摩訶不思議な消費税増税の仕組み

2019年10月1日の今日、消費税が8%から10%に引き上げられます。

今回の消費税増税は、悪名高い増税として後世に記憶されるでしょう。
食料品には軽減税率が適用されるものの、店内での飲食は対象外であったり、赤ん坊のおむつや女性の生理用品には軽減税率は適用されなかったりです。

その一方で、政府に忖度するしか能のない、まるで公共性を欠いた新聞に軽減税率が適用され、某宗教団体の機関紙についても新聞を装っていることから軽減税率が適用されるといった奇怪な現象が起きています。

新聞については週に2日以上発行されるのが軽減税率の適用条件となっており、ちなみに某党の機関紙(日刊)も適用対象になっていますが、奇妙なことに週に一回しか発行されない日曜版についても、これもまた軽減税率の適用対象なのです。

ことほどさように、今回の消費税増税に際しては摩訶不思議なことがはびこっていると言う他なく、恥ずかしくてとても海外に説明できるようなものではない、杜撰な内容です。

他にも突っ込みどころは満載ですが、ではなぜ、このような支離滅裂な税制がまかり通るのでしょうか?
結論から申し上げれば、近い将来(下手をすればこの2,3年のうちに)再び消費税が増税されるからだと考えます。

だから、今回の10%増税においては、その仕組はある程度杜撰でも構わず、次の増税のタイミングで、例えば一律「15%」といった冷酷な形になるのではないでしょうか?

一人当たり名目GDPで見る「失われた30年」

なぜ、消費税が再度増税されるかについては、平成の時代がどのような時代であったかを、まず考えてみる必要があるかと思います。

【図表1】は、平成の始まりである1989年から2018年までの、「一人当たり名目GDPの日本の順位」をグラフ化したものです。

このグラフを見ると、平成元年の1989年時点、日本は第4位に君臨し、2001年にはルクセンブルクを抜き世界2位になったものの、その後は急転直下しました。

民主党政権時の2009年から2012年に盛り返したものの、その後の第2次安倍政権によるアベノミクスによって急落し、2018年には世界26位まで順位は落ち込んでいます。

80年代の終わりから2000年頃までにかけて、日本の「一人当たり名目GDP」は常にトップ5の中にありながら、その後の凋落ぶりは余りに悲惨としか言いようがありません。

バブル崩壊後の20年は、日本では「失われた20年」と呼ばれていますが、その後も景気低迷が続いていたことから、平成とはまさに「失われた30年」と呼ぶのが相応しいでしょう。

それではこの時代。一体、日本に何が起きたのでしょうか?

日本の終身雇用制度は温存されていた!?

「平成時代」とは、バブルの崩壊後に大企業を中心にリストラの嵐が吹き荒れ、小泉政権時の新自由主義経済による雇用破壊で「正社員」が減り、「非正規」が急激に増えたとされる時代です。

しかし、このことについては、もう少し詳細に状況を見る必要があります。
【図表2】は18歳から54歳の男女における「日本の労働市場の変化」をグラフで表したものです。

最も特徴的なのは、バブル崩壊前の1982年から崩壊後の2007年にかけて、全体に占める「正社員」の割合が安定していることです。

ただし、その中でも「非正規」の割合は1982年の4%から、2007年の12%といったように3倍に増えています。図表でも明らかのように、この間、「自営業」の割合が減っているためです。

この図表の出典となった上林龍氏によれば、30年間にわたって自営業者が衰退の一途を辿ったのは、先進国の中では日本以外に例がないそうです。
これが何を意味するのかと言えば、農業・飲食業・町工場といった自営業者が次々と廃業し、非正規雇用者になったということ。

つまり、「リストラ」が流行語となった時期においても、従来の日本型長期雇用(終身雇用)は長いこと温存されていたわけです。

日本の労働市場の変化を男女別に比較すると何が見えるのか?

女性の場合

従来の日本型長期雇用(終身雇用)が長いこと守られていたとしても、男女間では何か違いがあるのでしょうか?

