Introduction:2049年は中国が建国100周年となる節目の年です。
習近平・国家主席は、この2049年までに中国が世界の頂点に君臨することで 経済、政治、軍事においてアメリカを追い抜く超大国となり、自国の価値観や思想に基づく国際秩序と覇権を確立する(「100年マラソン」戦略)、――すなわち、世界の「ルールメーカー」になると宣言しています。
これまで世界のルールを決めてきたのは、紛れもない「アメリカ合衆国」です。
アメリカ一国で世界の軍事費の半分近くを占め、”世界の警察” を標榜してきたアメリカが自国の国益に適うよう、世界のルールを策定してきたのです。
しかし、習近平は「今後、世界ルールは中国がつくる。世界は中国の都合に合わせろ」と宣言しました。
そんな中国に押され、アメリカは後退するしかないのでしょうか?
アメリカと中国は、そして日本は一体どこへ向かうのでしょうか?
米中30年戦争が始まる!
朝日新聞の元主筆、船橋洋一氏は現在、シンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ」の理事長を務めていますが、「英語」で世界情勢を発信することができ、それが世界水準として評価されるのは、日本では実は船橋氏ぐらいしかいない、といった話を筆者は耳にしたことがあります。
そんな船橋氏が『サンデー毎日 9.29号』の記事「米中激突 戦略なき日本の処方箋」の中で、極めて興味深い発言をしています。
すなわち、「米中関係については30年戦争になる」と断言しているのです。
既にアメリカの外交誌『ナショナル・インタレスト』は、2017年に中国の海軍力をロシアを上回る世界第2位と評価しています。
また、同じ2017年5月に北京で開催された「一帯一路国際協力サミットフォーラム」には130カ国から代表が集まり、同年6月には中国が主導するAIIB(アジアインフラ投資銀行)が、アメリカ大手格付け会社ムーディーズ・インベスターーズ・サービスから最上級の「Aaa」の格付けを与えられました。
中国に宣戦布告したアメリカ
中国は確実に実力をつけ、国力においてアメリカに最接近している昨今ですが、これに対しアメリカも黙っているわけではありません。
2018年10月4日、アメリカ・ペンス副大統領によるワシントンでの演説こそが、膨張する中国への「宣戦布告」だったと言われています。
この演説でペンス副大統領は「貿易など経済に限らず、安全保障分野でも中国に断固として立ち向かう」と述べました。
ペンス副大統領に言わせえば、「中国はプロパガンダを通じてアメリカに影響力を行使しており、アメリカの知的財産を盗もうとしている。中国の安全保障に関わる機関が窃盗の ”黒幕” である」とのこと。
約40分にも及ぶ演説の中で、その他にも中国の人権侵害問題、南シナ海問題、宗教問題、中国企業の問題といったように、広い分野にわたり徹底的に中国を糾弾したわけです。
なるほど、これでは実際の戦闘を伴う戦争にはならないにせよ、冷戦の始まりと思われても仕方なく、上記の船橋氏が指摘する「30年戦争(という ”新冷戦”)」が一定の説得力を持つと思われます。
時代が変わっても冷戦の構造は変わらない
「冷戦」と呼ばれたアメリカを中心とする資本主義・自由主義陣営と、旧ソ連を中心とした共産主義・社会主義陣営の対立は、1945年から1989年までの実に「44年間」続きました。
旧ソ連は、アメリカ主導で構成された北大西洋条約機構(NATO)に対抗すべくワルシャワ条約機構を設立、そして、それと歩調を合わせるように対米従属を国是とする日本もまた、旧ソ連を仮想敵国として見なす気運が醸成されました。実際問題、旧ソ連による日本の領海・領空侵犯も頻繁に起きました。
しかし、そのような旧ソ連による壮大なる社会実験は1991年に崩壊し、世界はアメリカ一人勝ちの状況を呈しましたが、そこに中国が台頭してくるわけです。
90年代以降、中国経済は将来必ず伸びると囁かれており、実際その通りになりました。
さすればアメリカと対立するのは必至なわけで、それまでのアメリカは中国と付き過ぎず離れ過ぎずやってきましたが、中国が「一帯一路」といった経済圏を構想し、「AIIB」のような投資銀行を発足させた頃から、米中の対立構造は鮮明になりました。
このことは驚くに値しません。
アメリカは、常に何らかの対立構造がなければ成り立たない「戦争国家」です。
アメリカにしてみれば、これまでの「武力」に代わり「貿易(経済)・情報・知財」を後ろ盾にした対立構造となり、仮想敵国が「旧ソ連」から「中国」に変わったに過ぎないのです。
