ユニバーサル・ベーシック・インカムの社会実験がドイツで始まった!~日本はUBIの潮流についてゆけるか?

国際社会

Introduction:これは新型コロナの世界的な感染拡大により、経済支援のために国民へ「現金給付」したのが発端です。ドイツやアメリカを初め、世界の各国が経済的に打撃を受けた生活困窮者救済のために現金を配りました。

これを機に「ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)」は、世界中で熱い議論が交わされるようになりました。このBIとは、最低限の生活を送るため必要とされる現金を定期的に支給する制度です。

日本でも定額給付金として「一律10万円」が全国民に給付されたことは記憶に新しいところです。さて、日本はこの新しい世界の潮流に、ついてゆくことができるでしょうか?

ドイツは120人を対象に毎月15万円を給付!

新型コロナ禍にあって、ドイツの対応の迅速さは目を見張るものがあります。
コロナのために仕事を失った人への給付金が、申請したわずか2日後に「5000ユーロ(約60万円)が振り込まれたといった逸話は、私たち日本人を大いに驚かせました。

そんなドイツが「ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)」の調査研究を開始したと、8月19日のイギリス『THE TIMES』電子版が報じています。

◆ 出典記事 ◆
 『Germans sign up for universal basic income』

 ~2020.08.19 THE TIMES~

この記事によれば、ドイツ経済研究所がユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)の社会実験を始めることになり、被験者として選ばれた120人は今後3年間にわたり毎月「1200ユーロ(約15万円)」を受け取ることになります。

ちなみに、この1200ユーロはドイツの貧困ラインを少し上回る程度の額です。

その後、研究所は1380人の現金支給を受けていない人々との比較検証を行う予定でいます。この社会実験には民間から14万件もの寄付が寄せられており、ドイツ国民の関心の高さを伺わせます。

アーティストたちが立ち上がった

ドイツではアーティストを中心に、ユニバーサル・ベーシック・インカムを求める声が高まっているといいます。

というのも、彼らの収入は他の職種と比べると一様に低いためです。平均年収で言えば画家の場合「12000ユーロ(約140万円)」、オペラ歌手が「11200ユーロ(約130万円)」、そして、前衛芸術家となると「9100ユーロ(約105万円)」といった具合にです。

そんな中、著名なデザイナーによるUBIを求める電子署名には40万筆以上もの署名が集まり、同様に声楽家が行った電子署名でも30万以上もの署名が集まっています。

ベーシック・インカムはアメリカやスペインでも!

アメリカの場合

アメリカの場合、「ベーシック・インカム的」と言った方が正確かもしれません。アメリカで3月に可決された「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法案(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security:CARES法)」は、資格を満たしたアメリカ国民全員に「1200ドル(約12万)」を支給するといった内容でした。

さらに、民主党が提出した「緊急資金法案(Emergency Money for the People Act)」では、「16歳以上、年収13万ドル未満」のアメリカ国民に対し、毎月「2000ドル(約21万円)」を6カ月間支給することになっています。

つまり、新型コロナが終息するまでは、国が経済的に面倒をみようという考え方です。

スペインの場合

スペインのペドロ・サンチェス首相と社会保障大臣ホセ・ルイス・エスクリバは、最貧層の100万世帯に対して毎月の収入を保障する現金給付を、5月から実施することで合意。この法案は4月に議会に提出され、6月には施行が決定されました。

スペインの場合もアメリカ同様、国民全員に一定額を給付するユニバーサル・ベーシック・インカムとは若干異なり、実際の給付額は収入と扶養家族の数によって決定されます。85万世帯(250万人)を対象に、ひと月「462ユーロ(約57000円)」~「1015ユーロ(約126000円)」が支給されます。

ベーシック・インカムが上手くゆくとは限らない

フィンランドの場合

生活するための最低額が毎月支給されるなんて、私たち国民にしてみれば夢のような話ですか、もちろんこの政策が上手くゆくとは限りません。

フィンランドでは、2017年から2018年への約2年にわたってベーシック・インカムの社会実験が行われました。2016年の終わりに失業していた25~58歳の労働者2000人を対象に、毎月560ユーロ(約69000円)を支給し、雇用促進効果などを分析しました。

この実験によって分かったことは、ベーシック・インカムが幸福感増加などの効果は明白である一方で、雇用促進の大きな効果は見られなかったことです。

カナダの場合

2017年にカナダのオンタリオ州で行われたベーシック・インカムの社会実験は、世界最大規模と言われています。低所得者4000人を対象に、毎月「1320カナダドル(約107000円)」を約3年間にわたり支給するものでしたが、途中で財政が枯渇し1年で実験が中止になりました。

ユニバーサル・ベーシック・インカムの可否は、常に財源問題と表裏一体と見なされており、カナダでの実験頓挫はまさにこの政策の根本的問題を浮き彫りにした格好です。

日本でベーシック・インカムは可能なのか?

