安倍首相はなぜ、たった2枚のマスクしか配ってくれないのか?

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Photo by : THE SANKEI NEWS

Introduction:──布製マスク2枚。ここまでくれば「悲劇」というよりも「喜劇」です。

志村けんさんがコロナ感染で亡くなったショックが冷めやらぬ中、今年はエイプリルフールどころではないなと思った矢先、安倍首相から提示されたコロナ対策案はジョークにしても極めて悪趣味ですが、なんと! 彼は本気のようです。

主要各国では現金の直接支給が決定され、既に実施されている国もある中で、日本は「1世帯あたりマスク2枚支給」なわけです。

第二次安倍政権が発足してから約7年。歴代屈指の長期政権の集大成が ”マスク2枚” とは! まるで出来の悪いディストピア小説を読んでいるかのようですが、では一体なぜ、安倍首相はたった2枚のマスクしか配ってくれないのか? 今回はその背景を探ります。

安倍首相、2カ月掛かってマスク2枚配布を決定!

4月1日、首相官邸で開催された「新型コロナウイルス感染症対策本郡会合」で、安倍首相は政府が布製マスク1億枚購入し、5000万の全世帯に ”2枚ずつ” 配布することを発表しました。

日本郵政のシステムを活用し、4月の中旬以降に感染者の多い都道府県から順次発送を開始するとのこと。

新型コロナウイルス対策に対し、安倍首相はこれまで約2カ月もの間「大胆で」「思い切った」「前例のない異次元対策」を模索してきましたが、その想いがついに結果として提示されたのが、今回の「一家に2枚、布マスクを配布」なわけです。

▼ これまでの経過

  1. 国民に10万円を貸付
  2. 国民一人に1万2千円を支給
  3. 国民一人に10万円を支給
  4. 国民一人に10万円支給を断念
  5. 現金でなくお肉券、お魚券を配布
  6. 申告すれば10万円支給するかも・・・
  7. 一家に2枚、布マスク配布を決定!!

しかも、たった2枚のマスクであっても配送コストはそれなりで、ざっと計算しただけでも47億円ほど掛かるのが分かります。
郵便料金94円 × 5000万世帯 = 47億円
もちろん、この郵送費は私たちの税金によって賄われます。

さらに布製でなくとも、多少値は張りますがマスクは Amazon でも購入が可能です。
(▲ 上リンク先)

今回の ”マスク2枚” は、これまでの安倍首相による政策の中でも群を抜いて印象深く、私たちはこのことを決して忘れはしないでしょう。その意味では、憲政史上に刻まれるであろう、実に凄まじい政策となりました。

日本はコロナ対策するにも金がない!

ではなぜ、この期に及んでも安倍首相はマスク2枚といった ”しょぼい” 政策しか打ち出せないのでしょうか?

それは 4/1現在、コロナ対策の予算が全くない、0円だからです。

つまり、本来は3月中に2020年度の予算案を修正し、財源を確保した上で早々にコロナ対策すべきところを、実際は2020年度予算案にコロナ対策費を盛り込まず予算を成立させたため、後付けで補正予算案を編成しなければならなくなったからです。このような ”牧歌的対応” により、コロナ対策はさらに1カ月以上遅れることになります。

安倍首相は「第1弾救急対応策」に103億円、「第2弾緊急対応策」には2715億円、合計2818億円投入しましたが、これらは2019年度予算の予備費(使途を定めない予算。国会の承認なしに政府判断で支出が可能)からの支出です。

ちなみに、この予備費は2019年度は5000億円計上されており、目下のところコロナ対策はこの予備費が頼りです。下表にも記載の通り、既に予備費から2000万枚のマスクを購入しており、さらに8000万枚を追加購入する予定です。

第1弾緊急対応策
(2月13日決定)103億円
検査システムの整備
観光業への貸付・保証枠の確保
雇用調整助成金の要件緩和
第2弾緊急対応策
(3月10日決定)2715億円
臨時休校に伴う保護者の休職取得支援
配布用として2000万枚のマスク購入
中小企業絵の資金繰り対策

ただし、予備費については2019年に発生した台風15号、19号の被災地再建支援として1300億円以上が既に使われており、2019年11月時点では残高は3050億円であったことが分かります。

