Introduction: 「まるで映画のようだった」
アメリカ・トランプ大統領はそのように自画自賛し、あたかもIS(イスラム国)問題は解決したかのような空気を漂わせていますが、イスラム国掃討の数あるミッションの一つが完了したに過ぎません。
「バグダディは本当に死んだのか?」
アメリカのやることですから、常にその疑問はつきまといます。
究極の疑問は「そもそも ”バグダディ” なる人物は存在したのか?」というもの。
実は、今回のバグダディ急襲作戦は、映画『ゼロ・ダーク・サーティ(Zero Dark Thirty)』と瓜二つなのです。
まず、ウサマ・ビン・ラディンの話から始めましょう
9.11アメリカ同時多発テロの首謀者(とアメリカが主張する)ウサマ・ビン・ラディンには40人ほどの兄弟がいます。
彼はサウジアラビアの出身で、この国では妻を同時に4人まで持つことが許されていますが、これが王族になると妻が述べ数十人になることも珍しくありません。
ビン・ラディンは王族ではありませんが、財閥を形成する富裕層の出身なので、父親は派手に結婚と離婚を繰り返し、日本などでは考えられないような数の子供を授かりました。
このビン・ラディンの多くの兄弟の存在は、彼の存在そのものについても大きな意味を持ちます。
つまり、異母兄弟が多数存在するということですが、中にはビン・ラディンのそっくりな者が何人かは生まれてくるでしょう。彼らイスラム社会の人間は大抵は髭をたくわえるので、そうなると我々の眼には誰が本当のビン・ラディンであるか、見分けがつかなくなる場合もあります。もちろん、これはアメリカ人にとっても例外ではありません。
2011年5月、アメリカ海軍特殊部隊 NAVY SEALS によって、ビン・ラディンはパキスタンで射殺されたことになっていますが、あれは本当にウサマ・ビン・ラディン本人だったのでしょか?
仮に、彼のそっくりさんの兄弟であっても、アメリカ側は見抜けなかったのではないかと思うのです。
『ゼロ・ダーク・サーティ』とバグダディ死亡の類似点
『ゼロ・ダーク・サーティ(Zero Dark Thirty)』予告編
Video by : ギャガ公式チャンネル
『ゼロ・ダーク・サーティ(Zero Dark Thirty)』というアメリカ映画があります。映画『タイタニック』のジェームズ・キャメロン監督の元妻、キャスリン・ビグロー監督の作品ですが、CIA女性捜査官が10年もの歳月をかけてビン・ラディンを追いつめ、 NAVY SEALS による射殺までを描いたドキュメンタリータッチの作品です。
※ Zero Dark Thirty とは深夜「午前0時30分」のことです。
この作品にはCIAが全面的に協力しており、これこそがウサマ・ビン・ラディン殺害までの「真実」である、というのが最大の売りになっていますが、端的に言えばCIAによるプロパガンダ映画です。
つまり、この作品内容を信じるということは、9.11がビン・ラディンが主導するアルカイダによって行われたことを認めてしまうことになるからです。
9.11については現在も様々な疑惑が取り沙汰されており、アメリカ政府が指摘するようにアルカイダの犯行だと素直に信じている人は、むしろ少数派かもしれません。ストーリーの信憑性については眉に唾して鑑賞すべき映画作品かもしれません。
それでも、筆者が強く鑑賞をお勧めするのは、映画そのものは非常に丹念に作りこまれた秀逸なものだからです。その辺は女性初のアカデミー監督賞を受賞した キャスリン・ビグロー監督の力量を十分に感じさせます。
『ゼロ・ダーク・サーティ』の中に興味深いシーンがあります。
主人公のCIA女性捜査官マヤが追い求めていたテロリストが、実は既に死亡していたことが判明し彼女が愕然とするシーンです。しかし、その後さらに事態は進展し、死んだとされる者は実はテロリストの兄弟であると分かるのです。顔がそっくりで、髭まで生やされるとアメリカ人の分析官たちは区別ができなかったのです。
”映画のような” バグダディ死亡までのプロセス
「米軍はバグダディ容疑者をどう追い詰めた? ISへの影響は?」
Video by : BBC News Japan
「まるで映画のようだった」