日本でも新型コロナへの経済対策として、定額給付金「一律10万円」が全国民に支給されたのは記憶に新しいところです。しかし、1回のみの給付では到底家計の足しにはならず、さらなる支給などは噂にも上らない有様です。そのような日本で、果たしてベーシック・インカムというものは実現できるのでしょうか。

このことについては、『週刊エコノミスト』(2020年7月21号)が極めて興味深い記事を掲載しています。この記事では一つの例として「所得税率56%で月8万円」のベーシック・インカム(BI)が可能であるとしています。


現行の所得税制では、年収500万円の給与所得者(3人家族、片働き、16歳以上の子供1人)の場合、年金・医療・介護の社会保険料(年間70万円)を負担した上で、給与所得控除、基礎控除、配偶者控除、扶養控除、社会保険料控除が控除された課税所得162万円に税率5%が課せられると、所得税は8万円1000円で、手元に421万9000円が残る。
同じ家庭に1人月額8万円(年間288万)のBIが支給された場合、年金保険料は不要となり、医療・介護の社会保険料28万円を負担した上で、給与所得控除と社会保険料控除を行った後の課税所得に一律56%の所得税率を掛けると、所得税は183万円6800円となる。しかし、BIを含めた家計全体の収入は788万円から社会保険料と所得税を差し引いても576万3200円が手元に残る。
出典:『週刊エコノミスト』(2020年7月21号)「特集 ベーシックインカム入門」〔P27〕
※太文字は筆者による。

また、同じ特集記事の中で、前日本銀行 政策委員会 審議委員の原田泰(はらだ ゆたか)氏は、実にシンプルに「所得税率30%で月7万円」を打ち出しています。

給与所得者にしてもフリーランスにしても、企業などが源泉徴収で3割抜いて税務署に納める仕組みにする。全ての人の年間所得は「自分の所得×70%+BI84万円」ということだ。
税率とBIの支給額のレベルが非常に重要だ。仮に月7万円で年間84万円とすると、税率30%では所得が280万円の人の税の支払いが事実上ゼロになり、それ以上稼いだ人は税金を払うことになる。これを月10万円、年間120万円にしてしまうと、所得水準で400万円まで税金を取れなくなることになり、税収が一気に減ってしまう。
出典:『週刊エコノミスト』(2020年7月21号)「特集 ベーシックインカム入門」〔P30〕
※太文字は筆者による。

ざっくりではありますが、日本でベーシック・インカムが可能かどうかを問われれば、とりあえず「可能」なのではないでしょうか?

誰が日本でUBIを実現するのか?

日本でユニバーサル・ベーシック・インカムを話をすれば、特に官僚は「財源云々・・・」を言い出して取り合わないでしょうし、利権や権力にズブズブの政治家たちは社会を大きく変革してゆくことに躊躇するでしょう(彼らの ”改革” は口先ばかりですから)

ちなみに、上述したスペインの政治体制を見てみると、ペドロ・サンチェス首相率いる『社会労働党』と、新興左派政党『ポデモス』との間で連立政権を組んでいることが分かります。

※『ポデモス』については以下の記事を参考にしてください。

ここでいう新興左派の『ポデモス』といった政党は、まさに「左派ポピュリスト」を体現する組織であり、このような政党が絡む連立政権がベーシック・インカム的な政策を打ち出すことは実に感慨深いと言えます。

そして、日本の場合、ベーシック・インカムを推進できそうな政党は、目下のところ山本太郎氏率いる『れいわ新選組』ではないでしょうか?

Video by :うた「デフレ脱却給付金(ベーシックインカム) 山本太郎 れいわ新選組」

上に紹介した動画はほんの一例です。これまで山本太郎氏はことあるごとにベーシック・インカムについて触れてきましたし、彼自身も進めたい政策の一つであると考えているようです。ただ、山本氏のベーシック・インカムに対する考え方は前提条件があったり、少々分かりづらい部分もあったりで、まだまだブラッシュアップする余地は残されていると感じます。

『れいわ新選組』が消費税を減税し、さらには消費税をなくしたいと考えていることは広く世間に周知されています。その一方で、ベーシック・インカムについては認知度で言えば消費税ほどではなく、これは一重に政策が整理され単純化されていないことに因るものと考えられます。

東京都知事選後にメンバーの失言問題が取り沙汰され、目下のところ沈降気味の『れいわ新選組』ですが、「消費税減税」と「ベーシック・インカム」を2大看板に据えれば、党勢復活の原動力になるのではないでしょうか。

まだまだ新型コロナの猛威が続く世界にあって、経済対策の潮流は『ユニバーサル・ベーシック・インカム(BI)』に傾くかもしれません。日本でこれが実現可能かと問われれば、もちろん可能ですが、政治家や官僚がそれを許さないでしょう。『れいわ新選組』のような政党が、政策の看板に掲げ広く世間に周知させることを期待します。

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