◆ 出典記事 ◆
 『予備費1316億円を閣議決定 台風の被災地支援』

 ~2019.11.08 JIJI.COM~

そうすると、第1弾・第2弾の緊急対策で2818億円支出しているわけですから、現在の予備費残高は232億円しかありません。
◎ 3050億円 - 2818億円 = 232億円
また、マスク2枚の郵送には47億円掛かることが分かっているので──
◎ 232億円 - 47億円 = 185億円

つまり、マスク2枚の購入費やその他のコロナ対策費はこのわずか『185億円』の中から捻出するほかなく、なぜ安倍首相の対策が ”しょぼい” ものになってしまうかの原因もここにあります。前述した通り、2020年度予算を修正せず成立させてしまったがために、金がないのです。

そして、このような結果を主導したのは「財務省」です。
安倍首相は財務省に対してはまるで主導力を発揮できず、100%財務省の手続きに従っています。そのせいで、今現在コロナ対策するにも金がなく、対応そのものも後手後手になるという結果を招いているのです。

財務省はアンタッチャブルだ

2020年度予算は3月27日に成立し、安倍首相は翌日28日の記者会見の席上「緊急経済対策の策定と補正予算の編成をこの会見の後、指示する。今、まさにスピードが求められている。今後10日程度のうちに取りまとめ、速やかに国会に提出したい」と決意を表明しましたが、この圧倒的なスピード感のなさに形容する言葉もありません。

2020年度の予算成立時点ではコロナ対策費は0円です。その翌日に記者会見を開き「これから10日程かけてようやく予算をつける」と言っているわけですから、スピード感の欠片もありません。

それでも、もしかしたら安倍首相は本来あるべき、もっとドラスティックな対策を求めていたかもしれません。

2020年度予算案を思い切り修正したかったのかもしれませんし、野党はもとより最近では与党の若手議員らからも声が上がっているように、消費税を減税したかったかもしれませんし、大胆なまでに赤字国債を発行し多額のお金を国民に直接給付したかったのかもしれません。

しかし、それは許されないのです。
そういうことは「財政規律主義」「財政均衡主義」を旨とする『財務省』が絶対に許さないのです。
そして、財務省はある意味、アンタッチャブルな存在です。

財務省の緊縮財政は有効なのだろうか?

財務省はかねてより日本には1000兆円を超える借金があると主張しており、これを健全化することが財務省にとっての大きな使命となっています。財務省に言わせれば「日本は未曽有の借金を抱えているため、このままでは国が破綻してしまう。よって、プライマリーバランス(PB)を黒字化させなければならない。しかも、2020年までのPB黒字化は「国際公約」にもなっている!」ということに尽きます。

ゆえに、財務省では「財政規律主義」「財政均衡主義」⇒「緊縮財政」が基本路線となっており、財政破綻を防ぐ観点からも消費税の減税・廃止や多額の赤字国債発行などは論外と考えています。

しかし、日本のように通貨発行権を持った、しかも、債務も自国通貨建ての国家の破綻というのは果たしてあり得るのでしょうか?

というわけで、ここに一冊の興味深い書籍を紹介します。

 米ドルは、国際的に認められた貿易決済通貨である。事実、アメリカは対外貿易を決済するのに、これ以外の通過をほとんど使わない。ということは、他国にしてみれば、なんとかしてドルを稼ぎ、貯めなければならないわけである。ドル建ての外貨準備を行い、いろいろな輸入品に対する支払い要求に備える必要がある。もしドルを使い果たして、よそから借りることができなければ、必要とする緊急物資や希望する贅沢品を買えなくなる。

 これはアメリカ自身には当てはまらない。必要なだけのドルは、みんな自分の手もとにある。なければ札束を印刷するだけだ。アメリカの貿易相手国にとって、これは一つの巨大な「グリーンバック帝国」にのみ込まれたようなものである。通貨面から見る限り、それはただアメリカ国内経済を外国に延長したに過ぎない。一言でいえば、この章の冒頭でも述べたように、アメリカに「対外貿易」はないのである。純粋な意味でアメリカの国内経済は健全かと言えば、心配の種が山ほどあるが、少なくとも「統計上の貿易収支」はその一つではない。

大前研一『ボーダレスワールド』(プレジデント社)

