トランプ大統領、米中経済戦争でも支持率過去最高を記録

政治

Introduction:「遅すぎる。ダメだ!」 ――例によって、アメリカ・トランプ大統領はTwitterの投稿に余念がりません。そして、米中貿易交渉の進展に苛立ったトランプ氏は、5月5日に、次のような衝撃的な投稿をしました。

 「中国は2000億ドルに10%の関税を払ってきたが、この10%は金曜日(10日)に25%に跳ね上がる」

 続いて翌日には、「――中国には5000億ドル失っている。悪いが、もう続けられん!」と訴えたのです。
 
 このような経過を経て、トランプ政権は5月10日未明、2000億ドル相当の中国製品に課す関税を、10%から25%に引き上げる制裁措置を発動したわけです。

 この動きに対し、10連休明けの最初の取引となった東京株式市場は早速反応し、日経平均株価が約1.5%下落、終値は約1ヵ月ぶりに2万2千円を割り込みました。

 この後もトランプ大統領による関税引き上げの制裁は続くのですが、さすがにこれらの影響でニューヨーク市場は一時大幅下落を記録するなど、アメリカと中国はまさに「経済戦争」に真っ只中にあると言って差し支えないでしょう。

 しかし、ここで信じられないことが起きています。

 アメリカ国内外の経済にこれほどの動揺を与えているというのに、トランプ大統領の支持率は過去最高を記録しているというのです。これは一体どうしたことでしょう?

アメリカでは、毎日世論調査が行われている

 アメリカでは大手新聞社やテレビ局も世論調査を行いますが、ギャラップ社やラスムッセン社といった、世論調査会社の存在が広く知られています。

 特に、ラスムッセン社は、毎日アメリカ大統領の世論調査結果を自社のWebサイトで公表しており、調査結果についても高い評価を得ています。(”Daily Presidential Tracking Poll” https://bit.ly/2wiv84B ※トランプ大統領とオバマ前大統領の日々の支持率の推移を比較公表しています)

ラスムッセン社HP ”RASMUSSEN REPORTS”
http://www.rasmussenreports.com/

 「アメリカの敵」とまで揶揄されたトランプ大統領は、就任当時の支持率は30%後半の低空飛行を余儀なくされましたが、ここ最近で言えば5月2日に記録した「51%」を皮切りに、軒並み45%以上の支持率を叩き出しています。

 このトランプ大統領については、冒頭に紹介した「米中経済戦争」の他にも「米朝非核問題」や「イラン核合意問題」など、この記事内では到底整理しきれない程の問題が山積しているのですが、なぜゆえに高支持率を維持するに至ったのでしょうか?

トランプ大統領は経済政策について結果を出している

 日本でも暴言・放言政治家は数多くいますが、トランプ大統領の場合は次元が違うとしか言いようがありません。様々な国から、様々な属性の方々が、様々に批判を展開していますが、トランプ大統領はまるで意に介さないようで、むしろ皆がトランプ大統領が投稿するTwitterに戦々恐々としている有様です。

 確かに、トランプ政権の下では経済が好調と言うことができます。今年4月末の国内総生産(GDP)の伸び率が3.2%、5月末の予想伸び率は3.1%といったように、ここ最近では稀な高い数値を記録しています。(※”Investing.con” https://bit.ly/2YFtOER

 また、失業率についても、今年の5月時点で3.6%といったように、極めて低い水準で推移していますし(※”Investing.con” https://bit.ly/2ShbHT9 )、例えばダウ平均株価にしてもトランプ大統領が就任した2017年1月以降、全体としては堅調な伸びを示しています。( ※”Investing.con”  https://bit.ly/2VBoyAn

 アメリカと中国は、覇権をかけてしのぎを削っていることは誰もが知っていますが、軍事面はさておいたとしても、経済面で堅調なことは ”アメリカ・ファースト” を錦の御旗として掲げるトランプ大統領にとって、まさに結果を出したことに他ならないでしょう。
 また、これまでくすぶっていた「ロシア疑惑」に一旦区切りがついたことも、高支持率に貢献していると考えられます。

 それでも、今回のトランプ大統領の高支持率の本質的な要因は、やはり ”忘れられていたアメリカ人” の存在を抜きに考えられないと思うのです。

”忘れられていたアメリカ人” はトランプを支持してしまう

 アメリカ大統領選でのトランプ氏の勝因は、五大湖周辺のラストベルト(錆びついた工業地帯)で連勝したことが挙げられます。
 このような労働者の街は、かつては分厚いミドルクラス(中流階層)が消費と生産を支えていましたが、最近の構造的不況により生活が一変、今や多くのミドルが下流(あるいは貧困層)へと転落しかかっているのが現状です。

