「フレイル検診」とは何ですか?~老人にだけは手厚い日本政府

国内社会

Introduction:「フレイル検診」なるものを決定し、老人の ”心身のケア” に乗り出した日本政府。

確かに、高齢化社会は今後はさらに加速しますし、健康寿命を延ばすことで社会保障費を抑えたい、といった目論見は理解できます。

しかし、魂胆はもっと他のところにあるのではないでしょうか?

日本政府は若者を犠牲にして、老人の側に完全密着しています。

そもそも「フレイル」とは何か?

10月29日の読売新聞朝刊に、「フレイル検診」なる聞きなれない言葉が一面に掲載されました。どうやら高齢者の健康に関わる検診のようでもありますが、一体どのようなものなのでしょうか?

まず、「フレイル検診」について触れる前に、この「フレイル」の言葉の定義から始めましょう。

「フレイル」とは[Frailty(フレイルティ:もろさ、はかなさ、弱さ)]をもとに、日本老年医学会が2014年に提唱した造語です。
筋力などの身体機能が低下し、心身ともに弱ってきた状態を指します。

現在、65歳以上の約1割がこのフレイルに該当し、具体的には「認知機能低下」「うつ病」などの精神的疾患、「引きこもり」「孤立」といった社会性の欠如など、「要介護の手前の状態」を指します。

読売新聞の記事によると、厚生労働省はフレイルの人数を把握するために、75歳以上の後期高齢者を対象に、2020年度から「フレイル検診」を導入することを決定しました。

この検診により自立して生活できる健康寿命を延ばし、社会保障費を抑えるのが目的のようですが、実際問題、2040年度頃には医療や介護などにかかる社会保障給付費は、2018年度の約1.6倍、金額にして約190兆円にもなると想定されています。

「フレイル検診」実施に際しての質問内容

「フレイル検診」の実施に際しての質問内容
出典:厚生労働省保健局高齢者医療課
『高齢者の保健事業について』

確かに、この「フレイル検診」によって高齢者の病気予防や、社会参加が促されるのであれば大変結構なことではあります。

しかし、読売新聞の記事には明確に書いてありませんが、「フレイル検診」の目的は、端的に言うと「団塊の世代」対策となります。
そして、このことは「2025年問題」と絶妙にリンクしているのです。

「2025問題」とは、団塊の世代が2025年までにすべて75歳以上の後期高齢者に達することで、社会保障給付費の急増が懸念されている問題です。

よって、日本政府としては、団塊の世代が後期高齢者になり始める2020年からフレイル検診をすることで、今後の老人問題の対応を図っているわけです。

――と、書けば大変真っ当で、ありがたい政策のように聞こえます。
実際「フレイル検診」自体はそれはそれで問題はないのですが、政府の本質的な思惑はもっと、別のところにあると考えられます。

政府は若者を犠牲にして団塊の世代を守っている

上図は、22歳から29歳の男性における「日本の労働市場の変化」をグラフで表したものです。

1982年時点では正社員が75%であったのに対し、2007年になるとその割合は62%まで落ち込んでしまいます。
それに反比例して増えたのが「非正規」雇用です。1992年までは4~5%で推移していましたが、2007年になると15%もの割合に膨れ上がっています。

◆ 関連記事 ◆
 
『【悲しいお知らせ】消費税は再び増税されます ~団塊世代の利権を守る日本国家』

つまり、この時期に就職期を迎えた男性の多くは「非正規」や「無業者」になる他なく、一方、女性の場合はそれまで専業主婦だった層が、「非正規」へと一気になだれ込んだことが分かっています。

以前、このニュースサイトでも触れましたが(『【悲しいお知らせ】消費税は再び増税されます ~団塊世代の利権を守る日本国家』)、この時期は「自営業」の割合も減少傾向を見せ、1993年~2005年の「就職氷河期」に「非正規」や「無業者」になった若者たちは『ロストジェネレーション(失われた世代)』と呼ばれたのです。

つまり、平成時代の日本の労働市場は、若い男性の雇用を犠牲にすることで団塊の世代の雇用を守った、ということなのです。

自民党の支持世代を見ると謎が解ける

「就職氷河期」に政府は、若者の雇用を犠牲にしてまで団塊の世代の雇用を守りました。そして、団塊の世代が次々に後期高齢者へとなりつつある今、政府は「フレイル検診」なる施策を打ち出して団塊の世代の「心身のケア」に乗り出しています。

上図は、2013年~2017年における、世代別の自民党の支持率を表わしたグラフです。特徴的なのは、若者と高齢者の支持率が高い「U字型」になっていることです。

政府、すなわち政権与党が着目しているのが、まさにこういった現実だと推測できます。

若者の支持率が高いと言っても、投票者の絶対数が少ないために大きな票田にはなっていません。ところが、60代以上、特に70代以上はまさに団塊の世代に該当し、他の世代と比較しても人口が飛びぬけており、しかも、投票膣も高いことが分かっています。

政府は「フレイル検診」を打ち出すことにより、団塊の世代に ”シグナル” を送っているのです。それは、「決して政府は団塊の世代を無下にはしない」というシグナルです。

つまり、選挙の票を当て込んで、今のうちから種をまいておく。それが団塊の世代への「フレイル検診」の本質です。

政府は、若者を犠牲にして大票田である団塊の世代の世代の雇用を守り、今度は心と体のケアに乗り出しています。

次に起こるムーブメントは間違いなく、団塊の世代の「年金を守る」ことになるのは間違いないでしょう。そして、そのしわ寄せは間違いなく若者にくることになるのですが、どうやら大多数の若者はそういった現実に気がついていないと思われるのです。

多くの若者が選挙に行くことで劇的に政治を変えてしまう可能性があるのに、なぜそうしないのか、筆者には不思議でなりません。

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