アメリカのドルは基軸通貨になっており、アメリカがオレンジをカリフォルニアから買っても、外国から輸入しても、ドルで決済するといった国の借金という意味において全く変わりはありません。ゆえに、アメリカでは「国内貿易」も「対外貿易」も同義であり、これをして大前氏は『アメリカに「対外貿易」はない』と言っています。

ここで重要なのは、米ドルが基軸通貨であるということの意味です。もし、貿易相手国に支払うドルがなければ、上記引用にもあるようにドルを印刷すれば事足りるからです。
だからこそ「統計上の貿易収支」は全く問題とならず、このことはつまり、アメリカが貿易で破綻することはない、といった事を意味しています。

これをさらに推し進めると、仮にアメリカが赤字国債を発行しても(日本は大量のアメリカ国債を抱えていますが)、債権者が国内のアメリカ人であれ、海外の外国人であれ、返済する際はドルを支払うことにおいて変わりはないということです。また、このことで国内外にドルがダブついてくれば増税によってインフレの調整も可能でしょう。

このことは、最近注目を浴びているMMT(現代貨幣理論)にも通底する考え方のようにも思われます。
しかし、大前研一による『ボーダレスワールド』は、なんと30年前の1990年に出版されたものです。この辺が実に興味深い。お金の基本的な考え方は、あまり変わらないのかもしれません。

先ずは政府が支出せよ!

日本国内に目を転じてみましょう。
ドルが基軸通貨である限りアメリカの国家破綻は考えられないように、9割以上が自国通貨(円)建て債務を持つ日本も、やはり破綻など考えられません。

今回の新型コロナウイルス感染症被害といった未曽有の危機に対しても、大規模な赤字国債を発行し、国民に直接支給することによって市中にお金を流すことは、むしろ有効な「経済対策」と言えるでしょう。

ハイパーインフレを懸念する声もありますが、むしろ日本はこの30年間デフレスパイラルから抜け出せない状態でもあるため、むしろ多少のインフレは許容範囲であるはずです。しかも、それが2%程度のインフレを呼び込むのであれば、まさにそれこそが安倍首相が目指した「アベノミクス」なのではないでしょうか?

MMTの発想で言えば、政府が消費税など徴税を課すのはスタートではありません。先ずはお金を発行する、国債を発行するといったように、政府の支出が先にとなります。

言い換えれば、国民からの税金が予算の財源となるわけではなく、政府が国債を発行することで事実上のお金を発行し、それが予算の財源となります。
そして、過度のインフレにならないようバランシングを図るための手法が「税」ということになる
わけです。

──なぜ財務省はこのような政策に手を染めようとしないのでしょうか?

仮に、前例のない異次元の財政対策をやるとするならば、コロナウイルスが蔓延する今この時以外にないと考えるのは筆者だけでしょうか?
今、大規模な国債を発行すれば有効な経済政策として確実にワークすると考えます。

しかし、政権は目下のところ ”マスク2枚” といった冗談のような政策でお茶を濁しています。
安倍首相が無能で常に後手後手に回っているのは周知の事実としても、根本的なところで政策の壁となっているのは、実は『財務省』ではないでしょうか?

 官僚が主役である時代はとうに終わっている。平成の官僚は決して有能な集団とはいえないし、国を動かすだけの力は持っていない。
 成長社会では、確かに官僚機構は力となったが、低成長期に入り、官僚の考えは現実の経済と社会に合わなくなった。

 官僚は、自分たちはパワーエリートだと思っている。そして、官僚の無謬性といって、自分たちは常に正しいと信じているので、旧態依然とした制度や論理から抜け出せず、外で起こっている激しい変化についていけない。その結果、官僚の発想は、時代に現実とは乖離しはじめ、現実の日本経済とぶつかるようになった。

髙橋洋一『さらば財務省!』(講談社)
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「省庁の中の省庁」とも言われ、日本の最も優秀な人材で構成される財務省。他の省庁とは一線を画す財務省がなぜ、日本を取り巻く危機に対し大胆な発想で臨まないのか不思議でなりません。

財務官僚は財政均衡には血眼になりますが、コロナ対策をどうするかについてなど全く考えません。当然と言えば騒然ですが、「それは我々の仕事ではない」と思っているはずです。

髙橋氏が指摘するように、財務官僚の旧態依然としたマインドが日本の危機的状況において、大きな足かせになっているのは間違いないと思われます。

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