アフターG20 日本の戦略地図を語ろう

政治


日本の戦略

Introduction:安倍首相は、アメリカのトランプ大統領と3ヶ月連続で日米首脳会談を行い、二人は蜜月関係にあると報じられています。

その中で安倍首相は「日米同盟の深化」を強調していますが、考えてみれば第1次政権時のブッシュ大統領に対しても、その後のオバマ大統領に対しても日米同盟をダシにアメリカの気を引こうとしているわけです。

安倍首相がトランプ大統領の ”太鼓持ち” に成り下がり、日米が植民地と宗主国の関係のようになるほど日米同盟は深化しているわけですから、これ以上の深化など日本国民の誰も望んではいません。

むしろ安倍首相にはトランプ大統領の足元を見るぐらいの戦略・頭脳・気概が必要です。

トランプ大統領は日米同盟に対し、不満すら口にしているわけですから・・・

記者団を自ら締め出す安倍首相

「退出願います。サンキュー!」。公開となった会談の冒頭、トランプ氏に質問を始めた記者を遮ったのは日本の外務省職員だった。口を開きかけたトランプ氏をよそに首相も手を振り、記者団の退出を促した。

4月の首相訪米、5月のトランプ氏来日から今回へと続いた会談を「強固な日米関係」を内外に印象づける機会と位置づけていた日本政府。そのイメージに水を差す発言がトランプ氏から飛び出すのを避けたいのが本音だった。トランプ氏はサミット直前、米国に日本の防衛義務を規定した日米安全保障条約の「片務性」を指摘しており、日本側も敏感になっているとみられる。
~2019.06.29 毎日新聞朝刊『「安保見直し」神経戦』~

29日の毎日新聞の記事は、安倍首相のアメリカへの卑屈さを「これでもか!」と知らしめる意味において、極めて衝撃的です。

《首相も手を振り、記者団の退出を促した。》とは、 して欲しくない質問に対し、首相自ら記者に対し「あっちに行け!シッシ!」とやりましたと、いうことです。これでは北朝鮮と何ら変わりません。

TPP離脱はアメリカ自ら招いた失敗

2018年末に発効したTPP(環太平洋パートナーシップ協定)では、参加国の関税が引き下げられたことにより、TPPを離脱したアメリカは農産物の日本への輸出で相対的にダメージを受けている、というのは全くのところ報道されている通りです。

これは、常にオバマ前大統領の逆張り政策を進めるトランプ大統領自ら招いた失敗です。トランプ氏は、大統領就任早々にしてTPP離脱したのは記憶に新しいところです。

そもそもTPPとは、関税を撤廃するという意味において、自由貿易の象徴であるかのように思われがちですが、実はブロック経済圏の構築にこそ本質があります。

つまり、「日本・アメリカ」「オーストラリア・アメリカ」「ニュージーランド・アメリカ」といったように、各軍事同盟をセットにし、台頭する中国に対する防波堤にする構想が根底にあるわけです。

よって、「アメリカ・ファースト」を旨とするトランプ大統領が、間髪入れずにTPPを離脱したことには大いに違和感がありました。米中経済戦争を遂行している現在において、もしアメリカがTPPをリードしていれば、中国に対する対抗措置はもっと違ったものになったであろうことは疑う余地がないように思われます。

安倍首相は中国を利用した戦略を構想すべき

次々と繰り出される経済制裁の波状攻撃に、まるで中国がアメリカに押されっぱなしであるかのように報道されていますが、トランプ大統領の対中経済政策は当初から方向性を見失っていた可能性もあり、実質的には五分五分の勝負となるかもしれません。

このような状況下では、中国がG20で日本に接近していることもあり、日本としては中国を「利用」した国家戦略を本来は考えるべきです。そうすることで、アメリカに対し無様なまでに卑屈になることも必要なくなります。

ちなみに、冒頭に紹介した同じ毎日新聞が、2014年10月16日にこれも興味深い記事を掲載しています。

沖縄県・尖閣諸島をめぐる問題について、日中双方の立場を確認したうえで、両政府間の話し合いで解決するとの案を中国側に提示し、調整に入っていることが明らかになった。
~2014.10.16 毎日新聞(mainichi.jp)「尖閣問題:「時間かけ対話」…打開案、首相提示で調整」~