【図表3】は22歳から29歳の女性における「日本の労働市場の変化」をグラフで表したものです。

ここで特徴的なのは、「非正規」で働く女性の割合が1982年では5%だったのに対し、2007年ではそれが22%にまで増えていることです。

ちなみに、「正社員」については、元々少なかった割合がバブル期で半数まで増え、また元の割合に戻ったと考えられます。

ポイントとなるのは「無業者」の割合でしょう。
「無業者」は1982年の43%から2007年での26%といったように、急激な現象を見せているのです。

ここから分かることは、専業主婦(無業者)が、家計のひっ迫などの理由でバブル崩壊後に働こうとしたが、正社員のハードルが高かったが故に「非正規」として働き始めたということです。

男性の場合

【図表4】は22歳から29歳の男性における「日本の労働市場の変化」をグラフで表したものです。

ここで目につくのは何と言っても「正社員」の割合です。
1982年で「正社員」が75%であったのに対し、2007年ではその割合が62%まで落ち込んでいます。

その反面、「非正規」の割合は増えました。
1992年までは4~5%で推移していたのが、2007年には15%もの割合に膨れ上がっています。

実は――
”「平成時代」とは、バブルの崩壊後に大企業を中心にリストラの嵐が吹き荒れ、小泉政権時の新自由主義経済による雇用破壊で「正社員」が減り、「非正規」が急激に増えたとされる時代です。 ”
――というフレーズは、まさに20歳代の男性にこそ当てはまるものだったのです。

また、「自営業」もこの間に9%から3%まで減っており、このことは20代男性が、親の仕事を継ぐこともできなかったことを意味しています。
彼らのような、1993年~2005年の「就職氷河期」に「非正規」や「無業者」になった者たちは『ロストジェネレーション(失われた世代)』と呼ばれています。

ここまでの経緯をまとめると、次のようになります。

◆前提:バブル前夜から崩壊までの約25年もの間、日本型の年功序列や終身雇用は温存されていた。

・20代女性では、非正規雇用が増えたが、その担い手の多くは専業主婦だった。
・20代男性では、正社員が’減り非正規雇用が急増する「雇用破壊」が起きた。

◆結論:平成時代の日本の労働市場は、若い男性の雇用を破壊することで「中高年(団塊の世代)」の雇用を守った!ということ。

「団塊の世代」の雇用を守ることで「団塊ジュニア」の雇用は破壊された

阪神大震災と地下鉄サリン事件で日本社会が大きな衝撃を受けたこの年から、バブル崩壊が広範囲に表れはじめ、名門金融機関が次々と破綻する90年代末の金融危機へとつながっていきます。
戦後の日本社会を支えてきた土台が大きく揺らいだこの時期、政府・行政に課せられた最大の責務は「団塊の世代の生活を守ること」でした。為政者は、この層の家計が破綻するようなことになれば社会そのものが根底から崩壊する恐怖を感じていたはずです。
~橘玲『上級国民/下級国民』(小学館新書)~

これまで論じてきたことは、橘玲(たちばな あきら)氏の『上級国民/下級国民』(小学館新書)がベースになっています。
(※図表の引用元も『上級国民/下級国民』です)

橘氏は「上級国民」「下級国民」という昨今のキーワードを通じて、私たちが生きる「現代社会」を、広い視点と深い考察により炙り出しています。
そして「上級国民」「下級国民」という言葉の意味も、橘氏に掛かれば私たちが安易に使っている浅はかなものではなく、まるで違ったより深刻なものであることに気づかれされるでしょう。

そして、『上級国民/下級国民』には消費税増税を読み解くうえで、極めて重要なことが書かれているのです。今回の記事はそれを知っていただくために構成したものです。

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さて、第二次世界大戦が終わると、すべての国でベビーブームが起こります。日本も例外ではなく、1947年~1949年までの3年間に生まれた子供の数は実に800万人を越え、彼らは「団塊の世代」と呼ばれるようになりました。

この「団塊の世代」は上述したように、その雇用や生活は政府の手厚い保護下に置かれていましたが、では、その子供たちである「団塊ジュニア」はどうであったのかが大きなポイントです。

結論を言えば、「団塊の世代」の雇用を守ることで「団塊ジュニア」の雇用は破壊されました。

パラサイ・トシングルの発見

1999年に世間を騒がせた言葉の一つに「パラサイト・シングル」があります。
学校を卒業してもなお親と同居し、多くの場合、フリーターを生業としていました。

フリーターは、80年代に自由な生き方の一つとして脚光も浴びましたが、90年代半ば以降の「就職氷河期」では、 ”仕方なく” フリーターしている者が大半となります。仮に、運よく就職できたとしても、わずか3年ほどで会社を辞めてゆくケースが多々見受けられるようになり、これも社会的な問題として注目されました。


なにも当時の若者が「こらえ性がない」「世の中をなめている」わけでは決してなく、採用が極めて厳しい中で就職について妥協を余儀なくされ、希望の仕事に就けなかったのが大きな原因と思われます。

また、上述した年功序列や終身雇用といった、既存の日本型雇用システムが温存されているため、自身のキャリアパスが早々に打ち止めとなり ”やってられない” 状況になったとも考えられます。

このパラサイト・シングルのフリーターがやがて「失業者」となり、ついには「ひきこもり」となってゆくのは、この時代において時間の問題でした。
――いわゆる「ニート」の出現です。

