私は「保守」だと言い張る安倍首相の正体を暴く

国内政治

Introduction:「安倍首相」とは、一体何者でしょうか?
今国会の桜疑惑追及でも「募っているけど募集はしていない」「契約の主体は参加者であって安倍事務所は関係ない」──挙句の果てには質問者を ”嘘つき呼ばわり” する。そのような珍妙答弁・迷回答が各方面で話題となりました。
そんな安倍首相は日頃から自身を「保守」と称していますが、本当に安倍首相は「保守」なのでしょうか?
そして、もしそうでないとしたら、本来の「保守」とはどのような立場の人間のことで、では、安倍首相とはそもそも一体何者なのでしょうか?

安倍首相は抽象度の高い考えが苦手

2006年7月、文春新書より刊行された安倍首相(当時は官房長官)による著書、『美しい国へ』の「第一章 わたしの原点」は、どうしたわけか ”「リベラル」とはどんな意味か” で始まるのは何とも興味深い限りです。

このように、先ずはリベラルについて語ってしまうところが、安倍首相のリベラルに対する怨嗟を何よりも物語っている気がします。

安倍首相は自らを「保守」と称し、保守以外はすべてリベラルであると思い込んでいるふしがあり、そんなリベラルを忌み嫌っていますが、それは倒錯した考えです。だからことあるごとに「悪夢の民主党政権・・・」といったセリフが口をついて出るのでしょう。

『美しい国へ』の中で安倍首相は、リベラルを「これほど意味が理解されずに使われている言葉もない」と評し、同じリベラルでもヨーロッパとアメリカとでは受け止められ方が違うと言っています。

安倍首相の言うヨーロッパとアメリカのリベラル

すなわちヨーロッパでは、市民による流血の闘争によって民主主義が勝ち取られた歴史により、リベラルは他者の介入を許さない「個人主義」に近い意味合いで使われるとのこと。

一方、アメリカのリベラルは、社会的平等や公正に政府が積極的に介入すべきとする「大きな政府」を支持する立場。かつての、社会主義的的なニューディール政策を支持した人々がリベラルを称したことから、社会主義やそれに近い考えを持つ人々もリベラルであり、革命主義や左翼もリベラルの範疇に入ると言うのです。

このような保守やリベラルに対する安倍首相の捉え方は、間違っているとは言いません。しかし、浅薄な認識であることも確かです。

どうも安倍首相という人物は、物事を広く俯瞰する「抽象度の高い考え方」が極めて苦手なタイプのようです。だから、革命主義や左翼をリベラルと一緒くたにしたり、相も変わらず「悪夢の民主党政権・・・」などと言っているわけです。

つまり、安倍首相は物事を単純化しないと理解できない、深い概念は理解できないタイプの人間なのです。

ちなみに、安倍首相は自らを「開かれた保守」であるとしていますが、具体的にそれはどのような保守なのかは説明していませんし、「開かれた保守」というからには、「通常、保守は閉じているのか!?」と突っ込みを入れたくもなります。

「保守」とは何か「リベラル」とは何か

▲ 安倍首相の立ち位置はどこでしょうか??

保守とは何か

「保守」とは、フランス革命に源流を辿ることができます。
ポイントは人間の「理性」をどのように捉えるかという点にあります。

保守は、理性で世の中を変えられるとは思っていません。理性には限界があることをわきまえ、理性や合理的思考のもとに白紙から社会制度を構築したり、急激な制度改革を厳に戒めます。なぜなら、人間の描いた理想をそのまま社会に適用すれば必ず失敗すると考えるからです。

よって、保守は急激な変化を恐れ、これまでの制度や常識、文化や歴史に根差した緩やかな変化を求めます。そこには先人の知恵が込められているからです。

リベラルとは何か

保守は頭の中で考えたこと、つまり、人間の理性(頭脳活動)に全幅の信頼はおきません。

一方で「リベラル」は、基本的には理性を信じる立場を指します。
今ここに生じている不正、不自由、不平等を当然のこととして見過ごすのではなく、理性的な思考により現実とは違った理想的な社会や未来を求めます。

そして、そのような理想的な社会を求める過程においては、それを実現するために大きな権力が必要になるため、実は権力を集中する傾向にあるのもリベラルの特徴の一つです。

そうして考えると、権力の集中や暴走を恐れるのが本来の「保守」であることが分かります。そして、そのために考え出されたのが、例えば「議会の二院制」「三権分立」だったりするのです。ここは極めて重要なポイントです!

安倍政権で潤うのは一部の国と企業だけ

権力を集中させる安倍首相

保守とリベラルを定義したところで、あらためて安倍首相を検証してみましょう。

安倍政権による一連の政治改革、行政改革の行き着いた先はあまりに悲劇的です。
──それは端的に言えば「権力の集中」です。

つまり、首相官邸は菅官房長官が牛耳る「内閣人事局」により、中央官庁の幹部人事が一元管理され、官僚はものが言えない状態となり多くの政権に忖度する輩が跋扈するようになりました。

また、小選挙区のもとでは自民党中央の執行部が公認権を握っていることから、自民党議員もまた党にものが言えない、安倍首相に尻尾をふる議員で溢れています。

その他にも、安倍政権による最高裁判事の恣意的な任命も取り沙汰され、最近では官邸に極めて近い東京高検の黒川弘務検事長の定年を延長し、次の検事総長にしようと目論んでいることが大きな物議を醸しています。