 これらのミドルクラスの多くは白人のブルーカラーの労働者。自動車工場、製鉄所、建設土木といった職種の担い手ですが、大切なのは、そんな彼らが失ったものは生活基盤となる「お金」だけではないということです。

 中流階級のアメリカ白人労働者が失った最も大切なもの。――それは「誇り」です。

 例えば、製鉄所。
 この仕事は体力や腕力がなければ、とても勤まるものではありません。溶鉱炉などは凄まじい熱風にさらされ、働くにはあまりに過酷な現場となります。

 それでも、労働者たちがつくった鉄が、世界が憧れる ”MADE IN USA” の自動車や電化製品に、さらにはニューヨーク摩天楼や各都市の橋となって姿を現すのです。彼らにはアメリカの屋台骨を支えている、そういった「誇り」に満ち溢れていました。

 しかし、そのような ”ドリーム” は今や過去の遺物となっています。しっかり働いてさえいれば、充実した企業年金や保険制度のお陰で、安泰な老後を過ごすこともできましたが、現在は低賃金の非正規雇用しか働き口がなく、生活はジリ貧です。

 それでも、”したり顔” で労働者の権利や雇用について、聞こえの良い主張を諭したり、割高な「オバマケア」なる医療保険制度を押し付けてくるオバマやヒラリーの ”上から目線” を労働省は大嫌いなのです。

 また、2015年11月にウォールストリート・ジャーナル誌に衝撃的な論文が発表されました。
 アメリカの白人男性の死亡率が上昇しているというものでした。他の先進国、また米国内の他の人種や年齢層では医療の進歩のお陰で死亡率は下がっているのに、米国白人の中年(45~54歳)だけは死亡率は高まっているのです。死亡の原因は自殺や薬物中毒に起因するものでした。

 そんな時に登場したのがトランプです。トランプは彼ら労働者に対して何と言ったのか?

「かつて連勝していたアメリカは負けてばかりだ!」
「中国との貿易はどうなった? 日本を相手に何かで勝てたか?」
「中国人やメキシコ人が我々の仕事を奪っている! 私が仕事を中国やメキシコ、日本から仕事を取り戻してやる!」

 冷静に考えればトランプ氏がブルーカラーのための大統領になれるはずもないのですが、彼を支持する労働者たちはそう思わないようです。

 トランプ氏は金もあれば豪邸もあり、美しい妻がいる。自家用ジェットだってそれは見事なものだ。高卒の白人アメリカ労働者がどんなに逆立ちしても比べようもない、文字通り彼らが忌み嫌う ”エスタブリッシュメント” の典型のはずなのに、彼らはトランプ氏が愛国心から大統領を引き受けたものと信じているのです。

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 彼らとの会話を振り返ると、日々の暮らしのために必死に働いている人、働いてきた人が多いことに気付く。
 記者の取材を受けるのは初めてという人ばかり。彼らから見れば、私は海外メディアに過ぎない。それでも「オレに意見を求めてくれるのか」「長く話を聞いてくれてありがとう」と喜んでくれた。しばらくして、わかった。自分の声など誰も聞いていない。自分の暮らしぶりに誰も関心がない。あきらめに近い思いを持っている人たちが多かった。

金成隆一『ルポ トランプ王国 ――もう一つのアメリカを行く』(岩波新書)

 私たちがイメージするアメリカとは、西海岸や東海岸の政治エリートだったり富豪だったり、あるいは人気のスポーツ選手、いわば有名人ですが、そのようなアメリカ人はごく少数に過ぎません。

 大部分のアメリカ人はさしたる経歴もなく、その日その日を懸命に生きている無名の存在。そして彼らにスポットライトが当たることなど、一生に一度もありません。

 そのような中でトランプはやって来ました。無名の彼らのもとにやって来た。そして、彼は ”強いアメリカ” 、”アメリカ・ファースト” を訴えたのです。

 そうです、この強いアメリカこそが、強い「無名の労働者」なのです。
 トランプを支持する無名の労働者は意識的・無意識的に関わらず ”強いオレたち” の復権をトランプ大統領に重ね合わせているのです。ここにトランプ大統領の高支持率の本質が隠れています。

 無名の労働者が存在する限り、トランプ大統領の高支持率は維持されるでしょう。もちろん、二選も夢ではありません。

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