Introduction:2020年に開催が予定されている東京オリンピックについて、5月25日の朝日新聞に仰天記事が掲載されました。
なんと、競技会場で撮影した動画については、ネットに投稿することが禁止されるというのです。しかも、自撮りですら認められないという徹底ぶりです。
2020年と言えばオリンピックを始め、スマホの通信規格が「4G → 5G」になることも見逃せません。これにより、通信速度は現在の4Gの100倍、その他にも「大容量」「低遅延」「低コスト」「省電力」「多接続」と言ったように、誰がどう考えても『動画の時代』の到来となることは必定なわけです。
そのような中で、令和という新時代の変化に逆行するような日本の停滞ぶりはどうです?
オリンピックを主宰する側の見識の無さには呆れるばかりです。
誰が動画投稿を禁止したのか?
ちなみに、動画でなく写真については、インスタグラムなどへの投稿は認められるようです。
そうであるにしても、動画投稿の禁止は一体誰が言い出したのか?
朝日新聞では、禁止規定を定めた「東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会」の五十嵐敦・法務部長のコメントを紹介しています。
五十嵐氏の説明によれば、放送権者(テレビ局など)の利益を守るためだと言います。そのために、著作権を含む一切の権利をIOC(国際オリンピック委員会)に移転し、動画投稿があった場合はIOCがネット事業者に削除の要請ができるようにしたと言うのです。
そして、ここが重要なのですが、選手が映っている動画はもちろん、選手が映っていない動画(例えば、応援の様子など)、自撮りした動画も含め投稿が禁止されるというのですから、驚くほかありますまい。
なぜ動画投稿が禁止なのか?
例えば、サッカーの試合などを最初から最後まで動画に撮影し、それをインターネットに投稿した場合、それは確かにテレビ局の放映権を侵害しているとのそしりは免れないでしょう。このことは納得できます。
しかし、なぜ、わずか数十秒の試合の模様や、会場の応援風景、あるいは自分の自撮りさえも(これも時間にしてたかだか数十秒だろう)禁止されねばならないのでしょうか?
五十嵐氏によれば、「競技だけが五輪じゃない。会場内はすべてIOCが権利を保有するという大前提がある」からだそうです。IOCって、いったい何様なのでしょうか?
これって ”言葉狩り” ですか?
自撮り動画の投稿すら禁止にする措置は、明らかに国際的なコンセンサスである、個人の表現の自由の侵害なのですが、実は、東京オリンピックにおける禁止事項はこれだけに留まりません。
言葉やキャッチフレーズにも厳しい制限が設けられています。
「東京2020」「聖火」そして「オリンピック」といった言葉まで、使用に制限があります。詳細は下記の一覧を参照してください。
オリンピックが開催されると、海賊版グッズを扱う闇業者が必ず現れます。
例えば、東京オリンピックでは「東京2020 Tシャツ」や、大会マスコットの「ミライトワ」「ソメイティ」を形どったバッチなどを、彼らは売りさばくことでしょう。
そういった闇業者に縛りをかけるため、言葉やキャッチフレーズにも制限をかけているわけですが、このことは私たちにも十分理解できることです。
しかし、問題はそれだけに留まりません。
例えば、街のラーメン屋さんが、オリンピックを盛り上げるキャンペーンの一環として「東京オリンピック・らーめん」を売るのはNGだし、スイーツのお店が「オリンピアン・ケーキ」や「聖火饅頭」を売るのもNGとなります。
そして、さらに厄介なのが ”アンブッシュ・マーケティング” です。
”アンブッシュ・マーケティング” とは
アンブッシュ・マーケティングについては、大会組織委員会の「大会ブランド保護基準」に次のような記載があります。
アンブッシュ・マーケティングとは、故意であるか否かを問わず、団体や個人が、権利者である IOC や IPC、組織委員会の許諾無しにオリンピック・パラリンピックに関する知的財産を使用したり、オリンピック・パラリンピックのイメージを流用することを指します。オリンピック・パラリンピックムーブメントに公式に関与するように見せかけ、そのことによりマーケティングパー トナーの合法的なマーケティング活動を妨害し、かつオリンピック・パラリンピックのブランドを損なわせることになります。
これだと分かりにくいので、具体例を上げましょう。
例えば、街の商店街などでよく見られる ”のぼり旗” です。
この ”のぼり旗” がNGだというのです(使用にはお金が掛かります)
のぼり旗はまだマシな方で、例えば店をオリンピック会場の近くにオープンした場合や、店にオリンピック選手がゲストとしてやって来る場合、それをPR誌などで告知することはNGとなります。
また、オリンピックを想起するような言葉遣いもできないというのですから、一体私たちはどうすればいいのでしょうか?