このように、首相官邸と自民党中央に権力を集中させることで、日本の「三権分立」は機能不全を起こし、閣議決定で自衛隊艦船を海外派兵させるなど、フリーハンドとなった安倍首相は「法治国家」としての日本を破壊していると言えます。

国を破壊してゆく安倍首相

昨年12月9日に閉幕した、第200回臨時国会は実に象徴的でした。

この時は「桜を見る会」疑惑一辺倒だった感がありますが、日本にとって極めて重要だったのが「日米貿易協定」が国会で承認されてしまったことです。これによって、日本の農業、畜産業、林業は計り知れない打撃を被ることになります。

その他にも、これまでの安倍政権は日本の根幹を破壊するような政策を次々に実行してきました。

2018年4月に「種子法」を廃止することにより、安倍政権は外国企業にも種子ビジネスに門戸を開いています。今後、日本の農家は遺伝子組み換えされた1世代しか発芽しない外国産の種子を高価な値段で買わされ、そのことは間違いなく農産物の多様性を失わせ、価格を高騰させることに繋がります。

同じく2018年に改正された「漁業法」では、地元の漁師が保有していた漁業の優先権が廃止され、ここでも一般企業の参入に道筋をつける格好となっています。今後は漁場が荒らされたり、漁業権をめぐるトラブルが相次ぐものと考えられます。

これもまた2018年の改正なのですが、「水道法」についても改正がなされ、自治体が担ってきた事業を民営化し、海外の企業に委託する動きが現実化しています。水道の民営化については既に海外でも行われており、サービスに低下と水道料金の高騰が問題視され、再公営化の動きがでるなど、郵政と同様、”やってはならない” 民営化の一つに挙げられています。

こうしてみると、安倍政権による政策で得をするのはアメリカを始めとする一部の国、そして安倍政権に癒着している一部の企業であることが分かります。
そして、そのために犠牲になっているのが既存の農業、畜産業、林業、漁業、そして不利益を得ているのが私たち国民なのです。

安倍首相は既存産業と国民を犠牲にし、日本の利益をアメリカを中心とする外国と、一部の企業に差し出しているように見えてなりません。果たしてこれが「保守」のやり方なのでしょうか?

安倍首相は本当に「保守」なのか?

保守派の論客で知られた西部邁(にしべ すすむ)氏は、小林よしのり氏との共著『反米という作法』(小学館)の中で、「リベラル」とは近代主義であり、その一つの形態が社会主義であるとしました。

社会主義と言えば旧ソ連を連想しますが、西部氏はアメリカについても近代主義を個人的、競争的に実現しようとしたという意味において、旧ソ連との根本思想は同じではないかという問い立てをしています。

この辺については安倍首相も同じような考えをしているようでもありますが、決定的に両者が異なるのは次の点においてです。
つまり、「保守」というものは、同時にアメリカ的なるものに対してははっきりと距離を置く思想である、という点です。

日本国憲法はアメリカが押し付け、教育基本法もアメリカが押し付けたようなものであるとするならば、憲法改正を訴え日教組を敵視し、それでもなお ”対米従属” や ”アメリカ礼賛” を恥とも思わない保守を自認する者たちを、西部邁氏は痛烈に批判しているわけで、まさにこれは安倍首相に見事に当てはまっているのです。

安倍首相の立ち位置はどこか?

保守を自認しておきながら対米従属を改めず、思うがままに法律を変え、日本の既存産業と国民を犠牲にして、日本の利益をアメリカや一部の企業に還流している。

このことは保守どころか極めて反日的な行為と言う他なく、強大な権力をゴリ押しする様はかつてのスターリン、毛沢東、ポル・ポトを彷彿とさせます。

そんな安倍首相の立ち位置は、ズバリ!「反日極左」です(▼ 下図参照)

法政大教授の山口二郎氏は、かつて新聞のコラムにおいて「保守」に関する興味深い見方を披露しています。

保守の真髄は、人間の感情や思い込みが過激に走ることに対して、疑いの目を向け、熱を冷ますところにある。極端から中庸に復元する力が保守の真骨頂である。
歴史上、左翼の方に激情型のおっちょこちょいが多かったので、保守は左翼に冷水を浴びせてきた。

山口二郎 2012年9月30日東京新聞・本音のコラム

この国にとって悲劇的なのは、”反日極左” と化した安倍首相に対し、冷水を浴びせられる人間がもはや誰もいないことなのです。

【おまけ】こんなオチもあります

 大学時代の安倍兄弟を教えた教授が10年程前、筆者の取材に手厳しく語ったことがある。

「安倍君は保守主義を主張している。それはそれでいい。ただ、思想史でも勉強してから言うならまだいいが、大学時代、そんな勉強はしていなかった。ましてや経済、財政、金融などは最初から受け付けなかった。卒業論文も枚数が極端に少なかったと記憶している。その点、お兄さんは真面目に勉強していた。安倍君には政治家としての地位が上がれば、もっと幅広い知識や思想を磨いて、反対派の意見を聞き、議論を戦わせて軌道修正すべきところは修正するという柔軟性を持ってほしいと願っている」

 総理大臣に上り詰めた今の安倍の政治手法を見ると、恩師の願いが通じているかは甚だ疑問に思える。

野上忠興『安倍晋三 沈黙の仮面』(小学館)

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