『自助・共助・公助』菅首相の呪いの言葉に騙されるな!

国内政治
菅首相

Introduction:菅首相が最初に発した『自助・共助・公助』ほど、このコロナ禍にある時代の空気にそぐわない言葉はありません。

菅首相が一体何を考えてこのような言葉を発したのか、私たちには知る由もありませんが、少なくともこの言葉は菅首相の正体を如実に表しています。

しかし、大部分の日本人は菅首相の正体を見誤っている、いや、完全に騙されていると言う他ありません。なぜなら、最新の世論調査もまた日本人の愚かさを如実に表しているからです。

人前では絶対に見せないであろう、菅首相の ”高笑い” が聞こえてくるかのようです。

菅首相の ”人柄” を信じてしまう日本人

◆ 関連記事 ◆
 『菅義偉「次期にふさわしい」38%の衝撃! 安倍首相の評価も”うなぎのぼり”の奇怪』

以前このニュースサイトでも紹介しましたが(上)、安倍政権の支持率について8月22日~23日に共同通信が行った世論調査では「36%」にまで低迷していたにも拘らず、その後、9月2日~3日の朝日新聞の世論調査で大反転、安倍首相を「評価する」との回答が「71%」にまで達しました。

この異様なまでの自民支持率大沸騰現象は、当時の菅官房長官に対しても有利に作用し、次の首相に「菅氏がふさわしい」との回答が同じ朝日の調査で石破茂氏を抜き「38%」にも達したわけです。

その後、菅義偉氏は官房長官から晴れて首相の座を手中に収めたのですが、菅内閣の支持率は相変わらず高い水準を維持しており、特筆すべきは、菅氏が首相となった9月16日とその翌日17日行われた、日本経済新聞社とテレビ東京が行った世論調査です。

この世論調査では、内閣支持率がなんと「74%」という結果が出ております。

これは政権発足時としては小泉内閣(80%)、鳩山内閣(75%)に次ぐ過去3番目の高い支持率となります。しかも、菅内閣を支持する理由として「人柄が信用できる」が「46%」で最も多かったことに日本人のリテラシーの著しい欠如、救いようのなさを感じずにはいられません。

おそらく、日本人の多くは菅義偉という人物がどのような政治家であるか、まるで分かっていないと考えられます。ここで菅氏の人柄を貶めるつもりはありませんが、かといって多くの有権者に慕われるほどの人柄でもないことだけは、はっきりと申し上げておきたいと思います。

秘書時代から頭角を現した

『雪深い秋田の農家の長男』として生まれた、といった菅氏の生い立ちには芝居じみた伝説をつくろうとする菅氏の意図を感じます。確かに雪深い秋田の農村の出身ですが、菅氏が生まれたのは比較的裕福な「兼業農家」です。

しかし、その後は東京や横浜といった都市部で政治活動を行っており、全く地盤が無かったというのはその通りでしょう。そんな菅氏は ”叩き上げ” というよりは ”成り上がり” といった方が良いかもしれません。

では、なぜ菅氏はここまで成り上がることができたのか?
それは一重に産業界からの後押しがあったからに他なりません。

菅氏の政治キャリアは、衆議院議員・小此木彦三郎氏の秘書になったことから始まります。

小此木彦三郎氏は横浜市議会議員から衆議院議員となり、中曽根政権の下で通産大臣、竹下内閣で建設大臣を務めた運輸族議員として知られる中曽根派の重鎮でした。当時、小此木氏は6人もの秘書を抱えており、菅氏は7番目の最も下っ端の秘書から政治のキャリアをスタートさせたわけです。

小此木氏は運輸族議員だけあって、鉄道会社には非常に顔が利いていました。横浜には多くの鉄道が乗り入れていますので、東急電鉄、京浜急行電鉄、小田急電鉄、相模鉄道電鉄などの関係者らとは深い関係にあったわけです。

そのような環境の中で頭角を現し、先輩秘書らを尻目に菅氏は秘書の筆頭格までのし上がっていきます。その意味では、菅氏は文字通り「仕事ができる」人間であることには間違いないと言えます。

菅氏の仕事ぶりについて、支援者は口を揃えてこう言います。
「菅さんはとにかくマメで仕事が早い」
また、菅氏と親しいベテラン議員も彼を評して「あんな頑固な奴はいないが、頼んだことは必ず、しかもすぐにやる」と言っています。

