Introduction:まるで「B級コメディ」ですが、これは歴然たる事実です。しかも、中央から遠く離れた地方都市、富山県富山市の田舎議員の間で偶然に起きた事件ではありません。
これは私たちの身近でも起きている、言わば日本の政治の縮図と捉えて間違いない。富山市議会の場合はあまりに状況が深刻過ぎて、むしろ悲劇というより喜劇と言う他なくなったのです。
この作品は、海外で公開しても大いにウケるのではないでしょうか?
その意味で、映画代1800円で日本の正体を知ることができる映画『はりぼて』は、コスパ最強の作品と言えましょう。
8カ月の間に14人の議員が辞職した!
2016年5月のことです。富山市議会が、議員報酬を60万円から一気に70万円に増額しようとした動きがそもそもの発端です。しかも、これらは全て密室談合で進められた可能性が高く、そこに至った経緯も判然とせず時間も掛けずに決定される ”お手盛り決議” だったわけです。
これに疑問を感じたのが、地元テレビ局『チューリップテレビ』の記者たちです。このチューリップテレビは平成元年に開局した新しいテレビ局。にもかかわらず、記者たちは地元市議会議員の不正を暴き、議員たちを ”ドミノ辞職” へと追い込んでいきました。
わずか8カ月の間、14人もの議員が辞職したのは驚くと言う他ありません。
しかし、あれから3年以上も経った2020年。不正防止の厳しい条例にも関わらず、不正が発覚した議員らは今も辞職もせず居直るようになりました。
映画『はりぼて』は、田舎で展開される腐敗にまみれた市議会議員の素顔、そして滑稽なまでの開き直りを余すことなく伝える政治ドキュメンタリーです。筆者はこの作品を観ていて何度も鼻先で笑ってしまいましたが、もちろんそれは私だけではありませんでした。
この大スクープはどのようにして生まれたのか?
あまり知られていないことですが、「富山県」は ”有権者に占める自民党員の割合が10年連続日本一” のバリバリの自民党王国、まさに ”保守王国” なわけです。
そんな中で、根拠なき議員報酬引き上げに疑問をもったチューリップテレビの記者たちは、当初の段階においてそれを究明すべく ”富山市議会のドン” こと中川勇・富山市議に直接取材を申し入れます。しかし、「国民年金は2カ月で6万円にも満たない。これでは後ろ盾がある金持ちしか議員にはなれない。こんなことで市はよくなるのか?」と反論され、彼らはいとも容易く ”ドン中川” に言い含められてしまいます。
それでは、ということで次に目星をつけたのが「政務活動費」
政策調査研究などの目的で月額最大15万円支給される「政務活動費」について、チューリップテレビの記者らは情報公開請求を行います。そして、この請求によって受け取った約9000枚にもおよぶ政務活動費伝票(領収書)を、なんと彼らは1枚1枚丹念に検証するといった途方もない不毛な作業に着手したのです。
膨大な量もさることながら、この調査には更なる大きな問題がありました。というのも、これら領収書の宛名には「自由民主党 富山市議会 様」「民政クラブ 様」といったように、政党名・会派名が記されているだけで個人名がまったく記載されていないのです。これは、領収書には個人名まで書かなくとも構わない取り決めがあるためです。
よって、記者たちは添付資料などの情報を頼りに、そして筆跡なども確認しながら、ひとり一人議員を特定していきました。なんだか信じられない、まるでスパイ小説のようですが、これらは歴然とした事実です。
そういった作業を繰り返す中で出るわ、出るわ──架空請求にカラ出張、そして領収書偽造といったような不正のオンパレード。そして、これら不正を行ったのは自民党会派に留まらず他党・他会派にも及んでおり、不正総額は4000万を超えました。
このことが、わずか8カ月の間に14人もの議員が辞職するといった前代未聞の大騒動へと繋がってゆくわけです。
また、中にはこれら不正追及の過程で、深夜に議会事務局の女性職員の机を物色し検察に起訴されるといった間抜けな議員も出る始末で、”保守王国” 富山市議会がどれほど腐っているかを如実に物語る結果になりました。
大きな腐敗の構造は森友問題とまるで同じ!
これらを単に ”腐敗した” 議員たちと呼ぶのはあまりに早計です。なぜなら、この腐敗の数々は議員個人のみならず、大きな構図の中で捉えるべき問題であることが判明しているからです。
例えば、公民会の一室を借りて数百人規模の「市政報告会」を行ったという名目で、高額の資料代、印刷代の領収書が残っている。しかし、後になって調べてみると公民館は使われた形跡はなく(そもそも政治的な集会には使用できない決まりになっている)、また数百人など到底収容できるほど大きな部屋もない。それでも、当の議員は「あれは別の会場に変更して──」といったように悪びれることもなく、余裕の態度でいる。
不審に思って印刷業者を調べると、印刷屋のオヤジさんが「昔はきちんと領収書を処理してたけど、今はそんなことしなくなった。まあ、彼とは長い付き合いだから──」といったように、割とすんなり罪を認めてしまうのです。
そして、極めつけは、市の事務局職員が「守秘義務」のある情報開示請求について、チューリップテレビの動向を逐一市議会議員の側へリークしていたことが判明するのです。当初の段階で、追及を受ける市議会議員は比較的余裕の態度でいられたのはこのためです。
「結局、彼らは私の上司のような存在ですから──」
情報を漏らした職員は苦し紛れの言い訳をし、その後は観念して事の全てを白状しました。
この構造は安倍政権下での森友問題とまるで同じです。つまり、ここでも公務員が政治家を忖度し、公務員としての本分を忘れ、政治家の意向に沿うような守秘義務違反といった犯罪めいたことすら行っていたのです。
”はりぼて” とは誰のことだ!?
ある意味、人間臭さにまみれた富山市議会議員の面々でしたが、その正体こそ ”はりぼて” の、地方に巣くう腐敗した議員連中です。しかし、そんな市議会議員だけが ”はりぼて” なのかと言えば、まったくそうではないことに私たちは気づくはずです。
それは議会の原則論のみを繰り返し、不正を繰り返す市議会議員に対しコメント一つ発信しようともしない役立たずの富山市長がそうですし、ひとたび不正議員が土下座すればいとも簡単にその罪を許すと公言して憚らない有権者もそうでしょう。
そして、そんな連中の周囲には守秘義務も守れない市職員を名乗る公務員や、汚職市議会議員と癒着する業者が張りつき、大きな ”インナーサークル” を形成している様子がありありと露出してくるのです。
さらには、今回大活躍した地元のテレビ局『チューリップテレビ』に象徴されるメディアも例外ではありません。それは映画の終盤にやってきます。
──映画『はりぼて』にビルドインされたラストに、あなたは形容し難い衝撃を受けるに違いありません。
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