Introduction:8月28日の安倍首相による電撃辞任表明について、持病の「潰瘍性大腸炎」が主な理由とされていますが、それは本当でしょうか?
なにも持病の話は「嘘」だと言うつもりはありません。ただ、持病の悪化はあくまで副次的ものではないかと推測できるのです。
実は、安倍首相は政権運営に行き詰まり、何もかも嫌になって政権を投げ出したのではないか?
そして、このことは2007年に起きた突然の政権投げ出しと、状況や構図は全く同じではないかと考えられるのです。
結局、安倍首相は2度も政権を投げ出した、憲政史上最悪の無責任な首相だったのかもしれません。
2007年9月12日の政権投げ出しを振り返る
8月29日のTBSラジオ『蓮見孝之 まとめて!土曜日』のレギュラーコーナー「大宅映子の辛口コラム」に出演した評論家の大宅映子氏は、今回の安倍首相の辞任表明に際して興味深い発言をしています。
『皆さんは1回目の時も病気で辞めたと言ってますが、辞めた時は病気の話はしていないんです──』
確かに、安倍首相が2007年9月に第一次政権を突然投げ出したのは、持病の「潰瘍性大腸炎」の腹痛によるものだという話が広く世間に流布されています。
そして、今回も同様に持病による体調悪化が原因で首相を辞めざるを得なくなったのだと、皆がそう思っています。
しかし、大宅氏の話を聞くと「おや?」と思ってしまいます。2007年の辞任当時は持病や病気の話はしていなかったと言うのですから──
早速当時の資料を探したところ、YouTube の「HISTORY CHANNEL」に当時の動画が投稿されていることが分かりました(※HISTORY CHANNEL『【HD】安倍総理 辞任表明会見 – Prime Minister Abe says he wants to resign』)
2007年の辞任記者会見では持病の話など一切出なかった!
2007年9月12日。当時の安倍首相による突然の辞任表明に際しては、約20分にわたって記者会見が行われました。
冒頭の「6分30秒」が安倍首相による演説で、残りの時間が記者を交えた質疑応答に割り当てられています。
そして、動画の全体を確認してみたところ、大宅氏が指摘するように持病や病気のことなど安倍首相は一言も触れていないし、記者からもそのような質問は出ていないことが分かったのです。
記者会見冒頭の「6分30秒」の中で、安倍首相が語った首相を辞任するに至った原因を要約すれば、次の通りとなります。
【安倍首相】 ・7月29日の参院選は極めて厳しい結果になってしまった。 ・小沢一郎に党首会談を申し入れたが、民意を受けていないと批判され断られてしまった。 ・新たな総理の下で、テロとの戦いの局面を転換し継続してゆくべきと考えた。国連総会にも局面を変えるために、新たな総理が出席すべきであると考えた。 ・内閣改造を行ったが、国民の支持や信頼の上に政策を進めてゆくことが困難な状況になった。よって自らけじめをつけて(辞めて)局面を打開しなくてはならないと判断した。 |
2007年7月29日に投開票された参院選では、自民党は37議席しか獲得できず歴史的な大敗を喫したことから、参院第一党の座を民主党に譲ってしまいます。これは1955年の結党以来、初めてのことでした。ちなみに、当時の民主党の党首は小沢一郎氏。
このような事が起こった後の9月10日。安倍首相は臨時国会で所信表明演説を行い、あくまでも続投する意向を示していました。
しかし、2日後の9月12日になって突然安倍首相は辞意を表明し、上述の辞任記者会見となったわけです。
政権運営に完全に行き詰まり政権を投げ出した!
そして、あらためて辞任会見の安倍首相の言葉を見てみると、選挙に大敗し ”ねじれ国会” を生じさせたことで野党民主党にイニシアティブを握られてしまっていたことが想像できます。
国際的にはテロとの戦い(テロ対策特別措置法に基づく海上自衛隊のインド洋での給油活動)で右往左往していたことが分かり、さらに国内では度重なる閣僚の不祥事や「消えた年金問題」などもあり、すっかり国民の信頼を失っていた様が読み取れます。
つまり「外交」「内政」「国民の信頼」全てにおいて、安倍政権は完全に行き詰まっていたということ。これは「局面」という言葉が頻繁に登場することからも、安倍首相が八方塞がりに陥っていたことが容易に想像できます。
当時の安倍首相の表情は、潰瘍性大腸炎で肉体的に苦しんでいるというよりは、精神的に疲弊し「鬱病」であるかのように見えてしまいます。
つまり、安倍首相は持病の悪化ではなく、政権運営に行き詰まり ”何もかも嫌になって” 政権を投げ出したと考えられます。
安倍首相が入院したのは翌日のことです(東京・慶応大学病院)
そして、医師も同行した取って付けたような記者会見を慶応大学病院の中で開催し、自身の体調について説明したのが9月24日のことです。
なにも持病の話は「嘘」だと言うつもりはありません。ただ、持病の悪化はあくまで副次的ものではないかと推測できるのです。
2020年の電撃辞任も構図は2007年と同じ!