「小此木事務所には七人ほどの秘書がいて、トップが宮崎県西都市市長の息子でした。彼は大学時代に吉田茂の子分である広川弘禅のところで書生をしていて、小此木さんの秘書になったサラブレッドでした。切れもので、小此木さんが(第二次)中曽根内閣の通産大臣として入閣したとき、金庫番として重用していた。だからはじめは菅さんではなく、彼が通産大臣秘書官に任じられていた。ところが、彼より菅さんを支援する人がいて、後半の六カ月は菅さんが通産大臣秘書官になったんです。菅さんの経歴のなかに、初入閣の通産大臣秘書官と出てくるのはそのためです。それほど小此木さんや支援者の信頼が厚く、あっという間に先輩秘書を追い抜いていきましたね」

森功『総理の影 菅義偉の正体』(小学館)〔P116〕

産業界の代理人が自助を語るということ

小此木通産大臣の下で秘書の筆頭にのし上がり鉄道各社に知己を得た菅氏は、いつの間にか通産大臣秘書官の立場も得ました。このことは菅氏にとって大きな意味を持ちます。というのも、鉄道会社に顔が利くということは建設会社、ゼネコンにも顔が利くようになるからです。なぜならば、達道会社は鉄道工事や沿線の開発事業など、ゼネコンの出番に溢れているからです。よって、通産大臣秘書官は菅氏にとって飛躍するのに大いに役立つ職責になったわけです。

菅自身、高校時代の同級生などにも漏らしているが、通産大臣秘書官になったことが、その後の政治人生において重要だったという。むろん通産大臣秘書官としての仕事は、スキャンダル隠しだけではない。菅は秘書官として、直に霞が関の官僚と接し、産業界の知己を得ていく。それが今日の菅の財産となっている。

森功『総理の影 菅義偉の正体』(小学館)〔P118〕

鉄道、建設、そして、それらを束ねる霞が関官僚。
このような産業界関係者が菅義偉という政治家の基礎的な中核をなす要素だと考えられ、これが彼の原点でもありましょう。しかも菅氏は小此木通産大臣のスキャンダル隠しといった ”汚れ仕事” や、その他にも泥臭い仕事であっても眉一つ動かさず粛々と行うタイプの人間です。

このように無能な安倍首相とは異なり、菅首相は政治家としては有能なようですが、問題はその能力のベクトルがどこに向いているかです。

つまり、そんな菅氏が首相となった今、彼のやることは産業界を後ろ盾にした産業界の代理人としての「利権政治」ではないか? それ以外は彼の辞書にはないのではないか? ということです。

今後も菅首相は『GO TO キャンペーン』のような利権政治を進めるでしょうし、この『GO TO・・・』とて、関連企業との間に不穏な政治献金の流れがあることを一部週刊誌が早速伝えています。それでも、そのような形で日本の経済を回してゆくことが彼の政治そのものであるし、経済さえ回っていれば100点満点だと菅首相は曲解しているようです。

しかし、経済が回れば回るほど、そこから漏れ落ちる人間はどうしても出てきます。そのような社会から「漏れ落ち」「置き去りにされ」「忘れられた」人々を救うのが本来の政治の役割でしょうし、最近になってその重要性が世界的なレベルで叫ばれるようにもなりました。

しかし、菅首相にはそのような政治の世界観、政治哲学は一生理解できないかもしれません。そんな菅首相が放った言葉が『自助・共助・公助』だったわけです。これは私たちにとっては呪いの言葉に他なりません。一体誰がこんな言葉を額面通りに受け止めるというのでしょうか?

結局のところ新自由主義に行き着く

つまるところ菅は東北の田舎臭いにおいを周囲に振りまきつつ、田中角栄のような公共工事重視の地方土着型の政治家ではない。中曽根民活路線から連綿と続き、小泉純一郎が進めた規制改革、いわゆる新自由主義路線のレースに乗ってきた国会議員である。本人が意識しているかどうかは別として、そこでは旧田中派、つまり平成研の実力議員たちと衝突せざるをえなかったのだろう。

