木村花さんの死とSNS誹謗中傷問題 ~インターネットの言論は規制されるべきか?

国内社会

Introduction:5月23日、女子プロレスラーの木村花さん(22)の死去を受けて、安倍政権が珍しく素早い対応を見せています。

高市早苗法務相は「スピード感を持って対応する」として、悪意のある投稿を抑止するため法改正を検討する意向を示しました。

政府は早速プロジェクトチームを発足させるようですが、座長が三原じゅん子・参議院議員というのには笑ってしまいました。なぜ政府がこうも早く対応するのか?政府の意図は何か?これですべて分かった気がします。

木村花さんの死を無駄にしないためにも、インターネット上の言論の扱いについては、拙速な議論は厳に慎むべきと心得ます。

誹謗中傷対策の簡素化を図りたいとする安倍政権・・・

※木村花さんの死は海外メディアでも大きく取り上げられた。写真は5月24日のニューヨークタイムズの電子版。
”Hana Kimura, Japanese Wrestler and Star of Netflix Series, Dies at 22”

女子プロレスラーの木村花さんが5月23日、東京都江東区亀戸の自宅マンションで急死したことが分かりました。享年22歳。死因は明らかになっていませんが、現場の状況から自殺を図ったものと見られます。

木村さんは女子プロレス団体『スターダム』の看板レスラーとして活躍、最近ではネットフリックスで配信され、フジテレビでも放映中のリアリティー番組『テラスハウス』にも出演していました。

死に至った直接の原因は、SNSに寄せられた数多くの誹謗中傷であったと見られています。出演していた『テラスハウス』での木村さんの行為に避難が集中し、特に Twitter では木村さんへの誹謗中傷が殺到、大炎上となりました。

今回の木村花さんの死はネット上でも大きな話題となっておりますが、これにいち早く反応したのは、意外にも安倍政権だったのです。

高市早苗・総務大臣は5月26日の記者会見で「スピード感を持って対応したい」とした上で、木村花さんが死去したことに関し、ネット上の投稿者の特定を容易にし、悪意ある投稿を抑止するための制度改正を取りまとめる方針を表明しました。

今回のように、ネット上における誹謗中傷を規制するための法律としては、「プロバイダ責任制限法」が挙げられます。

プロバイダ責任制限法とは何か

「プロバイダ責任制限法」とは、インターネット上で名誉毀損や著作権侵害などが生じた場合に備え、プロバイダや管理者に問われる責任性を規定した法律のことです。

この法律の下では、仮にSNSやブログといったWebサイトに誹謗中傷が投稿されたとしても、Webサイトのプロバイダや管理者はその責任を問われることはありません(責任は投稿した本人にあるという考え方です)
同時に、管理者やプロバイダは、問題のある投稿に対しては適宜削除する権利を有します。

よって、誹謗中傷などが掲載された場合、その被害者の申し立てが次の2つの条件を満たしていれば、プロバイダや管理者は投稿の削除や投稿者の情報開示に応じても構わないことになっています。

  • 情報開示を受けるべき正当な理由があること。
  • 権利侵害が明白であること。

また、誹謗中傷の被害者が損害賠償請求権を行使し裁判に訴える場合、正当な理由があれば、以下の情報をプロバイダや管理者に対し求めることができます。

  • 投稿者の氏名
  • 投稿者の住所
  • 投稿者の電子メールアドレス
  • 投稿者のIPアドレス
  • 投稿された日付と時刻

プロバイダや管理者の拠点が日本国内に存在するのであれば、投稿者の情報を特定すること自体、システム的なハードルは高くはありません。しかし、現実にはプロバイダや管理者は投稿者情報を開示しない場合が多く、被害者は投稿者特定のための裁判を行った上で、投稿者に対する損害賠償請求訴訟をするといったように、大変な労力が強いられることになります。

誹謗中傷対策の検討に入った安倍政権ですが、これらの一連の手続きの簡素化を図るのが狙いと思われます。

トランプ大統領の投稿にもケチがつく時代

【訳】郵便投票が詐欺的にならない可能性など、現実的にはゼロだ!郵便箱は強奪され、投票用紙は偽造される。さらに違法に印刷され不正に署名されるだろう。
カリフォルニア州知事は何百万もの人々に投票用紙を送付しているが、州内に住む者なら誰であっても、それがどのような方法であれ、投票用紙は容易く手に入るのだ。そして、その後に起こることは、いわゆる ”専門家” が、それまで投票など考えたこともない人々に対し、誰にどのように投票するのかフォローするのである。これは不正選挙になるだろう。あり得ない!

