Introduction:2018年3月7日。赤木俊夫さんは自ら命を絶ちました。『これが財務官僚王国 最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ、手がふるえる、怖い』
家族への遺書と財務省を告発する手記。そして、ノートに走り書きされたこの短い言葉が残されていました。
遺体の第一発見者である赤木俊夫さんの妻、雅子さんは、119番ではなく思わず「110番」に電話したといいます。
なぜなら、雅子さんにしてみれば、俊夫さんは「財務局に殺された」という思いが強かったからです。
文春砲が世に放った『私は真実が知りたい』
7月15日。手元に届いた1冊の本は、Amazon で事前予約していた『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』でした。
同時にこの日は、赤木雅子さんが起こした損害賠償訴訟の第1回口頭弁論が大阪地裁で開かれた日でもあります。
学校法人 森友学園への国有地売却をめぐる財務省の公文書改ざん問題で、改ざんを強制されたことを苦にし、近畿財務局職員であった赤木俊夫さん(当時54)は自ら命を絶ちました。
妻の雅子さんは今年の3月18日、赤木さんが自殺したのは公文書改ざんに加担させられたからだとして、国と当時の財務省理財局長であった佐川宣寿氏を相手取り、計1億1200万円の損害賠償を求め大阪地裁に提訴。しかし、昨今の新型コロナ禍により、5月に予定されていた1回目の口頭弁論は延期され、ここにきてやっと7月15日に日程が決まったのです。
この3月18日の赤木雅子さんの提訴については、水面下で歩調を合わせてきたメディアが一つあります。それが『週刊文春』です。
金曜日が春分の日で祝日になる関係で、発売日が1日前倒しの3月18日水曜日となった『週刊文春(3月26日号)』に掲載された、『森友自殺財務省職員 遺書全文公開「すべて佐川局長の支持です」』は、グラビア3ページ、本文12ページの総計15ページ建ての記事になりました。これほどの特集は過去にほとんど前例がありません。さすがにこの記事の社会にもたらした衝撃は計り知れず、この日発売の週刊文春は2年半ぶりに53万部の全てを完売したほどです。
この特集の何が衝撃的かと言えば、やはり自殺した赤木俊夫さんの遺書、手記の全てが掲載されていることに尽きます。これまで、森友問題をめぐる公文書改ざんで自殺した近畿財務局職員が、何かしらの手記を残しているらしいという噂がまことしやかに語られてきましたが、実際に現物が世に出ることはありませんでした。
手記は関係者の実名入りで財務省を告発しており、その内容は極めて詳細に綴られていました。このような手記が公開された意味は計り知れなく大きく、その後の損害賠償に繋がったことは上述の通りですが、合わせてインターネットの署名サイトでも、赤木俊夫さんの自殺に至った真相解明に賛同する署名が35万筆以上も寄せられたことにも、世間が大きな関心をもっていることを伺わせます。
以来、週刊文春は「森友学園」「赤木俊夫・雅子夫妻」をキーワードに立て続けに特殊記事を世に送り出し、3月26日号を初めに7月15日現在で8回にも及んでいます。
- 『森友自殺財務省職員 遺書全文公開「すべて佐川局長の支持です」』(3月26日号)
- 『森友財務省担当上司の「告白」「8億円値引きに問題がある」検察が握り潰した極秘ファイル』(4月2日号)
- 『森友自殺職員 赤木俊夫さん妻「全告白」安倍首相の姿を見ると身体中の血液が凍りつく』(4月9日号)
- 『「安倍首相答弁と改ざんは関係ある」財務省幹部音声入手 赤木さん妻「現場の悲鳴を聞いてほしい」』(4月16日号)
- 『「上司は全員、異例の出世」赤木さん妻に届いた「森友」内部告発文書』(4月23日号)
- 『赤木さん「義母」悲痛告白「両手に鉄砲持って財務省に乗り込もうと・・・」』(4月30日号)
- 『昭恵夫人「森友3ショット」見た 国有地担当者が口を開いた 赤木夫人の訪問を「どうぞ」と招き入れ・・・』(5月28日号)
- 『森友自殺職員妻に安倍昭恵夫人が「人を信じられない」赤木雅子さんのLINEに返信が!』(7月23日号)
これら8回の特集はすべて元NHKの記者で、現在は大阪日日新聞で編集委員を務める相澤冬樹氏の手によるもの。赤木俊夫さんが亡くなったのが2018年3月7日で、その約8か月後の11月27日に相澤氏は初めて赤木雅子さんと出会い、以来、赤木さんを陰になり日向になり支え続けてきました。
そして、その集大成とも言うべき書籍が、冒頭に紹介した『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(文藝春秋)なのです。この本は赤木雅子さんと相澤冬樹氏の共著という形式をとっており、前半第1章~第5章までが雅子さん視点で、残り第6章~第14章までが相澤氏視点で描かれています。
赤木雅子さんは具体的に何を知りたいのか?
