と中国はプロパガンダを駆使した「情報戦」に突入しているわけですが、その意味においては北朝鮮とも、同じような情報戦を展開している言えましょう。また、上に紹介した佐藤優氏の言葉を借りれば、世界の中で戦争が始まるとしたら、つまり危険な ”発火点” としては2か所あり、1つ目が「北朝鮮」。そして、2つ目が紛れもない「イラン」なのです。
つまり、日本は「中国」「北朝鮮」と大きな問題を抱えており、そして、ご存知のように、現在アメリカもまた「中国」「北朝鮮」と大きな問題を抱えている。そして今回、これもかねてから問題を抱えていた「イラン」との間に、トランプ大統領は(”たがが” 大統領選での優位性のために)さらに傷口に塩を塗りつけるようなこと(=スレイマニ殺害)をやっているわけです。
これでタダで済むわけがありません。筆者が「第三次世界大戦の準備はお済みですか?」と、問いかけたくなる気持ちも分かっていただけると思います。
侵略と占領を基本とする古典的な帝国主義の代わりに、イランは「代理戦争、非対称な武器、そして・・・抑圧された民衆のとり込みという三面戦略」を通じて、中東の超大国になりあがったと、元CIA要員のロバート・ベアはいう。アラブ・シーア派として、レバノンでイラン政府の代理人を務めるヒズボラは、レバノンの「事実上の国家」であり、ベイルートの正式な政権よりも軍事力と組織力に優れ、地域社会への貢献も大きいと、ベアは指摘する。
ロバート・D・カプラン『地政学の逆襲』(朝日新聞出版)
核戦争の萌芽はとっくに芽生えている
アメリカのブッシュ大統領は2002年1月、一般教書演説で「イラン」「イラク」「北朝鮮」を ”悪の枢軸” として名指しで非難しましたが、このことはむしろ今になって大きな意味を持ったとも言えます。
北朝鮮とイランは1979年の「イラン革命」の時期に国交を樹立、以来北朝鮮は武器取引の仲介や、自国製武器の売買をするなど、両国の軍事協力関係もこの時点から始まったと言われています。
北朝鮮と言えば、核廃棄をめぐりまさにトランプ大統領と神経戦を展開している渦中にありますが、いかにして核兵器を手中に収めたのか、その経緯は若干複雑です。
2002年9月、当時の小泉政権により北朝鮮への電撃訪問が行われ、拉致被害者の一部が日本に帰国しましたが、これは同時にアメリカの対北朝鮮政策を大きく逸脱するものでもありました(そのため小泉首相はブッシュ大統領から大目玉を食らいました)
アメリカ側は翌10月にケリー国務次官補が訪朝し、ウランによる核開発が進行しているのではないかと問いただします。北朝鮮がこれを認めたため、アメリカは米朝合意に反すると判断、それまで行ってきた重油の提供を中止しました。そして、これに反発した北朝鮮はNPT(核拡散防止条約)からの脱退を表明すると共に、核開発をあからさまに推進した経緯があります。
ここで問題として指摘したいのは、何も北朝鮮の核開発に限ったことではありません。より大きな問題は、北朝鮮への核技術の流出についてです。
ここで浮上するのがパキスタンの科学者、アブドゥル・カディール・カーン博士。パキスタンの核実験を成功させた功績から「パキスタン核開発の父」といった異名を持ちますが、実際のところは核技術の地下ネットワークという核闇市場を構築し、パキスタン政府も関与する裏世界を取り仕切った人物です。
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そして、カーン博士の核闇市場により、パキスタンから北朝鮮へ高濃縮ウラン製造に必要な遠心分離機などが提供されていたことが今では明らかになっていますが、問題はそれだけに留まらず、核開発のための遠心分離機を提供する見返りとして、パキスタン政府は北朝鮮から弾道ミサイルの部品を受け取っていたということです。
イラク・ヒズボラは堕落したイスラム国家を射程に入れている
ここで忘れてはならない人物がもう一人存在します。その人物とは「ムハンディス司令官」
スレイマニ司令官と共にアメリカによって殺害されたイラク人の一人で、民兵組織イラク・ヒズボラ(ハシディ・シャビ)を統率し、スレイマニ司令官の右腕だった人物です。
このイラク・ヒズボラが二人の殺害事件に際し、どのような動きを見せたのかと言えば、在イラク・アメリカ大使館を「悪の大使館」に例え、イラクにあるアメリカ軍基地と司令本部を包囲すると宣言したわけです。さらに彼らは「その派生諸国」も標的にしていると述べ、具体的な国として「サウジアラビア」「バーレーン」「アラブ首長国連邦」を挙げました。
◆ 出典記事 ◆
『【イラク】 ハシディ・シャビが「イラクの米軍基地すべてを包囲する」と脅迫』
~2019.12.31 トルコ・ラジオ・テレビ協会オフィシャルサイト~
これは極めて重要なことです。
「サウジアラビア」「バーレーン」「アラブ首長国連邦」と言えば、敬虔なイスラム教徒からは ”堕落した” 連中と見られている国家群です。 ここには富める社会と貧しい社会といったように、明らかにイスラム社会の分断が垣間見られます。
つまり、2019年9月に起こった、サウジアラビアの石油施設への軍事用ドローン攻撃といった事態が再び起こるだろうということです。今回は、イラン・イラク共に反米感情が激しくエスカレーションしていることから、攻撃の規模はどれ程のものになるかは全く予想できません。
第三次世界大戦の発火点はサウジか!?
「アメリカ」「イラン」「イラク」「パキスタン」そして「北朝鮮」と、役者が揃ってきました。そして、役者としての最後の ”トリ” が「サウジアラビア」です。
上述したように、サウジアラビアが再度の軍事ドローン攻撃に晒され、その攻撃規模が全く予想だにできなかったとしたら、サウジとしてはどのように対処するでしょうか?
もしかしたら、サウジアラビアは「核廃棄」を調達するかもしれません。
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なぜならば、核保有国であるパキスタン最大のスポンサーがサウジアラビアであり、パキスタンとサウジアラビアとの間には密約とも言える取り交わしすら存在するとされているからです。
つまり、「イランが核兵器を保有することが確認されたら、可及速やかにパキスタン領内にある核弾頭のいくつかをサウジアラビア領内に移す」ということです。
国連のグテレス事務総長が声高に訴えるように、アメリカとイランの対立はまさに「今世紀最大の危機」を迎えようとしています。
人々の反米感情の高まりは日々エスカレーションの度合いを増し、イランのみならずイラクにも伝播しています。
イラン、イラク内のアメリカ軍施設への大規模な報復攻撃に始まり、それは次第に周辺諸国、サウジ、バーレーン・・・へと拡散してゆく。
ここでグテレス氏が警告する 「予期せぬ結果や誤算のリスクにつながるような行動をとる国が増えている」として、それがサウジであったとするならば、中東で核戦争が起きても不思議ではありません。
現在のところ、国連の安保理はまったくのところ足並みが揃っておりません。
国際社会においては「第三次世界大戦」へ発展するのではと危惧されている「米イラン危機」ですが、その発火点はサウジアラビアではないかと考えられます。
つまり、イランで戦争が起き、サウジアラビアにより「第三次世界大戦」へとエスカレーションする。そして、そこでは最悪なことに核兵器が使用されるだろうということです。
この悪い予感が不発になることを願っております。
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