2020年8月28日、安倍首相が電撃的に辞任を表明したわけですが、そう考えてみると、今回の構図は2007年当時とあまり変わらないように思われます。
「新型コロナウイルス」の第2波は若干収束しつつあるように見えますが、依然として予断を許さない状況であることは間違いなく、「東京オリンピック・パラリンピック」についても来年開催は現状からすれば不可能でしょう。しかも、来年開催という ”賭け” に出たのは他ならぬ安倍首相自身です。
また、肝心の「経済対策」にしても、アベノミクスの効果は文字通り吹っ飛んでしまい、第二次安倍政権発足当時の経済規模に逆戻りしてしまいました。「GDP 年27.8%減」の報道はまだ記憶に新しいところです。
さらに、新型コロナの影響で外交どころではなく、その外交とて「拉致問題」や「北方領土問題」は成果ゼロが確定しています。
そんな状況の中、安倍首相は「何をやっても批判される」と周囲にこぼすようになりました。
つまり、「外交」「内政」「国民の信頼」全てにおいて、2007年同様に安倍政権は完全に行き詰まっていたのです。
それでも、「急に辞めるのだけは避けたい。また『投げ出し』と言われるぐらいなら、死んだ方がマシだ」とも安倍首相が語っていたことが分かっています。
それが官邸官僚を使った関係省庁への ”コロナ対策新パッケージ策定” の要請となり、国民から ”政権投げ出し” 批判が起こらないよう事前の策を打っておくことの布石としました。
また、一国の首相の健康状態は通常は隠しておくべきものであるはずが、あえて慶応大学病院へと向かう首相の車列を報道させ、少しづつ国民の中に首相の健康状態が悪いことを浸透させ、体調不良ならば辞任しても仕方ないといった空気を蔓延させておくことにしました。
筆者は、『週刊FLASH』に「首相が吐血した」といった情報をリークしたのは、実は官邸サイドだと疑っています。そうした観測気球を上げることで国民の反応を見ていたわけです。
安倍首相の容体はどれほどのものか?
そして、8月28日で記者会見で安倍首相は──
「潰瘍性大腸炎が再発したが、7月以降にコロナの感染拡大が減少に転じた。冬に向けて実施すべき対策を取りまとめた。新体制に移行するにはこのタイミングしかない」と宣言。国民の批判を免れて辞任することに成功しました。
しかし、本質的は2007年同様、安倍首相は持病の悪化ではなく、政権運営に行き詰まり ”何もかも嫌になって” 政権を投げ出したと考えられます。
なにも持病の話は「嘘」だと言うつもりはありません。ただ、持病の悪化はあくまで副次的ものではないかと推測できるのです。
というのも、28日の記者会見の中、記者からの「今後の政治との関わり方」の質問に対し、安倍首相は次のように答えているからです。
【安倍首相】 今後についてでございますが、何とか体調を回復する中において、一議員として活動を続けていきたい。その中で様々な政策課題の実現に微力を尽くしていきたいと思いますし、次なる政権に対しても、協力、当然のことなのですが、一議員として協力していきたい、支えていきたいと思います。 |
出典:首相官邸
首相官邸のHPを見ると、記者の質問に対し「協力」という言葉が2回登場しているのが分かります。しかし、公開されている動画を見ると2回とも「協力」ではなく「影響力」と言っているのです。実は、ここに安倍首相の本音が隠されています。
安倍首相は首相を続けられなくなるほど持病が悪化したにも関わらず、なぜ、暫定政権を置かずに後継が決まるまで首相であり続けるのか?
なぜ、議員は辞任しないのか?(一議員であれば楽に仕事ができるのか?)
すぐに入院しなくとも大丈夫なのか?
──等々、疑問は尽きないのが正直なところです。
つまり、安倍首相は首相を辞任した後でも次の政権に対し「影響力」を行使し、一議員であっても「影響力」は温存しておきたい。つまり「キングメーカー」を目指すと、つい口を滑らしてしまったのです。
安倍首相は自民党の稲田朋美・幹事長代行に対し「余力を残して辞任するのが一番だ」と語ったとか──今回の辞任に際しての「潰瘍性大腸炎」の再発・悪化というのは副次的なもので、実際はさほど深刻ではないとする所以もここにあります。
実際のところは、安倍首相は政権運営に行き詰まり ”何もかも嫌になって” また再び政権を投げ出したのです。
◆ 出典記事 ◆
『「余力残した辞任が一番」と首相 自民・稲田氏が番組で明かす』
~2020年8月29日 東京新聞 TOKYO Web~
そう考えると、安倍首相は2度も政権を投げ出した、憲政史上最悪の無責任な首相だったのかもしれません。
次の首相が誰になるのか、今のところ分かりません。
今言えることは、秋から冬にかけて再び新型コロナが蔓延し、東京オリンピック・パラリンピックの中止が決まるということになれば、その時の首相は極めて重い荷を背負うことになるでしょう。
経済対策を含め、安倍首相が投げ出した忘れ形見は、あまりにも大きすぎます。
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