森友問題について、土地取引や公文書改ざんに関わった財務官僚ら38人が大阪地検によって不起訴処分となり、検察審査会の「不起訴不当」の議決があったにも関わらず、大阪地検は改めて不起訴処分にするなど、この疑惑は一旦は終息したかのように見えました。
しかし、赤木雅子さんが国と佐川氏を相手に損害賠償を提訴したことで、この疑惑にあらためて注目が集まっています。その中で重要な役割を果たしたのが相澤冬樹氏です。
森友事案は、すべて本省の支持、本省が処理方針を決め、国会対応、検査院対応すべて本省の支持(無責任体質の組織)と本省による対応が社会問題を引き起こし、嘘に嘘を塗り重ねるという通常ではあり得ない対応を本省(佐川)は引き起こしたのです。
赤木俊夫さんの手記より
(中略)
いずれにしても、本省がすべて責任を負うべき事案ですが、最後は逃げて、近畿財務局の責任とするのでしょう。
怖い無責任な組織です。
もし、雅子さんが相澤氏と出会うことがなければ、森友問題に関与した財務省職員、そしてそれに連なる政治家と ”私人” らは今頃逃げ切っていた可能性が極めて高い。
事実、雅子さんは当初、手記を相澤氏に託し、自分は俊夫さんの後を追うつもりだったといいます。ところが、手記を目の前にあまりに興奮する相澤氏の様子を見て手記を託すのはやめ、同時に自殺するのもやめたという逸話が残っています。そのようなこともあり、相澤氏が実際に手記を手にしたのは最初の出会いから約1年後、2019年12月のことです。
それでも、結局はこのことが俊夫さんの手記公開となり、今回の損害賠償にも繋がってゆくわけですから、人生何が起こるのか分からないものです。
相澤冬樹という人物は、極めて優秀な記者であることに間違いはありません。冷静、冷徹に行動するものの、むしろ記者としての「魂」や「矜持」、そして「人情」が人一倍備わっている方とお見受けします。それでも、そんな性格が時として災いとなる場面も少なからずあるのではないでしょうか?
筆者は今年に入って、様々な場面で相澤氏による森友問題の記事、そして赤木俊夫・雅子さん夫妻の記事を目にしてきました。そこでは、赤木雅子さんに対する活動、すなわち損害賠償を通じ「真実を明らかにする」ことへの相澤氏の採用する戦略が、まさに世論を喚起し共感を得ようとする意志を感じずにはいられません。つまり、相澤氏は人々の「情」に訴えようとしています。
ただ、相澤氏の場合、得てして取材対象に肩入れするあまり、過度に感情的になったり ”お涙頂戴” 的になる場合もあると見受けられ、赤木雅子さんの場合はそれが顕著に表れていると思われます。そのため、雅子さんが起こした損害賠償においては、その主たる目的の輪郭が少しぼやけつつあるように思われるのです。これも ”女性と若い世代に動いて欲しい” といった彼の強い願いがあるからでしょう。
今回、赤木雅子さんは約1億1200万円といった高額の損害賠償を提訴しましたが、これは何もお金が欲しくて起こしたわけではありません。お金に関する理由は別の稿で触れるとして、雅子さんの主たる目的3つを、あらためてここで確認しておきたいと思います。
● 赤木俊夫さんが自殺した原因と経過を明らかにしたい。
● 佐川宣寿氏を初め財務省、近畿財務局の関係者に真実を話して欲しい。
● 安倍首相は自分の発言が改ざんに関係があることを認め、安倍昭恵さんは森友学園の国有地売却の関係を明らかにして欲しい。麻生財務相は真相解明に協力して欲しい。
赤木雅子さんの3つの目的については、次回以降の記事でさらに深掘りしたいと考えています。
ただ、非常に残念なことが一つあり、それは損害賠償についての次回の開廷が10月14日になるということです。これはあまりに長すぎる期間と言う他なく、明らかに政治的な思惑が絡んでいるとみて間違いないでしょう。
これに打ち勝つには相澤氏が考えているように、世間の関心や世論を喚起するしか手がありません。かつて黒川検事長の定年延長問題をめぐりハッシュタグ「#検察庁法改正案に抗議します」が盛り上がったように、赤木雅子さんを後押しする「何か」が必要となります。
それはまさに「笛美さん」が発信したように、「#赤木さんの再調査を求めます」というハッシュタグによるSNSの盛り上がりかもしれません。
いずれにしても、赤木雅子さんの長い闘いは始まったばかりです。
そしてこの闘いは、最高裁まで続くでしょう。
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