罰則規定はあるのか?
東京オリンピックの商標や言葉の使用については、極めてタイトであることが分かりました。
では、これらを破った場合、罰則規定はあるのでしょうか? ――これが用意されているのです。
オリンピックやパラリンピックに関する知的財産やイメージについては、「商標法」「不正競争防止法」「著作憲法」によって保護されており、これに違反した場合は、刑罰が課せられます。
商標法について
【商標権侵害の禁止】
指定の商品について、同一だったり似ている商品を無断で使用することは商標権の侵害となり、侵害の差止請求や損害賠償請求の対象となります。
【刑事罰】(第78条、第78条の2)
商標権を侵害した者は、10 年以下の懲役もしくは 1,000 万円以下の罰金に 処し、またはこれを併科する 。
また、商標権を侵 害するとみなされる行為を行った者は、5 年以下の懲役もしくは 500 万円 以下の罰金に処し、またはこれを併科する。
不正競争防止法 について
【国際機関の標章の商業上の使用禁止】
IOC や IPC は、国際機関として認定されており、オリンピックシンボルは、 国際機関を表示する標章として、IOC の許可なく使用することはできません。
【刑事罰】(第21条 第2項 第7号)
5 年以下の懲役もしくは 500 万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する。
【周知ないし著名な商品等表示】
他人の商品表示(氏名、商号、商標)として周知されているものを、他人と商品と混同させるような行為や、他人の著名な商品表示を使用する行為は不正競争に該当し、侵害の差止請求や損害賠償請求の対象となります。
【刑事罰】(第21条 第2項 第1号、第2号)
5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する。
著作権法について
【著作権侵害行為の禁止】
他人が著作権を有する著作物(大会マスコットなど)を、著作権者の許可なく使用する行為は著作権侵害行為に該当し、 侵害の差止請求や損害賠償請求の対象となります。
【刑事罰】(第119条 第1項)
著作権を侵害した者は、10 年以下の懲役もしくは 1,000 万円以下の罰金に処し、またはこれを併科する。
まとめ
ここまで見てきた印象としては、なんとも息苦しい東京オリンピックだということです。特に動画の自撮りの投稿などは、昨今のYouTubeの興隆を見るまでもなく、規制など不可能ではないでしょうか。
この規制の根拠となっているのが、大会組織委員会が作成した「大会ブランド保護基準」ですが、そこには次のようなことが書かれています。
オリンピック・パラリンピックに関する大会エンブレムや大会名称をはじめ とする知的財産は、IOC および IPC の独占的な所有物であり、東京 2020 大会 に向けて、日本国内では組織委員会がその管理を任されています。
この文言を読むと ”日本人あるある” に満ち溢れているのが分かります。
つまり、大会組織委員会は親玉の国際オリンピック委員会(IOC)という巨大国際組織や、金を出してくれる多くの協賛企業の ”利益” を忖度するあまり、今回のような非現実的で前時代的な規制を打ち出したものと思われます。
オリンピックとは本来、世界中の市民に対して開かれているものと認識していますが、どうやら日本の大会組織委員会は「上」の方しか目が向いていないようです。
もっとも、これは日本社会のあらゆる場面で目撃されることでもあります。
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