今回のアブ・バクル・バグダディの死亡に際して、アメリカのトランプ大統領はそのように形容しました。そして、「バグダディは最後の死の瞬間まで泣き叫んでいた。犬のように、臆病者らしく死んだ」とも言っております。
ここで、バグダディが死に至るまでのプロセスを振り返ってみましょう。
バグダディ死亡までのプロセス
- 10月26日の深夜、ヘリコプター8機に分乗したアメリカ陸軍特殊部隊「デルタフォース」が、低空飛行でシリア北西部イドリブの領空に侵入。
- 途中、地上からの銃撃を受ける。
- 翌27日午前0時過ぎ(≒ Zero Dark Thirty)、現場のバリシャ村に到着。
- ヘリから飛び出した部隊の降伏の呼びかけに、大人数人と子供11人が応じる。
- 爆弾が仕掛けられていると思われる正面玄関を避け、建物側壁を爆破し部隊が建物内に突入。
- 今回の作戦に投入された軍用犬が、建物地下につくられた逃亡用トンネルにバグダディを追い詰める。
- バグダディは連れていた子供3人を巻き添えに、自爆ベストにて自爆死。
- 部隊はDNA検査と画像を基に、15分後には自爆したのがバグダディ本人であると断定。
- 部隊は合わせてIS関連の重要書類を押収。
- バグダディが潜伏していた建物は、その後戦闘機6機にて徹底的に爆撃。
急襲が行われた時間といい、手口といい、今回のバグダディ掃討作戦は、実は、映画『ゼロ・ダーク・サーティ(Zero Dark Thirty)』と瓜二つなのです。
そして、間違いなくトランプ大統領は映画『ゼロ・ダーク・サーティ』意識していると感じます。それが 「まるで映画のようだった」のセリフに込められています。
バグダディの死は大きな意味を持つのか?
バグダディは、イラク南部のバスラにある米軍捕虜収容所キャンプ・ブッカに拘束されていたこともあり、最も危険な国際テロリストとしてアメリカ政府から1000万ドルもの懸賞金を掛けられていたこともあります。
そんな ”お尋ね者” ではありましたが、彼はイラクのバグダッド大学でイスラム関係の博士号を取得し、モスク(イスラム礼拝所)の集団礼拝の指導者であり、イスラム教の導師といった名士でもあったわけです。
ただ、いかんせんバグダディの姿を表わす映像が非常に少ないのが、我々にとっての難点となっています。
よって、今回は本当にバグダディ本人が死んだのか、また、15分で済んでしまうDNA検査は信頼性に値するかなど、まだまだ多くの疑問を残しています。
さらに問題を深掘りすれば、そもそもバグダディなる人物は本当に存在したのか、といった根本的な疑問すら浮上してきます。
というのも、イスラム国は組織的ヒエラルキー構造を持たず、大小さまざまなアメーバ的組織集団が緩やかに連帯し、総体として「イスラム国」を体現していたのが特徴だからです。
そう考えれば、何もバグダディが実在しなくとも構わないし、複数の ”なんちゃってバグダディ” が存在したとしても、イスラム国はそれはそれで成り立ってしまうのです。
◆ ちなみに、後藤健二氏と湯川遥菜氏のイスラム国による人質事件においては、最初にイギリス出身のラッパー、通称「ジハーディー・ジョー」による2億ドルを要求する動画が日本に突きつけられ、二度目のものは後藤氏を中心とした静止画でした。
動画の作りに明らかな差異が認められましたが、これは製作者の時間的な制約というよりも、日本人人質を管轄するグループが変わったとも考えられます。イスラム国では、グループ間で人質や奴隷の交換を頻繁に繰り返していたからです。
よって、最初のグループは2億ドルの身代金に力点を置き、次のグループはヨルダンに拘束されている女性テロリストの釈放に意義を見出したと考えられます。
イスラム国とは、ウサマ・ビン・ラディンに象徴されるアル・カイーダとは異なる、次世代型のテロ集団と言えます。彼らには中心となる指導者を必ずしも必要とはせず、象徴としての指導者がいると思わせる状況のみでも ”国家” として成り立ってしまう集団です。
専門家の間では、イスラム国掃討にはまだまだ長い年月が必要だとする見方が主流となっており、今後も世界はイスラム国との戦いで益々疲弊してゆくかもしれません。
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