日本でのSNS投稿への規制の動きに対し、逆の指向性を持っているのがアメリカのトランプ大統領です。

彼は5月26日、郵便投票に関して2件のツイートを Twitter に投稿し、その中で「郵便箱は強奪され、投票用紙は偽造される」などと指摘。「これは不正選挙になるだろう。あり得ない!」と書き込みました。

このツイートに対し、トランプ大統領のツイートは ”誤解を招くおそれがある情報が含まれる” として、米Twitter社が注釈を入れたところ、トランプ大統領がこれに激怒。「Twitter は大統領選挙に干渉している。表現の自由を完全に邪魔している」と投稿し、「私は大統領としてこれを許さない」と述べた上で、何らかの対抗措置を執る考えを表明しました。

※赤で囲った部分がTwitter社が入れた注釈。米CNNテレビが郵便投票について報道したページにリンクが張られている。

つまり、トランプ大統領としてはSNSだろうが何だろうが「自由に発言させろ!」というわけで、彼のことですから実際に何らかの手を打ってくることは間違いないと思われます。

Twitter社がトランプ大統領の投稿に注釈を加えるのは今回が初めてです。これまでは原則として投稿者が投稿の真偽について責任を負うといった姿勢でしたが、新型コロナをめぐり偽情報が蔓延したことから、Twitter社は5月に運用の方針を転換。誤解を招くと思われる投稿については注釈や警告文を挿入する、有害な判断すれば削除するケースもあり得るとしています。

誹謗中傷への訴訟がトレンドになるかもしれない

プロバイダ責任制限法の改正と刑事罰化を求める署名サイト(Chage.org)

署名キャンペーンサイト『Change.org』では、インターネットの誹謗中傷について、先に紹介したプロバイダ責任制限法と刑事罰化を求める署名運動がすでに展開されており、5月30日現在、5万筆以上の署名が寄せられています(上の画像)

この署名運動の活動趣旨にはプロバイダ責任制限法を考える上で極めて重要なことが書かれておりますので、以下にポイントとなる3点を記載しておきます。この問題に関心のある方は署名するしないに関わらず、一度通読してみることをお勧めします。

  • 現行の「プロバイダ責任制限法」では、名誉棄損の成立までのプロセスが煩雑で、被害者側の時間的・金銭的な負担が大変大きい。
    • 悪質投稿者の氏名や住所を開示させるには、まず名誉棄損罪、侮辱罪に該当することを立件するする必要があり、その後に情報開示のための裁判所の仮処分を受けることになる。
  • 悪質な投稿に対し、現行法ではプロバイダの責任が問われないため、十分な防止措置が講じられていない。
  • プロバイダが悪質な投稿の削除に応じたとしても、実際に削除されるまでに長いタイムラグがある。

なお、いわゆる著名人(芸能人を始め、有名なブロガーや YouTuber まで!)への誹謗中傷、嫌がらせの実態、そして彼らが今どのような行動を始めているかの興味深い事実について、イケダハヤト氏 が YouTube で熱く語っています。こちらも必見です。

Video by :イケハヤ大学『【被害も告白】誹謗中傷すると裁判&逮捕される時代が、あと1年でやってきます。』

この動画を見て感じるのは、これまで誹謗中傷で泣き寝入りを強いられてきた著名人が、ある程度コストを掛けてでも賠償請求を行うことがトレンドになるかもしれないということです。

元ZOZOの前澤友作氏は「これから遠慮なく被害届を出す」と言ってますし、メンタリストDaiGo氏は『待ってろよアンチども。軍資金は、十分にある』といったように、強気の姿勢を見せています。

政権批判は誹謗中傷ではない事を安倍政権は理解しているか?

Video by :参議院自民党『安倍内閣総理大臣問責決議案反対討論:三原じゅん子(令和元年6月24日)』

インターネット上の誹謗中傷が年々深刻さを増す中で、プロバイダ責任制限法の見直しや刑事罰化の流れは当然であると考えられ、すぐにでも実現して欲しい課題ではありますが、ここに大きな落とし穴があります。

それはとりもなおさず、安倍政権がこれまでにない ”スピード感” で進めているということに尽きます。コロナ対策の遅さで国民的な批判を浴びた安倍政権が、なぜインターネットの誹謗中傷に関してだけはスピード感があるのか?についてです。

言うまでもなく、安倍政権はインターネット、特にSNSを目の敵にしています。4月7日の安倍首相の記者会見では、デマによるトイレットペーパー買い占めを引き合いに出し、SNSの動向に神経を尖らせている様子を醸し出していましたし、SNS対策として外務省に24億円もの予算を既に計上していることも分かっています。

