ノーベル化学賞 吉野彰さんが福島にやってきた!~福島知財活用プロジェクト 取材日記

吉野彰さんは「リチウムイオン電池がつくる未来」と題した特別講演を行った
(2020年1月22日 郡山市中央公民館 撮影:白坂和哉)

Introduction:リチウムイオン電池開発の功績が世界に認められ、2019年10月にノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんが、福島県郡山市を訪れました。

1月22日に開催された特許庁主宰のセミナー、『福島知財活用プロジェクト アイディア・技術をビジネスにつなげよう!』の特別講演を行うためです。

この中で吉野さんは、福島のビジネスマンや若者たちに、大きな気づきと共に熱いメッセージを残してくれました。福島県内には、高い技術力をもつ企業が多数存在しているからです。

実は、小惑星探査機「はやぶさ2」成功の舞台裏でも、福島県の先端企業が活躍していたのです。

輝くゴールの存在を信じる!

特別講演後の記者会見で質問に答える吉野彰さん
(撮影:白坂和哉)

『人生はマラソンに例えられますね。ランナーは苦しくとも一生懸命走りますが、なぜでしょうか?』
『それは、明確な ”ゴール” があるからです

『もちろん、研究生活では上手くいかない時もあります。さらには、生きてゆく中で、人は様々な壁にぶつかり苦しむことがあります。私にも勿論そのような経験はあります』

『でも、自分にとっての ”ゴール” が見えているか?』
『つまり、自分にとっての輝く ”ゴール” の存在を信じられるか?

『そういったゴールを信じることができれば、きっと壁は破れるし、物事はさらに上手く進展するでしょう』

――研究や勉強をしてゆく中で、吉野先生と言えども壁にぶつかったり行き詰まったりしたことはあるかと思います。そんな時、吉野先生はどのようにして気分転換や気持ちを立て直したのでしょうか?

特別講演会終了後の記者会見で、筆者の質問に対する吉野彰さんの答えは、『ゴールを信じる』ことでした。

このような ”ゴール” についてはビジネスの現場でもしばしば耳にします。「このプロジェクトのゴールは・・・」といったようにです。
ただ、この場合大切なのは、漠然とゴールを設定するのではなく、より具体的に、よりリアルに設定することなのだろうと感じました。

おそらく、吉野さんは「リチウムイオン電池を開発する」といったゴールではなく、「どのような仕様」のリチウムイオン電池を開発するのかといった具合に、詳細にゴール設定したのではと推察します。そして、必ずそのゴールに到達できると誰よりも強く信じたのではないでしょうか。

吉野さんは、福島県内には世界に通用する技術を持った企業が大変多いことを指摘し、県内の若者にとって活躍できる機会とチャンスは広がっていると呼びかけています。
私たちにとって、新たなゴール設定が必要なのかもしれません。

特許がノーベル賞の証拠になった!

特別講演では多数のスライドを使用。自身の生い立ちからリチウムイオン電池開発の苦労話、そしてノーベル賞をめぐる世界の動向まで、内容は多岐にわたった。
(撮影:白坂和哉)

人間の知的活動によって生み出されたアイディアや創作物、発明や音楽もそれに含まれますが、これらには財産的な価値を持つものがあります。それらを総称して「知財(知的財産)」と呼び、著作権、特許権、実用新案権などによって保護されています。

特別講演の中で吉野さんは、自身のノーベル化学賞について二つほど受賞理由を挙げてくれました。

一つは、スマートフォンなどに代表されるモバイル機器のバッテリーにリチウムイオン電池が採用されることで、現在の「モバイルIT社会」に大きな貢献をしたこと。
もう一つは、環境問題と経済活動を両立する「スマート社会」への実現に大きな期待が寄せられたことです。

そして、それらを担保した、つまり証拠(エビデンス)となったのがまさに知財(特許)だったわけです。

ここは大きなポイントです。
なぜ、今回の知財活用プロジェクトに吉野彰さんが招待されたのか。その理由がまさにここにあるからです。

すなわち、特許庁主催の『福島知財活用プロジェクト』とは、いかにして知財(知的財産)をビジネスに結びつけるかを考察し、その成果を共有するセミナーだからです。

そして、その成果は宇宙にまで及んでいます。
――小型惑星探査機「はやぶさ2」の成功です。

壮大なる宇宙探査!「はやぶさ2」

資料提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(ISAS)

2014年12月に打ち上げられた小型惑星探査機「はやぶさ2」は、約3年半もの歳月をかけて観測目的の小惑星「リュウグウ」に最接近しました。
「リュウグウ」とは、地球と火星の間を太陽を中心に公転している、直径約900mの小惑星です。

「はやぶさ2」はこの「リュウグウ」に、2019年2月に1回目のタッチダウン(小惑星表面への着陸)を行い地表からのサンプル収集に成功し、4月には拳銃の弾のような衝突装置を発射させることにより、小惑星表面に人工のクレーターを作ることにも成功。さらに、11月には2回目のタッチダウンにより人工クレーターからのサンプルの収集にも成功するといった神技を成し遂げています。

そして、今年2020年末には地球に帰還することが予定されているといったように、「はやぶさ2」のミッションとは壮大なる宇宙探査と言えましょう。

「はやぶさ2」では福島県企業が活躍!