一見、さらりと書かれた記事ですが、この意味すところは深く、つまり尖閣諸島問題は既に ”棚上げ” になっていると読み取ることが可能です。

ハンチントンが語る21世紀の日本

国際政治学者のサミュエル・ハンチントンは、2000年の初頭に日本で出版された『文明の衝突と21世紀の日本』(集英社新書)のなかで、日本と中国の関係について触れています。

つまり、日本は台頭する中国に対して「バランシング」「バンドワゴニング」の戦略をめぐり分断されると彼は主張しています。

「バランシング」とは自国のみ、あるいは他国と強調し、新興勢力に対し勢力の均衡を維持し自己の安全を守り、新興勢力の力を封じ込め、必要とあれば相手を打ち負かすための戦争をも厭わない戦略。

「バンドワゴニング」とは新興勢力に順応し、新興勢力にとって二次的、従属的立場をとり、自国の利害が守られることを期待する戦略。

アメリカを初めとする欧米諸国の基本戦略が「バランシング」であることは間違いありませんが、では日本はどうかと言えば、ハンチントン氏の言葉を借りるまでもなく「バンドワゴニング」であることは明白で、実際に彼もそのように指摘しています。

また、ハンチントン氏によれば、中国との勢力均衡を維持するための核となるのは「日米同盟」しか有り得ないといいます。
ただ、この日米同盟活用論にも ”但し書き” が付帯しています。

  1. アメリカが世界唯一の超大国でありつづけ、世界に対して指導力を発揮し続けられるか?
  2. アジアにおけるプレゼンスを広げようとする中国に対し、アメリカは闘うことを日本に確約できるか?
  3. 莫大な資源の浪費と、戦争という多大な犠牲なしにアメリカと日本は中国を封じ込めることができるか?

この3点に日本が自信を持つことができれば、以後の世界観は大きく様変わりしてくるはずだ、と。

《一九三〇年代と四〇年代に、日本は東アジアを征服するという一方的な政策を追求して、破滅的な結果を招いたが、この時代をのぞいては日本は歴史的にも、自国が適切と考える強国と同盟して安全を護ってきた。

一九三〇年代に枢軸に参加したときでさえ、日本は当時の世界政治のなかで最も強力な軍事志向をもつ勢力と考えた相手と手を結んだのである。

二十世紀の初めに日英同盟を結んだが、当時の世界情勢のなかでイギリスが指導的国家だということをよく認識していたのである。》
~サミュエル・ハンチントン『文明の衝突と21世紀の日本』(集英社新書)~


しかし、アメリカは明確な決意も公約も明示していないし、実際問題その可能性も低いことから、日本は結局のところ中国に順応する(バンドワゴニング)戦略と取らざるを得ないと、ハンチントン氏は判断しているわけです。

そして、そのようなバンドワゴニングの倒錯した形態として、安倍首相に見られるような卑屈な対米従属が生み出されているのだと考えられるのです。

安倍首相の真逆の対米戦略を実行している

しかし、ここまできたら日本が本来採用すべき戦略は明白です。言うまでもなく「バランシング」です。
安倍首相の決定的な誤りはここにあります。基本的に安倍首相は戦略思考ができないようです。

今回のG20では、これまでとは違って中国の外交筋は軟化の兆候を見せていると言われています。安倍首相は来春(桜の花が咲く頃に)に習近平を国賓として招待することを中国側に提案しましたが、さらに一歩、二歩踏み出した施策が必要でしょう。

日本に自律的な外交をさせないことは、共和党・民主党を問わず、アメリカの対日戦略の要の一つとなっていますので、日中が戦略的に連携することをアメリカは最も嫌うからです。

現在のトランプ大統領は、一も二にも次の大統領選しか考えていません。だから、日米同盟に疑問を投げかけることで選挙戦に有利な果実をもぎ取りにきていますが、日本の戦略次第では「日本はSONYのテレビでアメリカの戦争を見ていられる・・・云々」といった軽率な発言はできないし、日米同盟の破棄に言及はできなくなります。

一点、気になることがあるとするならば、約30年前にトランプ氏が私財10万ドルを投じて出した意見広告でしょうか。
なぜ、日本やサウジアラビアの防衛のために金を使うのか?という意味を込めて、そこにはこう記されていたそうです。

「われわれの偉大な国を、これ以上笑いものにさせてはならない」

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