プーチン大統領20年の功罪 ~プーチニズムの終焉は近い?

政治

Introduction:2020年5月7日。この日はロシアのプーチン大統領(67)が就任してから20年という節目の日です。

途中、メドベージェフといった傀儡を大統領に立て、自身は首相に引っ込む時期が4年ほどありましたが、この ”院政” 時代も含め実質的にロシアの頂点に君臨し、ロシアを牽引してきた人物ということで間違いないでしょう。

この旧ソ連の国家保安委員会(KGB)出身にしてその後のロシア連邦保安庁(FSB)の長官にも就いた ”スパイ” 大統領は、これまでロシア国内で強権的な統治を展開してきましたが、彼のプーチン主義(プーチニズム)にも翳りが見えてきました。

ロシアのツァーリ(皇帝)となったプーチンは、今後ロシアを何処に導くのでしょうか?

崩壊寸前だったロシアを救った男

旧ソ連が崩壊した1991年からウラジミール・プーチンが大統領として登場する2000年まで、ロシアはヤクザが国家を統治するような無法地帯だったと言っても過言ではないでしょう。

国営企業は二束三文で次々と民間に払い下げられ、それは天然ガスや石油といったエネルギー企業も例外ではありませんでした。そして、これらのエネルギー企業を大企業として統合し、富を手中に収めた新興財閥(オルガルヒ)がその後のロシアという国家を牛耳っていました。

実際問題、ベレゾフスキー、ホトロコフスキー、アブラモビッチといったわずか7,8名の新興財閥がロシアの富のほとんど全てを独占。彼らは富だけではなく権力をも志向し、実際にヨーロッパの金融勢力と結託し大統領の座を狙うものも現れ、さらにはエネルギー企業をアメリカの企業に売り渡すことを画策する者すら現れました。

そのような流れを受け、ロシアの地方政治にも中小の新興財閥が政界になだれ込むようになります。その中にはマフィアといった地下社会と通じる者も数多く存在し、中にはマフィアそのものが政治家になってしまう場合もありました。最後の砦であるはずの司法当局も、新興財閥に取り込まれ機能することを忘れてしまいました。

昨夜遅く、ロシア版『フォーブス』誌のパーヴェル・フレブニコフ編集長がモスクワで殺された。社屋を出るところを狙われてのことだった。フレブニコフは新興財閥、ロシアの「ギャング資本主義」の構造、一部の人間が不正に入手した巨額の金に関する執筆活動で有名だった。

やはり昨夜のこと、ヴィクトル・チェレプコフがウラジオストクで手榴弾によって吹き飛ばされた。彼はわが国の議会下院の一議員であり、この国の弱者、貧困層の味方としてつとに有名だった。チェレプコフは故郷ウラジオストクの市長選に立候補していた。ウラジオストクはロシア極東の要だ。彼は再選挙にまで持ち込んでおり、あと少しで実際に選出されるところだった。選挙事務所を出たところで、仕掛け線によって起爆された対人地雷に吹き飛ばされた。

アンナ・ポリトコフスカヤ『プーチニズム』(NHK出版)〔385ページ〕

そんな新興財閥に対して切り込んでいったのがプーチンでした。彼は国策捜査によってオルガルヒを収監し、エネルギーに関する民間企業を再び国営化しました。海外に亡命した一部のオルガルヒは、最後はプーチンに暗殺されました。 
こうしてプーチンはエネルギーを制することにより実質的な大統領になり得たわけです。

プーチン大統領については賛否両論が渦巻いていますが、少なくとも初期の段階においては、困窮を極め無政府状態だったロシアを再構築し、秩序を回復させたことで間違いはありません。もし。彼が存在しなかったら、今頃ロシアはアメリカの植民地のような状態になっていたかもしれません。