◆ 関連記事 ◆
 
 『安倍首相 SNS規制に動く?~SNS封じ込めに外務省へ24億円!』

そして、先の「検察庁法改正案」において、Twitter ではハッシュタグ「#検察庁法改正案に抗議します」を用いた大規模なインターネット・デモが起こり、ついにはこの改正案が廃案になってしまったことが、安倍政権にとって決定的となりました。

つまり、このタイミングでの素早い反応は、安倍政権の狙いがSNSを規制し政権批判を封じ込めるつもりであることを雄弁に物語っているのです。

それにしても、プロバイダ責任制限法改正の元締めが高市早苗総務相であり、その対策プロジェクトチームの座長に三原じゅん子・参院議員が就いたというのには笑ってしまいました。

高市総務相と言えば、2016年2月、政治的に公平性を欠いた放送局は「停波(電波の停止)」するとも受け取れる発言によって物議を醸し、それ以前もNHKやテレビ朝日に番組の内容をめぐって介入してきた人物で知られています。

そして、三原じゅん子議員に至っては2019年6月の参院本会議の演説で「民主党政権の3年間は、はっきり言って無為無策だった」「民主党政権時代はどうだったか。まさに悪夢だったのであります」と、誹謗中傷とも受け取れる発言を繰り返し、極めつけは「民主党政権の負の遺産の尻ぬぐいをしてきた安倍総理に感謝こそすれ、問責決議案を提出するなど全くの常識外れ。愚か者の所業とのそしりは免れません。恥を知りなさい!と、民主党議員に対して ”恫喝” したことでも知られています(上の動画)

果たして、こういった属性の政治家らが、プロバイダ責任制限法を適正に改正することができるのでしょうか?

国民は既に、誹謗中傷の規制を口実にしたSNS規制の裏側に潜む自民党の魂胆を見抜いています。5月28日にはハッシュタグ「#政権批判は誹謗中傷ではない」を使ったツイートが9万件を超え、国内トレンドの1位にもなりました。

「小泉今日子」待望論

つまり、現在の安倍政権にはプロバイダ責任制限法といったSNS規制に関わる法の改正など、とてもじゃないが任せられないということです。

安倍政権はメディアに対し、恒常的な圧力と懐柔を繰り返し、さらには公文書の改ざんや破棄に手を染めてきました。そして、直近では黒川検事長の定年延長に関する法改正案について、安倍政権の恣意的運用が疑われ、最終的には麻雀賭博で辞任した黒川氏の処罰は安倍政権の恣意的な意向により軽く済んだわけです。

言い換えれば、安倍政権は国民との間に「信頼関係」が全く結べていないということです。

そんな中で、今注目を浴びているのがタレントの小泉今日子さんです。
検察庁法改正案に対しては、真っ先に「#検察庁法改正案に抗議します」のツイートを投稿することで、後に続く芸能人たちの先導役にもなりました。実際、彼女が政権に対して抗議のツイートをしたことが、多くの著名人に勇気を与えたことは間違いなく、この法案を廃案に追い込んだキーパーソンの一人と考えられます。

さらに彼女は安倍首相に対し──
「こんなにたくさんの嘘をついたら、本人の精神だって辛いはずだ。政治家だって人間だもの」と痛烈に批判。これには「#さよなら安倍総理」「#赤木さんの再調査を求めます」「#赤木さんを忘れない」のハッシュタグが付けられていたことは重要なポイントです。

森友学園問題で自殺に追い込まれた近畿財務局職員、赤木俊夫さんについては、氏の妻が先に紹介した『Change.org』にて「第三者委員会による再調査実施」の署名活動を展開し、30万筆以上の署名が集まっています。また、赤木さんの遺書と手記を全文公開した『週刊文春』(3月26日号)は発行部数のすべがて完売しました。

小泉今日子さんの赤木さんに関するハッシュタグは、森友問題についての国民の関心を喚起させることに寄与し、この問題が再び安倍首相を追い詰めることになりそうです。

このように、人に勇気を与えたり、人の記憶を喚起させたりすることは安倍首相が何よりも熱望し未だまったく掴み取れていない、政治家にとって重要な資質です。小泉今日子さんには、どうやらこれが備わっているかもしれません。

新型コロナでは、安倍首相の意識や採用した対策が主要国と比べ、まるで見当違いで周回遅れだったことが露になりました。一方、破天荒とも言われる小泉今日子さんは何周か先を走っている。

小泉今日子さんの国会議員待望論が一部で囁かれ始めている今、国会での高市・三原両氏とのバトルを夢見るのは、それはそれで悪くないかもしれません。

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