森功『総理の影 菅義偉の正体』(小学館)〔P183-P184〕

菅首相の政策、とりわけ経済政策は新自由主義に立脚していることで間違いないと考えられます。総裁選では『自助・共助・公助』をスローガンに掲げましたが、『自助』を最初に挙げたのも、自身が田舎出身で苦労して ”成り上がった” ことへの自負の表れであって、弱者に寄り添うような言動はこれまで一度もみられなかったことから、菅首相は田舎出身の成功者に典型的に見られる、成功することで田舎をむしろ排除してゆくタイプの人間だと思われます。そこが田中角栄とは決定的に異なる点です。

そんな菅首相の経済政策に大きな影響を与えているのが、パソナグループの会長であり経済学者の竹中平蔵氏です。

2005年11月の第三次小泉改造内閣で総務大臣に就任したのが竹中氏でしたが、その時の副大臣が実は菅氏でした。そして、郵政民営化の大きなうねりの中で現場作業に菅氏は邁進していったわけです。小泉純一郎が方向性を決定し、竹中平蔵がその内容を指示し、菅義偉が仕上げたという構図です。

菅氏には大きな転機が2つあると言われ、一つが前述した通産大臣秘書官に就いたこと。そして、もう一つがこの総務副大臣の就任でした。竹中総務大臣のもとで働いたことで、菅氏は実務型政治家として大いに評価が上がったからです。以来、現在に至るまで竹中氏との関係は続いており、今後も竹中氏は菅首相のブレーンの一人として機能するはずです。

そして、それを証明するのが今般の「デジタル庁」の新設です。
菅氏が ”縦割り行政” 打破のために「絶対にやる」と力んでいたのがデジタル庁の新設でしたが、実は竹中平蔵氏は9月3日に行われたロイター通信のインタビューの中で──
《新型コロナの感染拡大防止と経済回復という課題に直面する次期政権にとって、デジタル化の推進がその解決策だと強調。それが結果として地方経済の活性化にもつながるとし、「デジタル庁みないなものを期限付きで作ればいい」
──と述べているのです。

◆ 出典記事 ◆
 『コロナ渦中の企業支援、日銀になお役割=竹中平蔵・東洋大教授』

 ~2020.09.03 REUTERS~

ことほどさように、菅首相と竹中氏とは緊密な関係にあり、今後も竹中氏が菅政権の政策に影響を与えるだろうことは論を待たないのです。

以上のことから、一般の日本国民は菅政治についてどのようなイメージを持つのでしょうか? 筆者としては一部の富裕層や大企業にしか利益をもたらさない、偏向した実に殺伐とした冷徹なイメージしか湧いてきません。果たしてこれが政治と呼べるのかは疑問ですが──

日本人のリテラシーの欠如に呆れる

2019年2月26日 菅官房長官 記者会見/午後
※この記者会見では東京新聞・望月衣塑子記者の質問に対し「あなたに答える必要はない」と回答を拒んだことが問題視された。菅官房長官は翌日27日の会見で真意を表明したが、発言に対しては修正しない考えを示した。

官房長官時代から菅氏は冷たい記者会見をすることで有名でした。木で鼻を括った態度での話しぶりは ”菅話法” とも揶揄され、東京新聞の望月記者を引き合いに出すまでもなく、他の記者に対しても極めて無礼で尊大な会見を繰り返してきました。

この光景をまともな日本国民が見たのなら「菅氏は間違いなく不誠実だ」ということに気がつくでしょうし、最初に紹介した日本経済新聞社の世論調査でも菅氏に対し間違っても「人柄が信じられる」とは答えないはずです。

しかし、現実には半数近くもの人が「人柄が信用できる」と答えてしまうということは、そもそも菅氏のことなど ”何も知らない” のです。筆者のような生業の者ならいざ知らず、ごく一般的な市井の人々などは間違っても(たとえインターネットで公開されていようとも)官房長官の定例記者会見など見ないでしょうし、テレビのニュースでちらりと見る程度でしょう。

つまりリテラシー、「メディア・リテラシー」というものが現代の日本人には著しく決定的に欠如していることが、ここ最近の世論調査で明らかになっているということ。これは政治の腐敗以上に深刻な状況と言えます。いや、その認識は誤りかもしれません。S・スマイルズが『自助論』でも指摘したように「政治のレベルは国民レベル」であるならば、政治の腐敗と日本人のメディア・リテラシーの欠如はパラレルで起こっているものと思われます。

この状況に半ば呆れつつ、しかし解決の処方箋を見いだせないことに激しい憤りを感じる今日この頃です。

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