森喜朗を手玉に取ったプーチン

ロシア外務省筋によれば、二〇〇〇年九月の訪日前、プーチンは日ソ両国が国交を回復した五六年首脳会談の文書を公式文書館から取り寄せて読み、自分で調べたという。

五六年共同宣言は、「平和条約締結後に歯舞、色丹両島を善意のあかしとして日本に引き渡す」ことを明記している。プーチンはパノフ駐日大使に「これは批准された文書なのか」と尋ねた。

大使が「その通りです」と答えると、プーチンは「それなら、(二島引き渡しの)履行は義務だな」と答えたという。以来、二島返還論はプーチンの対日戦略となった。

名越健郎『独裁者プーチン』(文春新書)〔235-236パージ〕

プーチンが大統領に就任した頃のロシアは崩壊寸前の状態で、そのためプーチンは西側諸国との関係改善を図り、一方アジアにおいては日本との領土問題を模索することで国家的危機の打開を目指しました。

2001年には当時の森喜朗首相との間でイルクーツク宣言が出され、平和条約締結後に2島を引き渡すとした1956年の「日ソ共同宣言」を確認するとともに、4島の帰属問題を解決して平和条約を結ぶとした1993年の「東京宣言」にも言及しました。

ちなみに、当時の森首相の父である森茂喜氏は石川県根上町の町長を務め、イルクーツク郊外のシュレホフ市との姉妹都市提携に尽力したことでも知られています。そのような縁もあり、実はこのシュレホフ市には森茂喜氏の分骨を納めた墓があるわけです。

そして、イルクーツク宣言の際、森首相はプーチン大統領から「これから一緒に墓参に行こう!」と提案され、彼は感激のあまりすっかり舞い上がってしまったとの逸話も残されています。──イルクーツク宣言ではプーチンに ”たらし込まれて” しまった ”サメの脳味噌” と揶揄される森首相。勝負は既に決していました。

エネルギーを制する者が世界を制した時代もあったが・・・

クリミアを併合したことで世界中から激しい非難に晒され、次はイスラム国と戦うと言いつつ実はアサド政擁護に邁進したプーチン大統領は、世界を尻目にしれっとした態度を取り続けました。

なぜゆえにプーチン大統領は世界を舞台に尊大な態度を取り続けていられたのかについては、一つにはロシアの天然ガスの存在が挙げられます。ロシアはウクライナにも通じているパイプライン経由で、EU諸国に天然ガスを売っています。その供給が止められたらヨーロッパは大混乱に陥ります。

そして、忘れてはならないのが「石油」の存在です。
2011年当時、1日当たりの原油生産量で言えば、ロシアはサウジアラビアを抜いて世界1位の座を守っていました。ロシアは一日約930億バレルを誇る世界一の原油生産国だったのです。

KGBやFSB出身のプーチンは冷徹で頭も切れ、かつカリスマ性をも備えた人物だからのさばっていられるのではなく、エネルギーを実質的に手中に収めているからこそプーチン大統領として存在していられる。つまり、エネルギーこそがプーチン大統領の権力の源泉なのです。

しかし、世界のエネルギー事情もアメリカのシェール革命以降、大きく様変わりし、現在は1日当たりの原油生産量では1位がアメリカ、2位がサウジアラビアとなりロシアは3位に後退しています。さらに、昨今のコロナウイルス禍により原油市場は大きく後退。このまま原油価格の低迷とロシア国民の生活の混乱が続けば、プーチン大統領の支持率も一気に低迷しかねない状況になっています。

プーチン大統領と日本の安倍首相は似たような所があり、仮にプーチン大統領が辞めたくなっても、それを認めようとしない権力に群がる輩が存在しています。そのことが、今年3月に議会から提出された憲法改正案に濃縮されていると感じます。

この憲法改正が認められれば、プーチン氏はさらに「2期12年」大統領に留まることができます。現在のプーチン大統領の任期は2024年となっており、下手をすれば彼は36年間大統領に君臨することになります。

プーチン大統領はこれまで「国民がいくら経済活動で金儲けしても構わない。しかし、政治には口を出すな」と言った方針で権力を手中にし、国民もそれに従ってきた経緯があります。このような愚民化政策もまた、日本と酷似しています。

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