日本の労働問題とは「階級問題」である

2000年代になってから、現在で言う「働き方改革」を進めようとする動きが一部に存在していたようです。

閉塞した経済状況を打ち破るには「生産性の向上」が必要であり、中高年(団塊の世代)に与えている既得権益を無くし、「正社員」と「非正規」の垣根も崩さなければならない、といった考え方です。

団塊の世代にとって「若者の雇用を奪っている」現実は受け入れがたく、「世代間格差を煽るのはグローバリストの陰謀」や「すぐに会社を辞めるのは若者の自己責任」といった論法で反撃に出ましたが、その際に有効だった方便がまさに「ニート」だったわけです。

また、「正社員」と「非正規」の格差の問題で足を引っ張ったのが、意外にも「労働組合」だったことも見逃せません。

同一労働同一賃金はリベラル社会の前提であり、オランダのようにこれを実現した国もあるのですが、日本の労働組合はこれに頑なに反対し、「同一価値労働 同一賃金」を唱えてきました。

「正社員」と「非正規」とでは同じ仕事をしても価値が異なる、つまり「正社員」と「非正規」は ”身分” が違い、人としての ”価値” が違うと言っているようなものです。

要するに、日本の労働問題とは、日本の ”身分” すなわち「階級社会」の問題であったわけです。これはまさに、橘玲氏の『上級国民/下級国民』の眼目の一つです。

年金を口実に消費税の再増税が行われる

マスコミも含め日本の企業や官庁、労働組合などを支配しているのは「日本人、男性、中高年、有名大学卒、正社員」という属性を持つ ”おっさん” で、彼らが日本社会の正規メンバーです。そんな ”おっさん” の生活(正社員共同体としての会社)を守るためには「外国人、女性、若者、非大卒、非正規」のようなマイノリティ(下級国民)の権利などどうなってもいいのです。
~橘玲『上級国民/下級国民』(小学館新書)~

このことは、今回取り上げる「消費税増税」とも大きく関わると、筆者は睨んでいます。

上述したように、団塊の世代の雇用を守るため団塊ジュニアら若者の雇用が犠牲となりましたが、団塊の世代はこれらの特権を手放そうとはしませんでした。
しかし、団塊の世代の雇用を死守した平成が終わり、令和の時代となった今、どのようなことが起きるのでしょうか?

実は、団塊の世代が後期高齢者となり、労働市場から完全撤退します。これが来年の2020年から起こるというのです。

これまでの ”働き方改革的” な動きは団塊の世代の抵抗により上手くワークしませんでしたが、彼らが現役を引退することで、昨今の「働き方改革」がはじめて可能になりました。

民主党政権であれ自民党政権であれ、巨大なマスを形成し大票田でもある団塊の世代の利権を侵害するようでは、どのような改革も上手くゆきません。彼らが労働市場から姿を消すことで日本でもグローバルスタンダードな雇用制度が可能となり、それが先のトヨタ自動車社長の「終身雇用を守ってゆくのは困難」といった衝撃的な発言に繋がったというわけです。

と、ここまでは良いのですが、問題となっているのは消費税の行方でした。
橘玲氏は『上級国民/下級国民』の中で、次のように言っています。

高齢化が進むにつれて、社会保障に依存する国民の割合は高くなります。このひとたちは年金がないと生きていけませんから、いまや年金受給権に触れるのは最大のタブーなのです。
この出来事から、これから始まる令和の姿が確実に予想できます。
平成が「団塊の世代の雇用(正社員の既得権)を守る」ための30年だったとするならば、令和の前半は「団塊の世代の年金を守る」ための20年になる以外にありません。
~橘玲『上級国民/下級国民』(小学館新書)~

つまり、現行の政治体制が続く限り、「年金のための財源不足」を理由に再び消費税は増税されるということ。そして、それは団塊の世代の絶対数を考慮すると遠い先ではなく、すぐにでも消費税は増税されるだろう、ということです。

このような状況を放置すれば、増税の ”負のスパイラル” い嵌ってしまい、日本の経済は益々苦境に陥る可能性が高いと言えます。

この状況に対応するにはもちろん政治の力が必要なのですが、既存の政治家や政党ではおそらく無理でしょう。

ただし、一つだけ可能性は残されています。
これまでにない新しい政党や政治団体で、かつ、組織票や団塊の世代票に頼らず、これまで選挙に行かなかったような人間を喚起し、それを票に結びつかせるような政治勢力が出現した場合、状況は大きく変わる可能性がある、ということになります。

果たして、このような政治勢力は日本に現れるでしょうか?

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