菅首相に学術会議の任命拒否はできるか?不当な人事介入はこれで決着!

日本学術会議と菅首相
Introduction:首相に「学術会議」会員の任命拒否することは果たして可能なのか? 今回は菅首相による日本学術会議の、人事介入問題に決着を着けます。

──学者の代表機関である「日本学術会議」の新会員105名のうち、6名を菅首相が任命しなかったことが大きな問題となっています。

任命されなかった6名の中には安保法制、特定秘密保護法案、共謀罪法、そして沖縄普天間基地の辺野古移設に批判してきた学者が複数含まれており、政権にとって不都合な学者を排除するための不当な人事介入との見方が強まっているからです。

日本学術会議のあり方は「日本学術会議法」で規定されている

前提として「日本学術会議」は国の機関であり、経費は毎年国の予算から負担されています(※ちなみに2020年度の予算は10億4896万円です)
よって、国の研究機関で予算も国から支出されている以上、その運営や活動については「日本学術会議法」という「法律」によって規定されています。

日本学術会議を構成する学者たちは日本学術会議法では「会員」と呼ばれており、この会員の任命についても下記の通り法律で定められています。
(※赤字太文字は筆者による)

第十七条
日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。
第七条
日本学術会議は、二百十人の日本学術会議会員(以下「会員」という。)をもつて、これを組織する。
会員は、第十七条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する

この条文から分かるのは「会員は日本学術会議から推薦され、総理大臣から任命される」ということです。

しかし、この条文だけを読むと「任命権」といったものをあたかも総理大臣が保有し、総理大臣は「任命を拒否することも可能」であるかのように、短絡的に考える方も出てくるかもしれません。まさに菅首相や加藤官房長官などが、そのような ”残念な” 人々だったわけですが、会員の任命については憲法や他の法律と同様、条文を横断的に読む必要があります。

菅首相は任命拒否はできない!

結論を言えば、総理大臣は会員の任命に際し、拒否することはできません。

また、日本学術会議が推薦した会員でなければ任命することがかなわず、
逆に、日本学術会議が推薦していない会員を任命することもできません。
故に、日本学術会議が推薦した会員であれば任命しなければなりません。

総理大臣に任命の拒否権があるか否かについては、日本学術会議の本来の目的や役割、そして意義といったものから考える必要があります。
「日本学術会議法」の第一章がまさに「設立及び目的」を謳ったもので、いの一番に次のような条文が書かれています。
(※赤字太文字は筆者による)

第一条
この法律により日本学術会議を設立し、この法律を日本学術会議法と称する。
日本学術会議は、内閣総理大臣の所轄とする。
日本学術会議に関する経費は、国庫の負担とする。
第三条
日本学術会議は、独立して左の職務を行う。
科学に関する重要事項を審議し、その実現を図と。          
科学に関する研究の連絡を図り、その能率を向上させること。

この条文から分かるのは、日本学術会議は総理大臣が所轄し、活動費は国の予算から負担する、ということです。

さて、ここで言う「所轄」の意味について深堀りしたいと思います。
広辞苑では「所轄」について、次のように定義しています。

【所轄 (しょかつ)】
 ①管轄すること。また、その範囲。所掌。所管。
 ②〔法〕人事院等の独立性を有する行政機関が、内閣などの通常の行政機関の下に形式的に属すること。
※太文字は筆者による

②が極めて重要です。
法律用語で言う「所轄」とは、独立性のある行政機関が形式的に内閣などに属することを言います。
これを上記の第一条、第三条と合わせて考えると、独立性を有する機関である「日本学術会議」は、”形式的” に内閣(総理大臣の)に属していることが分かります。学術会議の多くのメンバーがこの問題に関し、「学問の自由」を強く訴えているのは、このことを強く意識しているからです。

このことを先人の政治家たちは、きちんと理解していたようです。
例えば、1983年5月12日の参議院文教委員会の席上、当時の中曽根首相は日本学術会議の会員選出について次のように答弁しています。

これは、学会やらあるいは学術集団から推薦に基づいて行われるので、政府が行うのは形式的任命にすぎません。したがって、実態は各学会なり学術集団が推薦権を握っているようなもので、政府の行為は形式的行為であるとお考えくだされば、学問の自由独立というものはあくまで保障されるものと考えております。

※太文字は筆者による

同様に、1983年11月24日の参議院文教委員会でも、国務大臣である総理府総務長官の丹羽兵助氏による答弁があります。

その推薦制もちゃんと歯どめをつけて、ただ形だけの推薦制であって、学会の方から推薦をしていただいた者は拒否はしない、そのとおりの形だけの任命をしていく、こういうことでございますから、決して決して総理の言われた方針が変わったり、政府が干渉したり中傷したり、そういうものではない。

※太文字は筆者による

つまり、先人の彼らが言っているのは、

「日本学術会議」については、内閣総理大臣が経費や事務上の管轄はできたとしても、指揮監督をすることはできない。
よって、会員の任命も形式的なものに過ぎない

──ということです。

しかしながら、総理大臣が会員の任命を形式的に行ってきた事実を「慣習」と捉え、そのような「慣習」を永遠に続ける必要はあるのか? といったような疑義を呈する向きも一部であるようですが、その認識は完全に誤りです。

これは「慣習」などではないのです。
これこそが日本政府の正式な法解釈であり、日本政府の公式見解なのです。
「法」とは解釈のせめぎ合いの現場とも言われています。現在、任命についての政府の公式見解が定まっている以上、これを変えたいのであれば法改正をする以外に方法はありません

故に、今回の日本学術会議の6名について、菅首相は任命が拒否できないばかりか、仮に任命を拒否した場合は違法の可能性すらあると考えられます。

菅首相や加藤官房長官は法を理解しているのか?

菅首相と加藤官房長官

日本学術会議の任命拒否問題について、政権からは全く説明がなされておりません。

加藤官房長官は10月1日の定例記者会見の場合において、今回任命に至らなかった理由を記者から問われましたが、人事の関することとした上で、候補者の選考過程や理由についての説明を拒否しています。

また、任命を拒否された学者 ”本人” が理由を知りたがっているにも関わらず、加藤官房長官は ”個人情報” を理由に説明を拒む有様です。

菅首相に至っては「法に基づいて適切に対応した結果だ」と、にべもありません。果たして彼らは「法」というものをきちんと理解しているのでしょうか?

これは学者といった狭い領域にとどまる問題ではありません。
菅首相も加藤官房長官も憲法や法律が定めたルールというものを、まるで分かっていないと感じます。そして、今回の事例で明らかになったのは、菅政権は法律に則って日本という国を動かすことができない、法治国家であることから退場しかねない可能性です。

つまり、学術分野だけでなく、あらゆる分野において法に従った行政が行われない可能性が出てきたということ。端的に言えば、菅首相のような暗く陰湿な権力者から、私たちの「自由」が奪われるかもしれないといったわかり易い構図でもあります。

このように、極めて危うい政権であるといった印象を一般に与えたことは、今後大きな形となって菅政権に伸し掛かると考えられます。

Last Updated on 2020-10-19 by この記事を書いた人:白坂和哉

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