(左から)
佐伯孝尚氏〔宇宙航空研究開発機構(JAXA) 宇宙科学研究所宇宙飛翔工学研究系 助教〕

野地英男氏〔NECプラットフォームズ株式会社 生産本部SC戦略室生産革新部シニアエキスパート〕
坂本智彦氏〔古河電池株式会社 技術開発本部開発統括部 LB事業推進部 部長〕
(撮影:白坂和哉)

『福島知財活用プロジェクト』では、「はやぶさ2」に携わる福島県内の企業関係者によるパネルディスカッションも行われました。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)、NECプラットフォームズ株式会社(福島県福島市)、古河電池株式会社(福島県いわき市)の各社代表による討論では、福島県の技術力の高さや、知財(知的財産)の重要性について活発な意見交換がなされました。

重要なのは、宇宙開発はプロジェクトの工程が長期にわたるために、積極的に知財化を図ってゆかなければ外国勢に先を越されてしまうということ。ここでも知財化による国際競争力の必要性が浮き彫りになりました。

▲ 佐伯孝尚氏 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
『小惑星「リュウグウ」への1回目のタッチダウンについては、当初の計画を変更。ターゲットマーカーを地表に事前投下し、周囲に65㎝以上の岩など、タッチダウンの障害となるような要因がないことを確認することができました』

▲ 野地英男氏 NECプラットフォームズ株式会社
『人工衛星の搭載機器は個々に電源を持ってはおらず、太陽電池(太陽光パネルからのエネルギー)からの電力で作動します。しかし、太陽電池の出力のままでは動作しないため、衛星用の電源機器は、太陽電池の電力を効率よく変換する役割を担います』

▲坂本智彦氏 古河電池株式会社
『「はやぶさ2」のリチウムイオン電池は当社が開発しました。スマートフォン程の大きさで、電圧36V、容量13.2Aを実現し、6年以上の寿命を誇ります。「はやぶさ2」にトラブルがあった場合、真っ先に連絡が入るので、ミッションが無事に終わることを願っています』

モデレーターは、会津大学 宇宙情報科学研究センター 上級准教授の平田成氏。小惑星「リュウグウ」の三次元形状モデル製作を担当。

エネルギー革命(ET革命)がもたらす新しい社会を目指して

この日集まった方々は、とても熱心に話を聞いておりました。
(撮影:白坂和哉)

最後に、再び吉野彰さんに登場していただきます。
今回の特別講演では、吉野さんの思い描く未来社会の動画、『エネルギー革命(ET革命)がもたらす新しい社会を目指して』も公開されました。

その動画では、バッテリーがもたらすエネルギー革命と人工知能により、電気自動車を自動運転する「AIEV」のコンセプトに基づく新しい社会が紹介されており、「スマート社会」の特徴を示している点において、実に刺激的な内容となっています。

※Webサイト:KRI Your Innovation Partner
※YouTube:Supervised by Dr. Akira Yoshino ”Energy is Changing The ET Revolution will Reshape the World”

『リチウムイオン電池に関する石黒正純氏のコメント』
吉野さんの業績のポイントは「エネルギー密度」にあるのです。
いかに軽い、小さなバッテリーに沢山のエネルギーをため込むことができるか?
従来の畜電池(バッテリー)の開発者は、そういった材料を見つけることが出来なかったのです。従来のバッテリーは「鉛」だったり「ニッケルとカドミウム」だったり。どれも重い「エネルギー密度が低い材料」ばかりだったのです。
吉野さんは電極に「リチウム」を使えばよいことを見つけ出し、バッテリーの重さ、体積を一桁小さくすることを可能にしたのです。
石黒正純氏のFacebook  https://www.facebook.com/profile.php?id=100018277234439

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コメント

    • 石黒 正純
    • 2020.01.28 2:23pm
      吉野さんの業績のポイントは「エネルギー密度」にあるのです。いかに軽い、小さなバッテリーに沢山のエネルギーをため込むことができるか?従来の畜電池(バッテリー)の開発者は、そういった材料を見つけることが出来なかったのです。従来のバッテリーは「鉛」だったり「ニッケルとカドミウム」だったり。どれも重い「エネルギー密度が低い材料」ばかりだったのです。吉野さんは電極に「リチウム」を使えばよいことを見つけ出し、バッテリーの重さ、体積を一桁小さくすることを可能にしたのです。

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