そして、これも予定調和的でありますが、対米従属を国是とする日本もまた、中国を仮想敵国として見なす気運が醸成されているのです。実際問題、中国による日本の領海・領空侵犯も頻繁に起きています。
「新冷戦」は40年も続くかもしれない
ここで「あれ?」と思った方もいるはずです。
現在の安倍政権は中国を敵視し(現在は小康状態ですが)、中国包囲網に躍起となっていました。
また、中国も尖閣諸島はおろか、沖縄までも中国領だといったプロパガンダという煙幕を世界中に張り巡らしています。
そのため、東アジア情勢が複雑化していますが、全体像を俯瞰すると過去のアメリカを中心とした対立構造とさしたる差がないことに気がつきます。
つまり、かつて「冷戦」と呼ばれた時代が、またやって来るということ。プレイヤーは「アメリカ」と「中国」です。
そして、この「新冷戦」は30年どころか、40年も続くかもしれません。かつての冷戦がそうだったように――
もしかしたらアメリカ・トランプ大統領は、あえて中国に「貿易戦争」を仕掛けることにより、経済的な対立構造のみならず ”精神的な対立構造” をも醸成しているのかもしれません。
この ”精神的な対立構造” は、アメリカでは次期大統領選でトランプへの投票となって現れることを期待され、かたや中国では愛国心の発動により、制裁の渦中にあるファーウェイ製品の予約や購買といった消費者行動に現れました。
トランプ大統領はこのような意図的な対立構造をつくることで、次の大統領選の勝利を狙っている ――実はその程度の動機しか持ち合わせていない可能性も捨てきれませんが、いずれにせよ、トランプ大統領の行動パターンはトリッキーです。
対米従属だけが日本の取るべき進路ではない
米中貿易戦争で既に第4弾の対中関税が発動された今、遅くとも2020年には本格的に「新冷戦」時代に突入すると考えられます。
しかし、問題なのは、その際の日本の取り得るべきオプションがアメリカにつく以外にないということです。
そして、9月26日に合意された「日米貿易協定」でも明らかなように、アメリカに従属することは必ずしも日本の国益にプラスにはなりません。
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また、2020年の東京五輪後にさらに大きな経済停滞も一部では予想されており、果たして ”対米従属” といった、従来の国是を踏襲するだけの国家戦略で果たして良いのだろうかといった疑問も残ります。
このような中で、大変興味深い記事が9月28日の日本経済新聞に掲載されました。
中国の孔鉉佑駐日大使は都内で日本経済新聞のインタビューに応じた。2020年春に予定される習近平(シー・ジンピン)国家主席の国賓としての訪日の際に発表が見込まれる、日中共同声明などに続く「第5の政治文書」について「条件が熟せば共通認識を示すことも考えられる」と明言。検討していることを明らかにした。
(中略)
保護主義の動きが広がる中、日中韓自由貿易協定(FTA)協議の前進に意欲をみせた。「3カ国の経済関係を強化する極めて重要な枠組み。発展の未来を切り開くため、協議を加速させる」と強調した。
~2019.09.28 日本経済新聞『日中「第5の文書」検討 来春の習氏訪日で、中国大使に聞く』~
日本経済新聞はさらりと記述していますが、中国の孔鉉佑(コン・シュエンヨウ)駐日大使は非常に鋭いところを突いてきていると言えます。
つまり、日中韓自由貿易協定(FTA)を俎上に上げることで、日米貿易協定でさらに深まったとされる日本の ”対米従属” に揺さぶりをかけているわけです。
孔鉉佑氏の言葉を翻訳すれば、
「――日本と中国はこれまで日中共同声明や平和友好条約といった、4つの政治文書で戦後の日中関係を構築してきたが、今度は『第5の文書』で日米同盟と決別した新しい日本中関係を構築したい」
ということではないでしょうか?
そして、その人質となっているのが「習近平の訪日」なのです。
日本の出方次第では、来春に予定されている習近平の訪日が延期される可能性があります。
これは安倍首相にとっては痛いところを突かれたことになります。
中国との関係をどうにか修復したい安倍首相にとって、孔鉉佑氏の提案を無下に断り習近平の来日が延期となれば、それこそ外交敗北です。
かといって、日本中間のFTAに「YES」と言うわけにもいきません。
その是非は別にしても、孔鉉佑氏は安倍首相と違って ”外交らしい外交” をしていると感じます。
さて、安倍首相は孔鉉佑氏の言葉を外交上のヒントと捉えるのか、従来の対米従属を繰り返すのか?
実に興味深い展開が訪れました。
最後は安倍首相の出方次第です。
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